第七十八話 初めての共同作業?
なんだかんだしているうちに、無事裏門に到着する。
ここから先は桜宮神社の敷地だ。
「とうとうここまで来たな、みこちん」
とうとうと言われても所詮うちの庭の中の話だが。
でも撫子さんとここでお別れしたのがもう何年も前に感じる。あの時はまさかこんなことになるなんて想像もしていなかったから。
さて、鍵を開けて桜花さんたちに合流……ってあれ?
「……鍵が変わっている!?」
いつの間にか錠前が見たこともないものに交換されているんだが?
こんなことが出来るのは桜花さんか桜花さんぐらいしかいないけれども。
「参ったな……仕方ないから柵を越えて行くか」
裏門の鍵を開けなくても、柵を越えて向こう側に行くことは可能だ。
柵に近づこうとしたら、腕を掴まれる。
「待てみこちん、あの柵には強力な結界が張り巡らされている。下手すると命を落とす可能性がある」
え……そんな物騒な結界張ってあるなんて知らなかったんだけど!? 怖いよ。
となるとやはり鍵を開けなければ先へ進めないということか……。
「……ご主人さま、この錠前ですが、何とかなりそうです」
先ほどから門を調べていた葵が頼もしい発言を。
本当か葵、さすがは万能メイドだな。
「ほら、鍵穴にそれぞれの名前が刻まれていますし、裏面に説明書きも……」
謎解き要素ゼロ!? まあその方が助かるから良いんだけどね。
なになに……許嫁三人以上の鍵を差して同時に回すと開く……なるほど。
「開け方はわかったけど、みんな鍵なんか持ってないだろ?」
「私たち、事前に桜花さんから鍵もらっているわよ命」
マジかよ……っていうか、なんで頭領の分まであるんだよ。名前頭領じゃないよね!? あ……ちゃんと(仮)って書いてある……仕事が丁寧!!
「よし、みんな差したか?」
せっかくなので、全員でやってみる。初めての共同作業……なんちゃって。
なーんて呑気に考えていた時もありました。
「くっ……また失敗か」
全員同時に回すというのが何回やっても上手くいかない。
おかしいな……誰か致命的にタイミングが合っていない人が……
『にゃふふ~ん。ふにゃああん。ここでフェイント!! 右に回すと見せかけて、左へ!! にゃふふ、誰にもタイミングを合わさせやしないのにゃあ!!』
人じゃなくて猫だったああああ!!!
『にゃああ!! 鍵を返してくれにゃああ!!!』
ひだにゃんの鍵を取り上げて霧野先輩に背負ってもらう。そこでじっとしていてくださいね。
ガチャリ
「おお……開いた!!」
ようやく神社に到着だ。
「待っていたよ命くん」
「桜花さん……」
言葉が出ない、まるでメデューサに魅入られ石化してしまったようだ。
桜花さんはいつもの巫女服ではなく、特別な化粧に艶やかな桜が散りばめられた衣装を身にまとっている。
どう見ても高校生の娘がいるとは思えない。完璧に維持された体型。豊満な一部分を除けば、可憐な美少女だろ。実際、娘である撫子さんも見惚れてしまっているもんな。
「母上……とても綺麗だ」
「そうかい? ふふ、ありがとう撫子。今日は私だけで申し訳ないが、一族向けの結婚式では皆同じように着飾ることになるから、楽しみにしておくといいよ」
みんなの着飾った姿を想像するとワクワクが止まらない。絶対に似合うだろうし。
でも……一族か。
黒津家のせいで、一族に対するイメージがどうしても悪いままなんだよな。もちろん雅先生みたいな人たちがほとんどだとは思うんだけど、実際どうなんだろう?
婚姻の儀式は本殿の地下で執り行われる。
あの……神聖な儀式なんですよね!? なんで怪しい邪教の儀式みたいになっているんですか?
てっきり明るい太陽の下でやるのかと思っていたから驚きだ。
『命、元々儀式は地下で行われていたのだ。かつて神々の国とは地中で繋がっていたからな』
そうだったのか……無知な俺をお許しください。女神さま。
『ちなみに、地下と近いは元々同じ言葉であった。誓いとも繋がってくる』
おお……なるほど、勉強になります。ひだにゃん先生!!
『駄洒落にゃあ』
……。
身を清め、白と桜色のシンプルな和装に着替えた俺たちは、秘密の通路を通って本殿の地下にある祈祷所へ移動する。
「お兄さま、この衣装すあま、すあま色、お揃い!!」
すあまとまあすがはしゃいでいるが、多分桜色だと思うよ。ここ桜宮神社だし。
「おお、たしかにすあま色だな。そうだ!! 桜宮神社ですあまを取り扱ったらどうだろう?」
「いいアイデアです撫子姉さま」
「うむ、悪くないな。さすが撫子姉さま」
「ふふふ、そうだろう? ずっと何か名物が欲しいと思っていたんだよ」
美しき姉妹愛だな。美少女たちがわいわいしている姿は控えめに言っても癒される尊さだ。
でも桜宮神社ですあまか……たしかに悪くないかもしれないな。
上手くいけば、賞味期限切れのすあまをもらえるかもしれないし。ふふふ。




