第百四十話 もう駄目かもしれない
『やっほー命くん』
「……あ、女神さま? そうか俺はまた気絶してしまったんですね……」
あれだけ鍛えているのにちっとも成長していない気がする。
『そんなことないわよ? 以前の命くんなら、千歳ちゃんのスク水であっさり倒されていたわよ?」
……そうなんですね。成長しているとわかって嬉しいような情けないような微妙な気分ですが。
『まあそれはそれとして……結界見事だったわ……ありがとう命くん。貴方は過去そして未来の人々までまとめて救ったのよ。そして……私もね』
女神さまにふわりと抱きしめられるとこのまま溶けてしまいそうになる。
こんなに真っすぐ褒められたらどうしていいかわからない。
『ふふ、ねえ命くん……私たち……このまま合体しちゃおうか?』
意味深な笑みを浮かべる女神さま。
「ふえっ!? そ、そんなこと出来るんですか?」
『あはは、冗談よ』
くっ……何度引っ掛かるんだ俺は。めっちゃ恥ずかしい。
「女神さま、次は西の結界に向かえば良いんですよね?」
『そう……ね。でもどうやらお家問題が先になりそうよ?』
……お家問題? 黒津家がこのタイミングで動くのか?
「でも……結界は大丈夫なんですか?」
『西の結界はまだ大丈夫。東のとは根本的に作りが違うから』
作りが違う? よくわからないですけど、まあ大丈夫なら良かった。
『あら、そろそろ時間みたいね……じゃあね命くん、期待してるわ』
女神さまの声が遠くなってゆく……期待している?
俺は何を期待されているのだろう……考えてもわかるはずないか。
相変わらず目の前のことで精一杯。向き合うことしか出来ないけど、きっとそれで良いんだ。
きっとそれで……
「……う、うーん?」
えっと……ここはたしか?
見覚えのある広い和室。意識を失っている間にここに連れてこられたのか?
「……またくノ一が居る」
今度は起きているのか……って違う、目が描いてある眼帯だコレッ!? 怖っ!? めっちゃ怖い。
「おーい、琴都音、起きろ」
目を合わせると怖いので眼帯を裏返す。
「う、うーん……だんにゃさま? おきたのれすか?」
「あ、ああ、悪かったな重かっただろ?」
「大丈夫ですよ、だってホラ、あそこから運んできただけですし」
……よく見たら、ここ展望台と同じ階じゃん。わざわざ遠回りした意味……
「あれ? 他の皆は?」
「ああ、お風呂の準備してますよ。起きたら連れて来るように言われてます」
お……お風呂だと!? ま、まさか……
「まさか混浴じゃないよな?」
「やだなあ旦那さま、混浴に決まっているじゃないですか~」
そうか……決まっているのか。それなら仕方ないな。
……って、そんなわけないじゃん俺、いきなり大ピンチ。
「ほら、早く行きましょうよ。みんな待ってますよ~」
ぐいぐい腕を引いてくる琴都音。
くそ、こうなったらなるようになれだ。俺だって成長しているところを見せてやる。
はっ……!? もしや女神さまが期待しているって……このことだったり?
大欲情 戦国御戦
「……なあ琴都音、色々漢字が間違っているぞ」
「いいえ、間違ってませんよ? 戦国時代に作られた由緒ある入浴施設です」
……じゃあ最初に作った人が間違っているじゃないのか?
「「「「いらっしゃいませ、お館さま!!!!」」」」」
ずらりと並んだ全裸の美女に出迎えられる。
えっと……ナニコレ? 強烈な先制パンチでいきなりノックアウトされそうなんですけど。
「東宮司は女系一族ですから、この里は慢性的に男性不足なのです。それに加えて女性は男性に比べて長寿で若さが失われませんから余計に問題は深刻で……」
「じゃあもしかしてあの人たちは?」
「はい、東宮司の独身女性の皆さまです。このチャンスをずっと待っていたのですよ。十代から六十代まで選り取り見取りです。良かったですね旦那さま」
椿姫が百を超えているせいで、六十代と聞いても若いなと思ってしまう俺はもう駄目なのかもしれない……
全然良くはないんだが、一気に許嫁を増やすチャンスともいえなくもない。とりあえず許嫁(仮)という方法もあるしと無理やり前向きに考えてみる。
「……あれ? なんだか顔色が優れませんね? あ、もしかして全裸がマズかったですか?」
「え……? あ、いや……」
琴都音の指示でスクール水着に着替えた皆さま。なんでも村の伝統衣装らしい……。
「そういえば千歳さまのスクール水着に興奮されていましたものね。気付かなくて申し訳ありませんでした。私もスクール水着に着替えてきますから安心してください」
琴都音に違う、誤解だと言いたかったが、これはこれでアリだと思っている俺が邪魔をする。
これは……一番の敵は己自身ということか……?
「お待たせしました!!」
「ぶふぉ!?」
なんという……さすがは現役世代……そしてなんという健康美。一瞬市民プールに迷い込んだのかと思ったよ。もうくノ一というよりもムチムチなんちゃって……ぐふっ!?
「……旦那さま? 大丈夫ですか!?」
「……大丈夫だ、ちょっと自爆しただけだから。ところで……みんなは?」
「皆さまなら、奥の湯でお待ちになっているかと。言っておきますが、すべての敵を倒さねば辿り着けませんよ?」
……敵ってナニ? ここ風呂じゃなかったっけ?
「そ、そうか…じゃあ頑張って入浴でもするか」
「ご武運を!!」
なぜ風呂に入るだけなのにいつも試練が待っているんだろう。
「では頑張ってくださいね、私は先に奥の湯で待ってますから」
待ってくれ琴都音……俺を一人にしないでくれ。
「「「「さあお館さま、こちらへ……ふふふ、大丈夫、怖くないですよ……」」」」」
うわあああああ!? た、助けて……嫌ああああああ……




