第八十五話 女神の祝福
「お兄さまああああ!!」
「ち、ちょっと、まあす、ズルい!! お兄さま私も見て見て!!」
ブシュー鼻血噴いた。
い、いかん……早くも序盤からクラクラしてきた……。
まさか妹の双子たちがこんなに積極的だとは予想外だった。まさか浴室入ったらゼロ分でダイレクトアタックをかましてくるなんて……。
「天津命くん、あ、あんまり見られると恥ずかしいんだけど……触っても良いですよ?」
ちょっと待ってください霧野先輩。ま、まさか雅先生と同等……いやもしかするとそれ以上……だと!? だ、駄目だ……これは無理ゲ―。触るどころか直視すらできない。
「かすみ~、久しぶりにサイズ比べしましょうね~。天津くん、悪いんですけど、審判お願いね~」
み、雅先生……俺を殺す気ですか!?
え? サイズを測るだけ? うんまあそれぐらいなら……へっ!? 重量も!?
「むう、負けませんよ雅姉!! 三年前とは違うのです。成長期の勢いを見せつけてやるのです!!」
ぐはっ!? 暴力装置にサンドされて呼吸が……!? い、意識が朦朧としてきた……た、助けて、撫子さん!! 今日はまだ撫子さんの泡スポンジを堪能していないんだ!!
「うん? 呼んだか、みこちん?」
ぎゃあああ!! 目の前で杏を治療しちゃ駄目ええ!!
『命くんっ!? 大丈夫……命くん……』
桜花さんたちが遠くで何か言っているのが聞こえる……。
おかしいな……全然なんとかなってない気がするんだけど……
『おお命よ、気絶してしまうとは情けない』
……女神さま? 最近頻繁に出てきますね。
『あははははは、鼻血ブシューって、命くん昭和のマンガキャラみたい、あはははは』
昭和のマンガを知っているんですね。さすがです。
「あの……女神さまのすあま耐性の祝福、ちっとも役に立たなかったんですが?」
『あはははは、だってお風呂ですあま耐性が役に立つわけないじゃない』
「え? だってひだにゃんが……」
『冗談よ(ひだにゃんの)』
もう嫌だこの神々。
『まあでもあんまり刺激に弱すぎるのも問題よね……私で良ければ鍛えてあげましょうか?』
ふえっ!? め、女神さまが鍛えて……? え、えええ!?
『冗談よ』
わかってましたよ……嘘です。めっちゃ期待してしまいました。
『あら嬉しいわ。でも時間切れみたいね。じゃあね、ばいばーい!!』
何しに来たんだろ俺……最近遊ばれているだけのような?
「お、お兄さま、大丈夫か? いきなり気を失うから心配したぞ」
白い髪はまあすか。この子本当にお兄ちゃん子だよな。なんだか眠っていた兄心が刺激されるよ。
「心配かけたな、まあす。いつものことだから気にしなくて大丈夫だぞ」
ついつい、まあすの綺麗な白髪を撫でてしまう。気持ちよさそうに目を細める妹がかわいい。
「そうなのか? たしかに桜花さんたちもそう言っていたが。でもおかげでお兄さま成分をたっぷり摂取できたから、こういうのも悪くはないと思える」
お兄さま成分を摂取!? 何をされたのか怖くて聞けない。言われてみれば、まあすのやつ、顔赤いし、息遣いもはあはあしていて不審極まりない。
「まったく……まあすったら、女神さまからもらった祝福の力で身体を拭いて着替えさせる権利を勝ち取ったの。私だってやりたかったのに……」
まあすの祝福って兄関連無双とかいうやつだよな……思ったよりも危険かもしれない気がしてきた。
「あ、天津くん目が覚めたのね~。それでどっちが大きかったの~?」
雅先生、押し付けないでください。記憶が上書きされて……
「ああっ!? 雅姉ずるいです!! ほら天津命くん、ちゃんと触って確かめてください」
「ちょ、ちょっと待った、お兄さまとの憩いのひと時を邪魔しないでくれ!!」
「何言ってんのまあす、アナタはもう十分堪能したでしょ? お兄さま、サイズでは敵いませんが、私のすあまも触ってみて!!」
なるほど……これがすあまの感触なのか……ってそうじゃないっ!? このままじゃまた女神さまのところへ行ってしまう。
「むっ、これは主殿のピンチですね。今お助けします!!」
どこからともなく現れた杏が、俺を影の中に引きずりこむ。
「ありがとう杏、おかげで助かったよ。それで記憶は戻ったのか?」
「はい、おかげさまですべて思い出しました。正直思い出さない方が良かったかもしれませんが……」
「杏……余計なことをしてしまったかな?」
「いいえ、それでも思い出せて良かったです。これまでは仮初の人生を生きているようでしたから。これからは、自分の意志でしっかり主殿を支えていきます」
生まれ変わったような杏。心なしか声とか話し方も変わったような気がする。
「それでですね……手始めのご奉仕として、まずは主殿の貧弱な女子耐性を底上げしなければと思いまして」
おもむろに服を脱ぎだす杏。
「ち、ちょっと待った、何をするつもり……」
「やはりまずは女体に慣れることが肝要かと。どうぞ主殿のお好きなように」
「ちょっと待った。その役目は私が引き受ける」
理子ちゃん……なんで張り合ってんの? っていうかなんで脱いでんのさ。
「理子……私の邪魔をするのですか?」
「……もう命令に従う理由はない」
二人仲良くって言いたいけれど、それはそれで俺がヤバい。どうしよう……?
「はいはい、晩御飯出来ましたからそこまでにしてください」
「「「「はーい」」」」
ふう……葵、助かったよ。また女神さまのところへ行くところだった。
「お待ちくださいご主人さま」
「ん? どうした葵」
「夜のメイド服をお選びください」
カタログらしきものを渡される。
夜のメイド服だと……なんて魅惑的な言葉なんだ……ただのパジャマだとわかっているが。
「ふえっ!? な、ななな、なんだこれ!?」
セクシーなメイド服姿の葵が載っているじゃないか。ギリギリ見えそうで見えないのが男心をくすぐる。これがパジャマだと……? 絶対に眠れないやつじゃないか……俺が!!
「ふふふ、すべて非売品ですよ」
それはそうだろう。売っていたら1000%買っている。
「ちなみに他の許嫁の皆さまもお望みでしたらメイド服の指定が可能です」
「本当か、葵!!」
「冗談です」
くそっ、何度騙されれば気が済むんだ俺は。
「それで、何番になさいますか?」
「……じゃ、じゃあ⑦番で」
「……⑦番ですか。かしこまりました」
つまらなさそうにカタログを持ってリビングに消える葵。
くっ……一番無難なやつにしてしまった俺の意気地無し!!
ああ……カタログ欲しかったなあ……。言えるわけがないけど。
ちなみに今夜の晩御飯は鶏肉料理づくしだってさ。
チキンな俺にはぴったりだな。トホホ。




