第七十四話 双子の能力
「ええええっ!? 転移って……そんな馬鹿な!?」
突然部屋の中に現れたすあまとまあす。聞けば自宅から直接転移してきたのだという。
そんな馬鹿な。ファンタジー小説じゃあるまいし。
「本当だってば。実際に行ったことがある場所じゃなくても、住所とか写真とか、詳しいことがわかれば一瞬でその場所へ移動できるの。あまり遠くへは行けないけど」
距離が離れると精度が落ちるのと消耗が激しいので、隣の県くらいなら問題ないが、たとえば東京から北海道とか九州なんかは無理らしい。それでも十分すぎるくらいすごい能力だ。
「さすが天津家の血だな。素晴らしい」
撫子さんの言う通り、やはり天津家の、宗主家の血はすごいんだと実感せざるを得ない。何というかチートレベルな気がする。
「それで? お兄さまはどんな能力を?」
「私も気になる~」
すあまとまあすが瞳を輝かせている。
俺の固有能力……か。兄としてカッコいいところを見せてやりたいんだけど、正直言って妹たちの能力の方がよほどカッコいいしすごいからな。
ガッカリさせてしまうことになるかもしれないけど、仕方ない。
「あ~、俺のはたいしたことない。ちょっと時間を止めるだけだから」
「「……」」
すあまとまあすがポカーンと口を開けている。なんか可愛いな。
でもそうだよな……やはりガッカリさせてしまったか。すまない妹たちよ。不甲斐ない兄を許してほしい。
「な、何言ってるんだ、めちゃくちゃすごいぞ。はあ……私もお兄さまにめちゃくちゃにされたい」
ま、まあす? 気のせいかもしれないけど、この子ちょっと心配になるところがあるな。
「それ……もはや人間じゃないよ。さすが神さまお兄さま」
すあまの方がよほど神さま女神さまだけどな。
まったく……なんて優しい妹たちなんだ。こんな俺に気をつかってくれるなんて……
「いや、みこちんの感覚の方がおかしいぞ」
撫子さんの言葉にうんうん頷く許嫁のみなさん。みんなの優しさが心に沁みる……
「あはは、命くんは無自覚系主人公だったんだね」
桜花さんがなんか言っているけど、そんなことないと思いますよ? あ……でも鈍感系だったみたいだし……なんか自信なくなってきた。
「お兄さま……もしや、その力で時間を止めて私にエッチなことを?」
ま、まあす!? なんでそんなに嬉しそうなの? しないよ、そんなこと!!
「そ、そうなの? そんなことしなくたってお兄さまなら良いのに」
え? すあま良いの? ってそうじゃない。
風評被害はやめるんだマイシスター。ほら、みんなの視線が痛いじゃないか。
◇◇◇
「さてと……これでOKですかね」
一年かけて集めた生徒会長の悪行三昧の証拠。これだけあれば言い逃れ出来ないはず。
今日は日曜日だし生徒会室には誰もいない。
会長はもちろんですけど、あの豚市長の無茶な都市計画のせいで、うちの商売あがったりなんですからね。親子共々消えてもらうのですよ。にゃふふ。
「……っ!? 誰ですか!!」
誰もいないはずだったのに、急に気配が……しかも……複数!?
『ほお……我らの気配に気付くなんて驚きましたよ。霧野かすみさん』
全身黒づくめの連中が三……いや五人。
「……私のことを知っているんですか?」
『答える義理は無いですね。大人しく付いてくるなら乱暴にはしませんが、抵抗するなら……』
「……わかりました」
「……ここは?」
目隠しをされて連れてこられたのは、別荘のような場所。周囲は木々に囲まれていて、目印になりそうなものは見当たらない。
『……知ったところで意味はありませんよ。貴女には事故死ということで死んでもらいますから』
「っ!? 騙したのね!!」
『騙してなどいませんよ。乱暴にはしないと言っただけです。安心してください。眠るように死ねますから』
「……何が目的なの?」
『……たいしたことではありません。ただ貴女の行動が我々にとって不利益になりそうでしたのでね。あ、ちなみに助けを呼ぼうと考えるのはやめたほうが良いですよ。貴女のスマホは預かっていますので』
部屋を出てゆく黒ずくめ。
どうしよう……このままじゃ殺されちゃいます。
まだ死にたくない……来月の劇場版ひだにゃん観に行かないといけないし、渋谷のひだにゃんショップで大人買いするまでは死ねないのです。
あ……そうか、ひだにゃん!!
誰にも教えていない私の力。私の念を込めたぬいぐるみを通して見聞きしたり話したりできる。
天津くんに渡した限定ひだにゃんには、私の想い……感謝……? 違う……愛情……なのかな? よくわかりませんが、強い気持ちが込められていますから、きっと届く。
天津くん……お願い気付いて!!
『むにゃあむにゃあ……お布団あったかいのにゃあ……はうあっ!?』
丸くなって惰眠をむさぼっていたひだにゃん。突然届いた声に飛び起きる。
『にゃんと……これは大変にゃあ……』




