第百三十七話 物理的にも年齢的にも無理
「ちょっと待ちなさい、琴都音。お兄さまはロリコンじゃない!!」
「そうだぞ、お兄さまは真性のシスコンだ」
「くすくす、命はお姉さん好きだと思うヨ……ぷぷぷ……」
……そうだった。展望台にはすあまたちも居たんだったな。
ロリコンを否定してくれるのはありがたいんだけど、まあす、俺はシスコンじゃない……あれ? 否定できないぞ……許嫁にしているし。
あとキアラさん笑いすぎですよ。たしかに年上のお姉さん大好きですけど。
「な、なぜ皆さままで入ってくるのですか? 今は私の番なんですけど」
「ごめんね、私たちもうすぐ時間切れなの」
キアラさんと妹たちが寝袋に侵入してこようとしているけど、狭い寝袋に5人はさすがに無理がある……。
仕方無い……結界の応用で神気を使って寝袋に伸縮性を持たせてみるか
結界のバージョンアップを通じてわかったのだが、神気というのは、相当に自由度が高い。まあ……俺の神気がすあまになっている時点で想定出来てはいたが……。
びよーん
おおっ!? 上手くいったみたいだ。神気の扱いは難しいが、結界を作ることに比べたら、なんてことない。これは無限の可能性を感じるな。
「わーい、お兄さま、これ楽しい!!」
「うむ……ここで暮らしたい」
「命……いつの間にここまで……?」
「まったく……子どもじゃあるまいし……きゃああ!! びよーんびよーん」
うん……楽しそうで何より。
「あれ……? そういえばキアラさんたち三人でどうやって入ったんですか?」
チケットはペアでないと買えなかったはず。
まあ大方すあまたちのどちらかが転移でも使って入ったんだろうけどな。
「ああ、合体したの」
「……が、合体!?」
なにそれ怖いんだけど……
「あれ? 見せたことなかったっけ? こうやるんだよ」
すあまとまあすの身体が重なって一人の美少女になった。髪色はピンクベースに白のメッシュが入っている。
な……なんだと!? 可愛さが二倍になっている……そして……なぜか胸のサイズは半分に……!?
「すあまあすだよ、お兄さま」
……そのまんまだな。話し方はすあま寄りで、行動はまあすに近い・・・・駄目だ……こいつは危険すぎる。
「ブラーヴァ、素晴らしいネ。私たちも合体してみるか、命?」
同意ではあるんですが、俺も合体してみたいですとはちょっと答えづらい。俺の考えすぎなだけなんですけどね。
「旦那さま、面白そうです。私と合体しましょう!!」
「すまない琴都音、物理的にも年齢的にも無理だ」
とはいえこの状況……実質合体しているようなものだからな。そろそろ俺のリミッターが振り切れてもおかしくない。
「あら……みんなで楽しそうですね。私も入れてください」
「おお、これは良い。私も参戦させてもらうぞ」
戻ってきた椿姫と千歳さんがもぐり込んでくる……ただでさえカオスな寝袋の中がさらに大変なことになってしまう。
あ……これは無理……意識が……
◇◇◇
天津家屋敷――――
「じゃあ二人とも頑張ってね~!!」
「行ってきます、雅先生」
さてと、結界のことは天津くんキアラに任せるとして……私たちは一刻も早く黒崎に囚われている蒼空さんの居場所を見つけないといけないわね……。
「……というわけで、今日はみんな協力してね~」
朝食の席で蒼空さん捜索のために、協力をあおぐ。
ただし、最大のポイントは二次被害を出さないこと。相手はあの黒津だ。万が一の可能性にも万全の対策が必要になる。
でもやっぱり天津くんが居ないのは想像以上に大きいのだと実感します~。いざというときの安心感が桁違いなんですよね。
残念ながら事態は待ってはくれないようですから、私がしっかりしないといけません。
「零先輩、雅ちゃんはああ言っていたが、私たちは本当に捜索に加わらなくて良いのか?」
学生組は、バラバラで行動すると危険だという雅の指示で集団登校することになった。
「大丈夫ですわ。空津グループと白衣衆が協力して捜索をしているのです。探していることが黒津にバレないようにしなければいけませんから、素人の出番はありませんわよ撫子」
「むう……せっかく憧れの探偵団になれると思ったのだが……」
「撫子……雅ちゃんが言っていたでしょ? 私たちが注意すべきは……」
「わかっているさ茉莉、次の被害者になるなってことだろう?」
「でも本当に私たちを狙ってくるのでしょうか?」
菖蒲が不安そうにつぶやく。
「私は十分可能性があると思っているわよ。遷家を確実にするために、人質を取って天津家の動きを封じる……それくらいはやってくるでしょうね。零もそう思うでしょ?」
「そうですわね……黒津というよりは、黒崎……あの男ならやりかねないと思いますわ」
百合の問いかけに同意する零。
「まあ、敵の狙いはどうあれ、天津さんが戻ってくるまで、学校では極力単独行動をとらないように、常に二、三人で居るように心がけてくれ」
「「「はい」」」
姫奈の言葉で一旦解散する許嫁たち。
「葵、今日は忙しくなりそうね」
「はい……百合先輩」
百合と葵はそれとなく校内に散らばる仲間の動向に神経を尖らせる。
特に戦闘に向かない菖蒲や、かすみ、零は狙われやすい。
「せめて杏か理子ちゃんのどちらか居てくれたらもう少し楽だったんだけどね」
「仕方ないですよ。二人は蒼空さんの捜索に回ってもらっているのですから」
菖蒲は茉莉と同じクラス、かすみは念話が使えるし、零は姫奈と同じクラスで悪意察知のスキルがある。校内には雅もいるし、安心は出来ないが、そこまで神経質になる状況でもない。
仮に敵が侵入したところで、すぐに察知され仲間が駆けつけることが出来る。
そう思っていた。




