第二十五話 モテるよりも俺は
結局、時間切れとなって残り人数の差で試合は負けてしまった。
俺的には花城を倒せただけで十分満足。
コートを出ると珍しくクラスメイトに囲まれてしまう。
試合中は無我夢中だったけど、冷静に考えてみるとかなり恥ずかしいぞ俺。
相手が悪かったな、とか何様だよ。
「命、お前すげえな。人間業じゃなかったぞ」
「ふふふ、言ったろ? 本気出すって」
撫子さん、見ててくれただろうか?
直樹と話しながら、ちらりと撫子さんを探すと……隅っこで落ち込んでいる花城に話しかけている。
「花城、熱い闘いだったな。私も負けてはいられない」
「さ、桜宮さん!? だよな!! ははは」
くっ、花城のヤツもう復活しやがった。
そして、撫子さんはそのまま試合のためにウォーミングアップを始める。
あんなに頑張ったのに……俺には一言もなしか。
期待していたわけじゃないけど、ちょっとへこむ。
「天津、ちょっといいか?」
代わりに復活した花城がやってきた。お前は呼んでいないんだけど?
「……なんだ?」
「俺とバスケやらないか?」
「……断る」
「そうか、ありがとう、俺たちが組めば全国大会出場も夢じゃ……って何だってっ!? な、何故だ? お前の能力があればレギュラーだって夢じゃないし、モテるんだぞ?」
さすが次期エース候補。一人ツッコミまでこなすか。モテるのは、バスケというよりもお前の恵まれたスペックのおかげだと思うぞ。
「悪いけど俺は絵を描く方が好きなんだよ。それに別にモテたいなんて思ってないから」
不特定多数に好かれることなんかよりも、撫子さんに見て欲しい。
百人にモテるよりも撫子さんに好かれる方が何百倍も嬉しいんだから。
「くっ、俺は諦めないからな!!」
花城……お前、意外に熱血なんだな。嫌いじゃないが、わが身に降りかかってくると迷惑極まりない。
「おーい、二人とも女子の試合始まるぞ~」
「おお、これは見逃せないな」
直樹の言葉で話はいったん終了。
男三人膝を並べて観戦することに。
「やっぱり別格だよな……桜宮さん」
「わかっているじゃないか直樹、彼女は女神」
「…………」
二人が興奮するのもわかる。容姿やスタイルだけではない。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。揺れる大きめのリボンが否応なく目を惹きつけてやまない。
これ……今朝桜花さんが見せてくれた桜宮流舞闘術の応用だよな。
正直格好良いとしか言えない……誰よりも綺麗で運動まで万能とか完全にチートキャラ。
ここまでくるともはや嫉妬する者すらいない。男女も敵味方も関係ない。撫子さんの一挙手一投足に視線が集まる。
結果は言うまでもなく撫子さんのチームが圧勝した。
◇◇◇
昼休みの学食。
いつもは直樹と二人で食べているが、今日はドッジボールのこともあって、大勢で食べる羽目に。
それは別に構わないんだが……。
「なあ天津、これやるよ」
……花城、なぜお前がここにいるんだ? しかもそれ、ピーマンだろうが。
好意なのか嫌がらせなのか、わかり難いから!! まあ、ピーマンは好きだからいただくけどな。
「おい花城、天津を勧誘するのはやめろ、天津は我がハンドボ-ル部の将来を担う人材。手出しは控えてもらおうか」
ハンドボール部の星崎か。
花城が目立ちすぎていたからいまいち存在感は薄かったけれど、ドッジボールにおいては間違いなく一番脅威だった。個人的には花城よりも。
「ははは、星崎、何が将来を担う人材だよ。お前らは単に部員が足りないだけだろうが」
「うるさい、多ければ良いってもんじゃないだろ? 量より質だ」
たしかにハンドボール部は部員不足で廃部の危機らしいな。入らないけど。
「天津くーん、一緒にお昼良いかな~?」
馬鹿なっ!? 男どもはともかく、女子の、しかも文化部の可愛い系グループまで来るとは。
ドッジボール効果すげえな。
「待ちなさいよ、天津は私たちと食べるのよ」
ちょっと待て、同じ美術部だけど普段話しかけてこない女子まで来たこれ。
もしかして……俺、今人気者……なのか?
嬉しくないわけじゃないけど、どうにも居心地が悪い。助けを求めるように周りを見ても、味方はいないようだ。
「ちょっと良いか?」
よく響く鈴のような声。
ざーっと波が引くように人垣が割れる。
その瞬間……女神が降臨した。
な、撫子……さん?




