第七十五話 霧野先輩救出作戦
『おい命、女子が助けを求めているぞ』
……ひだにゃん、いきなり起きてきて何を言い出すんだ? 怪しい電波でも受信したのだろうか。俺は顔を食べられる正義のヒーローじゃないんだが。
『霧野かすみという女子、知っているんだろう? あと少しで殺されそうだぞ。どうする?』
「なっ!? 霧野先輩が!? 助けに行くに決まってるじゃないですか!! どこにいるんですか?」
『場所はわかるがちと遠いぞ。普通の交通手段では間に合わないかもしれん』
そんな……何か方法は……
「お兄さま、私たちがいるではないか」
「そうだよ、ほら手を出して。手を繋いでいれば一緒に転移できるから」
そうか!! すあまとまあすの転移なら……
「私も同行するわ命くん。命に係わる事件と聞いては放置できないもの」
「楓さん!! ありがとうございます」
めちゃくちゃ心強い。なんたって最強の死神刑事だし。
よし、すぐに出発……
「待って天津くん、折瀬さんと理子ちゃん、それから星川さんも連れて行った方が良いわ~。すあまちゃんとまあすちゃんは戦闘向きじゃないから~」
雅先生の言うとおりだ。俺はともかく、転移先ですあまとまあすを危険な目に遭わせるわけにはいかない。でもそれは他の皆も同じなんだよな……。
「何遠慮してるの? 私はアナタを守る。もちろん家族も。言っておくけど命に心配されるほど弱くないのよ?」
ゆり姉……ありがとう。
「嫌だと言っても付いて行くから安心しろ」
理子ちゃん……すまない。
「御主人さまのご命令とあらば、敵をせん滅することに躊躇いはありません。ぜひ連れて行ってください」
葵……人使いの荒い雇い主でごめんな。
「よし、それじゃあ頼む、すあま、まあす」
「あの……お兄さま、同行者はそれぞれ一人が限度だから、二人までなんだけど……」
え……そうなの? ごめんな勝手に話し進めちゃって。
「大丈夫だよすあまチャン。命くんの力で二人の神力は倍増しているからね。二、三人くらいなら余裕なはず」
「本当ですか桜花さん? でも……たしかに迷っている暇はないよね」
「ああ、今なら出来そうな気がする」
力強く頷き合うすあまとまあす。
『では行くぞ』
え……ひだにゃんもついて来るの?
『馬鹿者、我がいなければ場所がわからないだろうが』
たしかに。すっかり忘れていたけど一応神の使いだし、このひだにゃん霧野先輩からもらったんだよな。
全員輪になって手を繋ぐ。
「みこちん、霧野先輩を頼んだぞ」
任せて撫子さん、絶対に助けて見せるから。
「「行きます、転移!!」」
一瞬フリーフォールのような浮遊感を感じたと思った直後、周囲の景色が入れ替わる。
見慣れない部屋、そして……囚われのお姫様発見。
「天津くんっ!? ど、どうやってここへ? あと……その人たちは?」
どうやら霧野先輩が閉じ込められている部屋に無事転移できたみたいだ。
「あ~、説明すると長くなるから、詳しくは後で説明しますね。それより……」
「きゃあああああああ!!! ひだにゃんひだにゃんひだにゃん!!!!」
もふもふ歩いているひだにゃんを見つけて大はしゃぎの霧野先輩。
「あの……あんまり騒ぐと気付かれますから……」
「ひだにゃんひだにゃんひだにゃん、もっふもふ!! 動いてるの!! あはははははは」
駄目だ……正気を失ってやがる。
『何事ですかっ!?』
霧野先輩の叫び声を聞きつけて部屋に入ってくる黒ずくめたち。
まあ……そうなりますよね。
『むっ……貴様は天津命!? なぜここに?』
ん? 俺のことを知っている……? 何者だこいつら。
「霧野先輩を助けに来たに決まっているだろう? 悪いけどあんた達も逃がさないからな」
こんな危険な奴らをのさばらせておくわけにはいかない。
『なんですって? ふ、ふふふ、どうやってここに侵入したのかは知りませんが、まあいいでしょう、飛んで火にいる何とやら。かえって手間が省けたというものです』
リーダーっぽい奴が何やら笛らしきものを吹くと、黒ずくめの人間が二十名ほど現れる。
げっ……みんなを連れてきて良かったよ。俺一人じゃ絶対に無理だった。
『狙いは天津命だけです。それから銀髪の女は星川葵です。絶対に殺してはいけませんよ』
『『『承知!!』』』
葵のことも知っている? こいつらもしかして……?
「黒津家が非公式に飼っているという黒衣衆だと思います。ご主人さま」
葵が苦虫を嚙みつぶしたような顔をしている。やっぱり黒津家が絡んでいたんだな。
『ふふふ、こんな時におしゃべりとはずいぶんと余裕がありますね天津命。その油断が命取りですよ、リコリス今です!!』
リコリス? 理子ちゃんのことか?
「頭領……私は手を出さない」
『なんですって!? 裏切ったのですか、リコリス!!』
「裏切っていたのは黒津家の方……」
『何を言っているのです? チッ、まさかとは思うが懐柔されたのですか?』
「天津命、黒衣衆は黒津家に家族を殺され記憶を封じられた哀しき者たち。すまない、私は手を下せない」
何だよ……こいつらも犠牲者なのかよ。どこまでクズなんだ黒津家は!!
「理子ちゃん……理子ちゃんはどうしてほしいんだ? 言ったろ、何でも相談しろって」
「……助けて欲しい」
「わかった。じゃあ黒衣衆も助ける。葵、ゆり姉、すあまとまあすを頼む。理子ちゃんは守るぐらいなら出来るよな?」
「うん」
「よし、じゃあ楓さん、殺さないようにちゃちゃっと無力化しましょうか!!」
「……黒衣衆相手にずいぶん簡単そうに言ってくれるじゃない。ふふふ、さすがは私の旦那さまね」
ウインクして黒衣衆に対峙する楓さん。
「貴方たち運が良かったわね……私と戦って命が保証されているなんて」
うおっ!? 俺に向けられているわけじゃないのに凄まじい殺気がここまで……。
大丈夫だとは思うけど、あまり時間をかけるわけにはいかない。
女神さまにはあまり使いすぎるなと言われているけど、ここで使わなくてどこで使うんだよ!!
「行くぞ……黒衣衆」
『笑止、素人同然の構えだな天津命おおおお!!』
速い……この一瞬で複数の暗器が放たれている。間違いなく相当な手練れ。
でもな……ごめん、関係ないんだわ。
この俺の魔眼、サンクチュアリ(今考えた)の前ではな!!
誰も入れない俺だけが動ける聖域。それがサンクチュアリ!!(恥ずかしいから心の中で叫ぶ)




