第六十八話 女神の加護
「「「「ええ~っ!? 神さまの使い」」」」
皆にひだにゃんを紹介するとめちゃくちゃ驚かれた。ぬいぐるみが動いて喋ったらそりゃあ驚くよな。それ以前に神さまの使いっていうのも普通なら信じてもらえないだろうし。そして……
「「「「きゃああ!? かわいい~!!」」」」
当然そうなるよな。ひだにゃんめっちゃ可愛いし。本当は俺も撫でまわしたいんだが、さすがに無邪気に輪の中に入ってゆく勇気はない。
『にゃふふふ、苦しゅうない。もっと撫でるがいいにゃ』
猫じゃないと本人は言っていたけど、どう考えても猫だろう。それにしても……ドサクサ紛れにやりたい放題だなひだにゃん。まあ猫だし……気にしたらいけないのだろう。
『ん? なんだ命、ぼけっと眺めていないでお前も我を愛でるが良い』
「え……良いんですか?」
『うむ、女子の方が好みだが、お主は許嫁だからな。特別に許可する』
ちょっと待て……猫のぬいぐるみが許嫁……だと!? っていうかメスだったのか?
『神の使いに性別などないわ!! そもそも許嫁とは本来神の名のもとに結ばれた契約関係にゃ。いつしか婚姻の意味を表すようになったようだがにゃあ』
「そ、そうだったんですね……勉強になります」
『今考えたにゃ』
……さすが女神さまの使い。反応に困る。
『冗談はさておき、早くモフるにゃあ!!』
色々ツッコミたいところだが、モフりたい衝動には勝てない。
「はあああ……すべすべ……もふもふ~……」
ヤバい……これは人を駄目にするヤツ。手がとまらない、とめられない。
◇◇◇
さてそろそろ寝る時間だ。
こうなってみると、女神さまが正しかったとよくわかる。カオスすぎてどうなるのか見当もつかない。
『案ずるな命。女神さまの加護があるだろうが』
いつの間に俺の肩に乗ったんだ? あと猫っぽい時とそうでない時の差はなんなの?
『気まぐれにゃあ』
……そうですか。でもさ、ひだにゃん、案ずるなって言われても、何も聞いてないし、何とかなるとは思えないんだけど。
『にゃはは、女神さまを信じろ』
まあ信じるしかないんだけどさ。
「あの……撫子さん、やっぱり全員は無理だと思うんだけど?」
幸い俺のベッドは広いから、寝るだけなら問題なく寝れるけれど、それじゃあ駄目なんだ。俺の力を覚醒させて、みんなの力を底上げするには密着して寝ることが必要らしいからな。
「ふふふ、大丈夫だみこちん。話はひだにゃんから聞いたからな」
目を輝かせる撫子さん。なんか怖い。っていうかなんでひだにゃん俺には教えてくれないんだよ?
『にゃふふ、その方が楽しめるからにゃ!!』
……神さまの使いなのに性格悪い!?
「ふふふ、じゃあおやすみみこちん!!」
もはや定位置となっている俺の背中に抱き着いて寝息を立て始める撫子さん。相変わらず寝つきの良さは異常。
「さてお邪魔するよ命くん」
「失礼いたします御主人さま」
桜花さんと葵が両手をホールドする。ここまでは今までと同じ。問題はここから。
「楓さん、本当に私たちが先で良いんですか?」
「良いのよ、菖蒲ちゃん。遠慮なくいきなさい」
次は菖蒲、茉莉、ゆり姉か……。
「か、勘違いしないでよ、許嫁だから仕方ないし、力を覚醒させるためなんだから」
「しょ、正面しか残っていないじゃない」
菖蒲と茉莉が両足をホールド、ゆり姉が正面から抱き着いてくる。俺に選択の余地などない。完全に抱きまくら状態だ。
背中の撫子さんを潰さないように上半身を半身捻っているから結構体勢が辛いし、両手両足をホールドされているから寝がえりすら出来ない。地獄ではあるけれど感触は天国そのものなので、仮にこのまま死ぬことになったとしても後悔することはない。
だが、俺の身体が一つしかない以上、これ以上は物理的に無理だ。
そのはずだったんだけど……
「ふふ、半信半疑だけど試してみましょうか」
楓さんが頭に馬乗りになってくる。ふわっ!? この体勢は刺激的すぎますって。
「あ、あの、楓さん!? な、何をっ!?」
「じっとしていてね。大丈夫、痛くないから……たぶん」
ニヤリと死神のような笑顔を浮かべる楓さん。
たぶんって……すごく嫌な予感が……!?
「えいっ!!」
頭を掴んでぐいっと引っ張る楓さん。痛い痛い、頭が取れちゃいますって!?
びよ~ん
「……え?」
首が……伸びた!?
「うわっ……本当にすあまみたいに伸びるのね……面白いわ」
マジか……俺の身体がモチみたいに……いやすあまみたいに伸びている。
まさか……これが女神さまの加護……なのか?
「……おい天津命、首を伸ばすな気持ち悪い……かじってみて良いか?」
理子ちゃん伸ばしたくて伸ばしたわけじゃないんだ。あとたぶん美味しくないと思うぞ。
ってもうかじりついている!?
「おお、ちゃんとすあまの味がする」
うわあああああああ!? 何食べちゃってんの理子ちゃん!?
いや全然痛くもかゆくもないんだけどさ。痛い痛くないの問題じゃなくて、部位が無くなったらやばいよね?
「あら~、食べた部分、すぐに再生するのね。これは興味深いわ~」
そう言いながら髪の毛を引きちぎる雅先生。あの……禿げたらどうするんですか!?
「んふふ、黒ゴマ味のすあまなんて初めて食べたわ~」
髪の毛が黒ゴマ味……だと!? くっ、俺も食べてみたいが身動きが取れない。
結局、適当につままれながら、皆思い思いの部位を伸ばして、抱き枕にして寝てしまった。
なんだこれ……このままだったら俺の身体ホラーなんですけど!?
朝になったらちゃんと元に戻るんですよね? ね?
『さあな? 女神さまに聞いてくれにゃあ……』
ひだにゃんもお腹が一杯になったのか、満足そうに丸くなって寝てしまった。
何しに来たのこのネコさん!?




