第百五十五話 最終話 エピローグ 本当の危機
「姫奈、道具はすべてチェックしてあるし、怪しい奴らはとりあえず捕まえてあるから安心して。周囲は腕利きのエージェントたちが監視しているから間違っても邪魔は入らないはず」
「ありがとうソフィア、おかげで試合に集中できるよ」
週末に予定されていたサッカー県大会決勝戦、大戦相手の黒津商業は金にものを言わせた補強策で全国制覇を目指す強豪校。
先日の黒津一族の逮捕を受け、黒津商業の理事長一族ももれなく逮捕されたのだが、その後のソフィアの調査で審判の買収、道具への細工、選手への嫌がらせ工作など次々に発覚。
念のため当日の試合会場でも警備をせざる得ない状況になっている。
「撫子たちは?」
「ああ~、例の任務だよ。試合頑張ってねって、皆からの伝言。全国大会は皆で応援に来るって」
「あはは、それじゃあ絶対に勝たないとね」
例の任務……か。最初聞いた時は信じられなかったな、ハハハ。
『――――というわけで、命くんには絶対にすあまを食べさせないようにしてね』
「あの……女神さま、みこちんに直接説明しては駄目なのですか?」
『命くんがすあまを食べても、そしてそのことを知ってしまった場合も同じように世界は終わる。残念ながらね』
「そんな……あんな美味しいものを食べられないなんて……」
『うーん、何度世界線を読んでも変わらないのよ~。命くんが当主に就任するまでは何があっても食べさせないようにしなければ。そしてそれを命くん本人に悟られないようにしなければいけないの……難しいミッションだけど、協力して頂戴』
「わかりました」
『ごめんね撫子ちゃん。あらゆる支援は惜しまないから』
命くんの前世である尊くん……椿姫ちゃんが送ってくれた手作りのすあまを食べられないで死んだことをとても未練に思っていた。
その強い想いは命くんに転生した後も無意識に自らの神気をすあま化するほど。決して悪いことじゃあない。現世への強い想いこそ、稀人に必要なものだから。
でも、身体も心も未熟で不安定な状態ですあまを食べた場合……急激な覚醒が進行し、命くん自身では抑えきれない暴走状態になってしまう。
その結果、世界はバランスを失い、最悪の場合消滅してしまう危険を孕んでいる。
そうならないためにも、徐々に覚醒を促さなければならない。
命くんは存在自体が世界の危機であり、同時にその成長が世界を救うという異なるベクトルを内包している。
なんとか命くん自身がやがて訪れるであろう、すあまインパクトに耐えられるまでに成長すれば……。
頼みましたよ撫子ちゃん。
◇◇◇
「撫子、全国のすあま取扱店の八割の買収完了しましたわ」
「ありがとうございます零先輩」
「残り二割はどうするのです?」
「私が直接行ってくる」
「そんなこと言われてもねえ……」
「そこをなんとかお願いします。二週間だけで良いんです。売り上げの補填もします。どうか……」
とんでもない美少女である撫子に土下座されては店主も頷かざるを得ない。
「わかったよ、あんたの熱意に負けた。二週間だけ協力するよ」
「ありがとうございます」
こうした地道な活動によって主要な流通元を完全にコントロール下に置いてゆく撫子。
「すあま、まあす、リストアップは出来ているか?」
「ああ、撫子姉さま、はい……自分ですあまを作るいわゆるスアマ―のリストです」
「悪いな、個人の作る分まではコントロールは難しいが、少しでも可能性を下げたいんだ」
「わかっています。あと少し、頑張りましょう」
「楓さん、リストです」
「はいはい、この人たちね。まあ適当な理由でしばらく拘束しておくわね」
悪い笑みを浮かべる楓。楽しんでいるわけではない。これも世界のためだ。
「奥さま、今日の御主人さまの注文履歴にすあまの購入の形跡はありません」
「すまないな葵、みこちんの私物を漁るような真似をさせてしまって」
「良いのです。おかげでご主人さまの好みが色々わかるので勉強になりますし」
「……それは興味深いな。後で共有しよう」
「撫子、こちらは異常なし」
「こちらも異常なしでござる」
「ありがとう、理子ちゃん、杏」
「こちら白衣衆……異常なし」
「こちら黒衣衆……異常なしです」
「ご苦労、引き続き警戒に当たってくれ」
「撫子、命にすあまを提供しかねない学校関係者リストよ。念のため軟禁しましょうか?」
「ありがとうございます百合先輩、念のためソフィアにも応援を頼みましょう」
「桜宮さん、キアラからの連絡で天津くんがすあまを購入したらしいわよ~」
「マズいですね……今向こうには誰もいないんですよね?」
「大丈夫よ~。すあまちゃんたちを送り込んでいるから~」
「さすが雅先生、頼りになります」
『念のため封印しておくにゃあ……』
「さすがひだにゃん、頼りになる」
『にゃふふ~!! それほどでもないにゃあ!!』
「諸君、あと少しの辛抱だ。みこちんの当主就任がいよいよ来週に決まった。あと一週間、最後まで気を緩めることなく任務に当たってほしい。世界の命運は我らの働きにかかっている」
「「「「了解!!!」」」
こうして撫子を始めとした許嫁たちの活躍によって世界は別の意味で守られてゆくのだった。
◇◇◇
「姫奈先輩カッコ良かったです。アディショナルタイムにハットトリック達成で逆転勝利とか、もう最高でしたよ」
「ふふふ、まあな。我ながら出来過ぎだとは思うよ。まあ……あれだ、天津さんが応援に来てくれていたから……頑張ったんだ」
「ふえっ!? そ、そうなんですか? それなら応援に来て良かったです。あ、そうだ、この近くに美味しい自家製すあまが食べられるカフェがあるらしいんですよ。一緒に行きませんか?」
「それは良いな、ぜひとも行きたい。ちょっと着替えてくるから待っていてくれ」
「あれ……? 臨時休業!? そんなあああ……!!」
「ま、まあ何だ、私は天津さんとデート出来るだけで嬉しいから気にするな」
「ひ、姫奈先輩~!!」
「やれやれ……まさかノーマークの店があったなんて。こちらソフィア、任務完了」
頑張れみこちん。当主に就任すれば、好きなだけすあまを食べられる……はず……たぶんね。
いいなずけ無双 すあまクライシス編【完】
みこちんのお話は一旦終わりますが、まだ物語は始まったばかりとも言えますので、また番外編や続編も機会があれば書きたいなと思っています。
長いお話を最後まで読んでもらえてとても嬉しいです。本当にありがとうございました。




