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いいなずけ無双~中身が小学生男子な学園一の美少女と始める同居生活が色々とおかしい~  作者: ひだまりのねこ


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第百三十一話 優しい甘さ



「……なんだかもらい泣きしちゃう」

「ああ……なんでだろうな」


 なんですあまたちまで泣いているんだ?



「すあま、まあす……こちらへいらっしゃい」

「「はい」」


 二人を呼んで抱きしめる椿姫さま。


「「え……あの……椿姫さま?」」


 突然の行動に戸惑う妹たち。


「大きくなったわね。貴女たちを見ていると懐かしい人を思い出すのですよ……」


「……懐かしい人……ですか?」



「ええ、そうです。少しだけ昔話をさせてね……今から80年前、この国は大きな戦争に巻き込まれてたくさんの人が亡くなりました。私たち東宮司家の人間も一族の人々も……たくさん。この闇のエネルギーが活性化するとき、世界は死と滅びが蔓延することになります。戦争は闇のエネルギーの栄養となりさらに活性化するという私たち人間にとっての悪循環が始まる。それゆえ私たちの使命はこの場所を守りその悪循環を断ち切ることなのです」


 そうか……地上の争いは闇のエネルギーの栄養となってしまう。だから一族は世界が平和であることを常に意識しなければならないんだな。


「当時、私の後継者になることが決まっていた英梨花というものがいました。才気は申し分なかったのですが、自分の限界を超えて頑張ってしまうところがあって、その危うさゆえに交代することが出来ずにいたのですが……」


「頑張ることは悪いことではないのでは?」


「そうですね……悪いことではないわ。でもね、すあま、闇のエネルギーは波のようなもの。津波がやってきたときに必要なのは立ち向かうことではなく逃げる勇気なのですよ」


「……英梨花さんに何かあったんですね?」


「ええ、ある時、どうしてもここから離れなければならない事情があり……留守を守っていた英梨花は闇エネルギーの異常活性化によって廃人同然となりました。緊急時とはいえ……いいえ、そうであったからこそ英梨花の性格を十分に考慮すべきだったのです。その責任はすべて私にあります」


 そうか……罪を償うって……そういう意味だったのか。


「彼女はね、その後当主の真さまに保護されて一時は日常生活が送れるようになるまで回復したの。奇跡が起きたと大騒ぎになるほどでした。でも……真さまとの間に子を設けた後、結局闇の浸食による影響で徐々に人間としての自我を失っていった……そして……英梨花は人柱となる事を選んだのです。自分が人としての自我があるうちに皆の役に立ちたかったのでしょう」


 ひ、人柱って……まさか?


「あの結界はね……古代から無数の人柱によって維持されてきたのですよ……この世界を守るため……その純粋な想いの結晶なのです……」


「そんな……他に方法がなかったんですか……?」


 自分が傲慢なことを言っている自覚はある。誰が望んで人柱なんかになるものか。他に方法があれば……そんなことは俺なんかに言われなくたって。


「命さま、そんな顔をなさらないでください。誰かの役に立ちたい、でも自分にはその力が足りない。人柱になった者たちは皆望んでそうなったのです。病気でもう助からない者、老い先短い者、家族を守るため、愛するものを守るため、尊厳と誇りを持って殉じた者たちです。皆、英霊となってこの結界を……世界を守っているのです。私たちがすべきは憐れむことでも悲しむことでもない……わかってくださいますか?」


「そう……ですよね。俺がもし同じ立場なら……」


 もし……俺に力が無くて、皆が命の危機を迎えた状況で……もし皆を救えるなら……俺は……きっと人柱になることを選ぶ。


 きっと同じだったんだろうな……懸命に命を繋いできた人々の想いによってこの世界は存在しているんだ。ただただ感謝の想いがあふれてくる。


 許嫁の皆の顔が浮かぶ。たとえそこに俺が居なくても……俺は皆に生きていて欲しい。



「大戦によって劣化した結界は当時すでに限界だったのです。そのことは英梨花もよくわかっていました。真さまは最後まで人柱を使わない方法を必死で模索していたのですが……最後は英梨花の決意に折れたのです。あの優しい真さまがどんな気持ちで送り出したのか……ご自身の無力さを呪ったのか……」


 真さまはどんなに悔しかっただろうな……俺は……恵まれているんだと思う。少なくともその力を俺は持っているから。


「だからこの結界は……私にとっては英梨花が遺してくれたものでもあるのです。戦後から今日に至るまで私は決して一人で守ってきたのではありません。英梨花と共にこの国を守ってきたのです」


 

 結界のバージョンアップだなんて軽く考えていた俺を殴りたい。


 結界は単なるシステムなんかじゃなかった……英梨花さんの……人々の想いが創り上げ、必死で守ってきたものなんだ。



「でもね、英梨花が人柱となって結界が強化された後、奇跡が起きたのですよ」


 にっこりと微笑む椿姫さま。


「奇跡?」


「足元を見てごらんなさい」


 足元? 闇のウネウネが砂になって小山になっているだけだけど……?


「あ……お兄さま、これ砂じゃない、砂糖だ……」


 すあまが鋭敏な嗅覚で見抜く。


「ふふ、そうです。結界内で浄化された闇のエネルギーが砂糖に変化するようになったのです」


「ま、まさか……隠れ砂糖って?」


「はい、その通りです。あの子は甘いモノ、特にすあまが大好きでしたからね……美味しいでしょう? とても透明感があって……世界一の砂糖だと……そう思いませんか?」


 目を細める椿姫さま。


 そうか……だからあんなに美味しかったのか。英梨花さんの想いが奇跡を起こしたんだな……


 そっと掬って舐めてみる。


 優しいな……涙が出るほど優しい甘さだ……俺、高すぎるなんて思っていたけど……高いものかよ。


 椿姫さまと英梨花さんが命懸けで生み出した砂糖だ。絶対に高くなんかない。


 

 決めた。この砂糖をもっと多くの人たちに広めるんだ。そして世界をもっと優しくしてみせる。必ず。

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― 新着の感想 ―
[一言] 塩になってしまう人の話は聞いた事があるけど……砂糖……これほど美しい神話は無いぜ(´;ω;`)ウゥゥ
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