第六十三話 暗殺者は甘いものがお好き
<登場人物>
●桜宮 撫子
メインヒロイン。桜宮神社の看板娘で文武両道の大和撫子。正義感にあふれ生き物大好きな男子小学生のような女の子。命の最初の許嫁として、またムードメーカーとして増え続ける許嫁たちをまとめるリーダー的存在。天然属性あり。すあまの美味しさを知って以来その魅力にとりつかれている。
●桜宮 桜花
桜宮 撫子の母で未亡人。桜宮神社の神主で桜宮流舞闘術の達人。心を読む異能を持っている。命の両親とは親友。母親ポジションであったが、現在は命の許嫁ポジションにジョブチェンジしている。
●星川 葵
黒津家の長男、黒津頼人に婚約を迫られていたが、回避するために天津命のメイドとして接近。執拗な黒津頼人から守ってもらったこと、命の人柄に惹かれて許嫁となる。情報収集に特化した星川家の中でも、聴力に優れた異能を持つ。料理はプロ級。
●雨野 雅
命の担任教師で美術部顧問。背が低く中学生にしか見えない幼い見た目がコンプレックス。紅葉 楓とは幼馴染で同級生。命を陰ながら支える任務を帯びている。命の存在が公になる直前というタイミング、楓が許嫁になったことをきっかけに、しれっと許嫁に加わる。基本ゆるふわ。能力は不明。
●折瀬 百合
命の幼馴染で一つ年上の17歳。美術部副部長をつとめる。幼いころから命の身辺警護をしていたが、解任された後、許嫁となる。身体に触れることで心を読むことが出来る。
●紅葉 楓
政府直属の特命刑事。天津命を陰ながら警護する任務を負う。圧倒的な戦闘力と言い寄る男を虐殺し続けることから死神の通称を持つ。趣味は身体を鍛えること。年下と甘いものが大好き。警護対象者である命に想いを寄せていた。命と許嫁たちのボディーガードをする名目で許嫁となる。命の担任である雨野雅とは幼馴染で同級生。
●千家 菖蒲
千年以上続く茶道の名家の令嬢。高校では茶道部に所属している。千家家は天津家を陰で支える裏五家の一つで、命の存在を知る数少ない関係者。命とは幼いころに出会っており、想いを募らせていた。十年前の口約束から許嫁になる。
●那須野茉莉
名門那須野家の令嬢で弓道部のエース。桜宮撫子の親友。夜の街でチンピラに絡まれたところをに救われて天津命が気になり始める。黒津剣人とのお見合いで襲われるが、またもや天津命に救われて許嫁に。ツンデレ属性あり。
●彼岸 理子
黒津家が抱える暗殺者集団黒衣の者。事故死に見せかけて命を殺すように命じられたが、ぬいぐるみとケーキで命に懐いた。
「ただいま~、ケーキ買ってきたぞ」
人数も増えたことだし、追いケーキをたくさん買い込んできた。
「お帰りなさいませご主人さま……また新しい許嫁ですか? さすがです」
連れて帰った理子ちゃんを見て瞬時に状況を察知する葵。説明要らずとは、さすが優秀な万能メイドだ。
だがな葵、いくら俺でもそんなわけ……あるんだよなこれが。
「遅かったじゃない。べ、別に心配していたわけじゃないのよ……って、やっぱり女拾ってきてる……」
ツンデレモードから超ジト目モードになる茉莉。
拾ってきたわけじゃあないんだが、似たようなものだから何も言えない……。
「彼岸理子ちゃんだ。皆仲良くしてやってほしい」
「…………」
理子ちゃん……一心不乱にケーキを頬張っているから喋れない。
「さすがだなみこちん、隙あらば許嫁を手に入れてくるとは……私も鼻が高い」
撫子さんは安定の貫禄で大喜びしている。複雑だけど喜んでもらえて俺も嬉しいよ。
「あの……命さん、いくら何でも小中学生はマズいのでは?」
そうなんだよな……菖蒲の言う通り、どう見ても理子ちゃんは小学校高学年、中学生以上には見えない。それはわかるんだけど、さすがに雅先生をチラ見するのは失礼だと思うぞ。
「失礼な……もぐもぐ……私は……もぐもぐ……17歳……もぐもぐ……だ!!」
「「「「ええええっ!?」」」」
な、なんだと……理子ちゃん年上だったのか!? っていうか、食べるんだか喋るんだかどちらかにしないと喉を詰まらせますよ?
はっ……!? そういえばケーキを食べたことが無いっていってたな……もしかしてものすごく貧乏で発育が遅れているのか?
「理子ちゃん、ケーキ食べたことないって言ってたけど、いつも何を食べているんだ?」
「もぐもぐ……雑草と木の皮、あとはその辺の虫」
「「「「ええええっ!?」」」」
理子ちゃんの発言に衝撃が広がる。くっ……涙で景色が滲んで……。
「り、理子ちゃん、たくさん料理作りますから、たくさん食べてくださいね」
葵が泣きながら理子ちゃんの頭を撫でる。葵……理子ちゃん年上。
「そうだぞ理子ちゃん、たくさん食べて撫子おねえちゃんのように大きくなるんだ」
だからね、撫子さん、理子ちゃん年上。
「理子ちゃん、こっちのお菓子もお食べ」
「理子ちゃん、取っておいたすあまあげる!!」
「いただこうか……はうう、う、美味い」
理子ちゃん大人気。っていうかゆり姉、すあま取っておいたのなら、俺に……いや、ここは理子ちゃんに食べてもらうべきだろうな。なんか夢中で食べている姿を眺めているだけで癒される。
「命くん、ちょっといいかな」
桜花さん? それに……楓さんと雅先生も?
「理子ちゃんだけどね、あの子、暗殺者だよ」
楓さんが表情を変えることなく話す。
え……? そんな……嘘……だろ? あんな子が!?
「まあ、そうはいっても、どういうわけか命くんにかなり懐いているし、美味しいものを与えている限り殺すつもりはないみたいだけどね?」
すかさず桜花さんがフォローしてくれるけど、なんか扱いが危険な野生動物みたいなんだけど。
まあ安心していいのかわからないけど、心が読める桜花さんがそういうのなら、とりあえずは良かったのかな?
「彼岸の家はね、一族皆殺しになって今は存在しないはずなのよ~。まさか生き残りがいたなんて……でも、あの赤い瞳はたしかに彼岸家の特徴だし、これは何か裏がありそうだわ~」
「さすが雅、詳しいね。命くん、彼岸家の件はね、ここだけの話、あの黒津家が関わっている可能性があるのよ。証拠はないからあくまで噂レベルだけど」
ちょっと待てよ、楓さんと雅先生の話が本当だとすると、理子ちゃんは天涯孤独ってことじゃないか……。
しかも……黒津家? まさか……理子ちゃんを送り込んだのは……?
「命くん、気持ちはわかるけど今はすべて憶測でしかないよ」
カッと頭に血が上りかけたところで、桜花さんが俺の顔を引き寄せて胸元に埋める。
「まあでもね、昨日の襲撃事件と今回の理子ちゃんのこともあるし、黒津家がまったく無関係とも思えない。もしかしたら、連中かなり焦っているのかもね。とにかくこの件は私たち警察と白衣衆に任せておきなさい。悪いようにはしないから、ね、雅?」
刑事である楓さんが俺の手を引き寄せて色々当ててくる。
警察はわかるけど白衣衆ってなんだろう?
でも……そもそもの話なんで一族である黒津家が俺を殺そうとするんだ? それに焦ってるって?
知らないことわからないことだらけだ。
「もうじき天津くんの存在がお披露目されるからね~。そうなったら手出しが出来なくなるから~。他のことは近いうちに教えてあげるわね~」
雅先生が恥ずかしそうに反対側の手を抱き寄せて慎ましいものを当ててくる。
え……? 何この状況? 三人に囲まれて身動きが取れない。
「ちょっと、桜花さんはもう稀人の力を受けているんでしょう? 遠慮しなさいよ」
「ははは、甘いよ楓、稀人の力はこうしている間にも私に力を与え続けているんだ。常に修行だよ」
「あ、天津くん、私だけ力が弱い気がするんだけど……まさかサイズ差別……?」
ち、違いますよ雅先生、たぶん俺の中で許嫁というよりも先生という認識が強いからじゃないですかね?
「そんな~! 先生悲しいわ」
だから、そういうところだと思うんだ。
「ふふ、大丈夫だよ雅、命くんとお風呂に入って一緒に寝れば……ね?」
桜花さん……これ以上はマズいです。
「ふえっ!? だ、駄目よ~、私と天津くんは教師と教え子……あ……許嫁だから良いのかしら~?」
「へえ……面白そうじゃない。私も一緒にお願いね、命くん?」
バタバタしていて忘れていたけど、俺……いろんな意味でヤバくない?




