第七十三話 朝食ビュッフェと食後のコーヒー
朝食はスクランブルエッグとカリカリのベーコン、そしてふわふわのフレンチトースト。
そこまでは良い。
だけど……
「すげええええ!? なんだこれ……」
和、洋、中、数十種類のメニューがビュッフェスタイルで並べられている。ここどこのホテルだっけ? 俺んちだよ。
っていうか、どうやって作ったんだ?
「ふふ、御主人さまのお力を毎日いただいておりますので、料理のスキルが上限突破しているようです」
葵が自慢げに胸を張る。
「そ、そうか……」
もはやそういう次元じゃなくなっていると思うんだけど、俺も人のこと言えない身体になって来てるし、みんな喜んでいるからまあいいか。
片付けや洗い物をみんなで手分けして終わらせて、食後のコーヒーを楽しむ。
ああ……コーヒーが美味しい。
「これですあまがあれば最高なんだがな」
撫子さん……あれだけ食べてまだ入るのか!? っていうか、すあまとコーヒーって合うのだろうか? 食べたことないからわからない。
「……この泥水美味しい」
理子ちゃん……好きなだけおかわりしていいからな? みんなの視線が優しい。
「すあまとコーヒーですか~。すあまチャンが合うって言ってましたね~」
雅先生、すあまチャン知っているんだ!?
「すあまチャン可愛いですよね!! 私も好きです」
菖蒲まで知っているとはなんか意外。
「ああ、弓道部にファンクラブあるのよすあまチャンの」
ファンクラブだと……!? 弓道とすあまに何の関連が!? 茉莉も入っているのか?
みんながすあまチャンの話題で盛り上がっている。さすがは100万越えアイチューバ―半端ない。
「なんだそのすあまチャンというのは? 美味いのか?」
「ふふ、桜宮さん、すあまチャンは人間の女の子ですから食べられませんよ~」
「そうなのか? 残念だ」
撫子さん、雅先生、俺をチラ見しないでくれないか。たしかに俺は食べられるが、夜限定だ。
話に加わりたいところだが、下手にすあまチャン可愛いとか言ってしまったら、やはり許嫁の手前マズいよな? あまり気にされないような気もするけど。特に撫子さんとか筆頭に。
「ご主人さまもお好きですよね、すあまチャン」
「ふえっ!? そ、そうだな、可愛いと思うよ。すあまへの想いが迸っていて素晴らしいチャンネルだと思うし」
どうやら葵にはバッチリ見られていたらしい。
「嬉しいなお兄さま」
「あ、ありがとう……お兄さま」
突然現れた二人の美少女。髪色が白とピンクで異なる以外は見た目そっくり。
「「「「「す、すあまチャン!?」」」」」
「はーい、すあまチャンだよ~!!」
目の前にいるのは間違いなくすあまチャン。もう一人の子は誰? とか、どうやってここに入ったの? とか、色々聞きたいことは山ほどあるんだけど……
「「「「「「お兄さまって何?」」」」」」
当然すぎるツッコミが入る。
「ああ、そうか、自己紹介がまだだった。私は天津すあま、この子が双子の妹、天津まあす。命お兄さまの腹違いの妹っていうわけ。あ!! 雅さんお久しぶりです!!」
「大きくなったわね~すあまちゃん、まあすちゃんも」
「俺の……妹? 雅先生は知っていたんですか?」
たしかに異母兄弟がいるとは聞いていたけどまさか……
「もちろんよ~。私は一族最強の情報組織、『白衣衆』だからね~。知らないことはないわ~」
白衣衆? そういえばそんな話をチラッと聞いていたけど、情報組織なのか……。
「そんなことよりお兄さま、やっと会えたんだから、することがあるだろう」
えっと、白髪だからまあすちゃんか。え? することってなんだろう? な、なんかまあすちゃんの顔が赤いな。瞳もキラキラしているし。ま、まさか……ハグとか? いや待てそんなわけない。
「抱きしめて熱いキスに決まっている」
ブーッ!! コーヒー噴いた。
「はあ……まったく、ごめんなさいお兄さま。まあすったら非常識で」
「良いんだよすあまチャン。全然気にしてないし」
「まあす、まずは許嫁でしょ? キスはそれからだって」
ブーッ!! コーヒー噴いた。
「す、すあまチャン!? 俺たち兄妹だから……」
「あら、命くん、一族内では、兄弟同士の結婚は推奨されているのよ? 神の血のおかげで遺伝や病気の問題もないし、むしろ血が濃くなることで能力が高まることが多いんだから」
え……? そうなの楓さん。
周りを見渡すと、みんなうんうん頷いている。え? 知らなかったの俺だけ?
どうやら桜花さんたち年長組が許嫁心得とやらをみんなに教育しているらしい。いつの間に!?
「ふふふ、わかってもらえたみたいだな。さあお兄さま!!」
胸元に飛び込んでくるまあす。
「あ、ちょっとズルいよまあす!! お兄さま、私も!!」
すあまチャンも負けじと抱き着いてくる。
なんだこの状況……いきなり可愛い妹が出来て(同じ歳だけど)しかも双子で、許嫁で……。
いや、嬉しいんだけどね? 何ていうか会ってすぐにっていうのが何というか……まあ、今更なんだけど、妹だし……心の準備が欲しいなあとか思ってみたり……
「みこちん、兄としての威厳を見せつけるんだ!!」
「ご主人さま、頑張って!!」
くっ、やりにくい……せめて密室なら……っていうか兄の威厳って何?
「命くん、朝の鍛錬を思い出せ!! 流した汗は無駄にはならないよ」
桜花さん……別に汗は流していませんが。
くっ、もうどうにでもなれ!!
このまま長引かせても申し訳ないし、兄の威厳を見せつける。
「お、お兄さま……好き♡」
「い、妹相手に容赦ない。でもそこが好き♡」
目にハートマークを浮かべるすあまとまあす。
どうやら朝の鍛錬が効果を発揮したらしい。
でも俺の妹がこんなにチョロインなわけがない。兄として心配だ。
どうでもいいけど、また許嫁が増えてしまった……二人も。




