第六十九話 すあま食べ放題の無限ループ?
『あははははは、傑作だったわ~。びよ~んって、びよ~んって!!』
笑い転げる女神さま。貴女がやったんでしょうが。
ようやく眠れたと思ったら、いつの間にか女神さまの部屋にいた。
身体は……良かった元に戻っているみたいだ。あんな状態じゃ座ることも歩くことも出来ないからな。
『ごめんごめん、命くんの絵面があまりにも面白くて……ぷっ、思い出したらまた、あははははは』
「笑い事じゃないですよ、あれをやられる身にもなってくださいよ」
『慣れよ、慣れ。そのうちクセになるって。それよりも私もやってみても良いかしら?』
「……どうぞ」
どうせ嫌だっていってもやるんでしょう?
『わーい、びよ~ん、びよ~ん、ふふふ、楽しいわあ~!!』
楽しんでもらえたのなら嬉しいですけど、時間が無いんじゃなかったんですか?
笑われて終わりとか勘弁してほしい。
『大丈夫よ。一気に命くんの力が解放されたから、無駄口を叩く時間ぐらいあるわ』
そうか……たしかにこれで許嫁が9……いやひだにゃんを入れて良いなら10人?
一気に三倍以上に増えたわけで……。
『ねえ命くん』
「ふえっ!?」
いつの間にか隣に腰かけている女神さま。心臓を鷲掴みにされたようで、ドキドキが止まらない。女神さまの顔が近づいてくる。抵抗どころかまるで時が止まったかのように身動き一つ出来ない。
『味見させてもらうわね……』
かぷっ
首元にキスされたのかと思ったのは一瞬のことで……え……女神さまにめっちゃ食べられてるんだけど?
あっという間に身体半分ほど持っていかれてしまう。あの……味見の定義は?
『なるほど……これがすあまなのね……めちゃくちゃ美味しいじゃない。今度から私への捧げものはすあまにしようかしら』
すあまを食べたことが無い俺の体がすあまって……なんという皮肉。
『あら? 食べているわよ、前世でだけど』
憶えていないなら意味がないような……。
あ、そうだ……この体、朝になったらどうなるのか聞いておかないと……
『あら、それなら大丈夫よ。あくまで命くんの神力をすあまに疑似変換しているだけで体は元のままだから』
なるほど……肉体がすあま化しているのではなくて、神力がすあまになっているのか。ということは……俺の神力が食べられているってこと?
『そうよ、命くんのすあまを食べた許嫁はその分力が増すことになるわね。基本的に人間が持って生まれた神力の総量は変わらないんだけど、許嫁の場合例外的に相互に譲渡が出来るのよ』
なんか思っていたよりもすごいな許嫁!! 相変わらず許嫁の定義がわからないけど。
神力の譲渡だけなら別にすあまである必要はないんじゃないかとツッコミたいけど、そういうことだったのか。でも、そうなると俺の神力が無くなってしまうんじゃ?
『あはは、大丈夫、むしろ逆よ。命くんみたいな突然変異の半神半人、人々が稀人って呼んでいる存在は、この世界に留まるには力が強すぎるのよ。だから、覚醒すると同時に、許嫁といういわゆる安全装置に余分な神力を渡すことでなんとかこの世界の枠に収まるようにしているの。ちなみに完全に覚醒したら、その瞬間にこの世界からサヨナラすることになるから気を付けてね? まあそうなったら、私のところにいらっしゃい』
え……俺って半分神さまなの!? 神力の枯渇は心配いらないみたいだけど、この世界からサヨナラっていうのは怖すぎる。
『言い方を変えれば死ぬってことね。覚醒自体は成長と共に放っておいても進行するから、神力は増える一方。ちゃんと許嫁集めておかないと寿命が来る前に死んじゃうわよ』
ということは……許嫁集めは、俺の能力覚醒と同時にこの世界に留まるための安全装置でもあるのか……。
まあでも考えても仕方ない。やることは今までと変わらないわけだし。そんなことよりももっと重要なことがある。
考えてみたら俺、すあま食べ放題の無限ループじゃないか!! やっほい!!
とりあえず味見で指をかじってみる。
がりっ
「痛ってえええ!!?」
『ふふふ、残念でした~。自分の神力なんだから食べられるわけないじゃない。そんなことしても血と肉の味しかしないわよ?』
お腹を抱えて笑い転げる女神さま。
なんてこったい……女神さま、どうかご慈悲を。
『何甘えたこと言っているの? お金あるんだから、斉藤商店で買えば良いじゃない』
……なんで急に現実的な話になっているんだろう。まあそうなんですけどね。
『かわいそうだから一つだけ教えてあげる。命くんの止まって見える能力だけど、あれ、動体視力じゃなくて時間を止めているだけだから、使い過ぎるとどんどん老けるわよ?」
マジか……!? 道理で弾丸を止められるわけだ。
早めに教えてもらって良かった……調子に乗って使い過ぎないように注意しないと。
『あら、時間切れみたい。じゃあまたね~……』
部屋の輪郭が光に飲み込まれてゆく。
あ……ひだにゃんのこと聞き忘れた。
まあいいか。大事なこと聞けたし……ああ……やっと眠れる……。




