第百十二話 男の夢とロマンが詰まっている
ソフィアと隣の部屋へ転移すると同時に、サンクチュアリ空間で作戦会議だ。
「そういえば、ソフィアも血が遠いとはいえ、天津の血が流れているんだよな?」
「そのように聞いている」
となれば、なにか特殊能力のようなものがあってもおかしくない。
「ソフィアには何か特別な力があったりするのか?」
「ある。あまり戦闘には役に立たない力ではあるが……」
「もし良かったら聞かせてもらっても?」
「がっかりしないでくれ。なんというか……その、透視能力なんだが……」
なんだと……めちゃくちゃロマン能力じゃないか!!
「すごいぞソフィア、がっかりなんてするわけない。羨ましいくらいだ」
なんでそんなに謙遜するのか理解できん。
「ああ、透視能力といえば聞こえは良いんだが、せいぜい服が透けて見えるぐらいでな。まあ相手が武器を隠し持っているのがわかるし、変装なんかも一発で見破れるから便利ではあるが……」
なんてこった……ソフィア、お前は男の夢で出来ていたんだな。
たしかに今回の作戦では何の役にも立たない能力ではあるが、隠し持ったすあまを発見できる可能性はある。すあまも透けて見える可能性も高いが……。
ん……? ちょっと待てよ。もしかしたら、ソフィアとの関係が深まれば、俺の中に眠る透視能力が覚醒するかもしれない……
「ど、どうしたんだミコト? 急に黙り込んで」
「……ソフィア、早く深い関係になろうな」
「ふえっ!? い、いきなりどうした!? わ、わかった、前向きに検討する」
しまった……情熱が迸っておかしなことを口走ってしまった……
さ、さて……ひだにゃんたちの様子は……?
「あれ? ひだにゃん、もうすあま食べないんですか~?」
『にゃああ、残りは食後のデザートにとっておくにゃあ!!』
メインディッシュもデザートもすあまなのか……羨ましいぞ、ひだにゃん。
だが……どうやら間に合ったようだな。
作戦通り頼んだぞソフィア。
「霧野センパイ、そのすあま、大人しく渡してもらおうか?」
背後から音もなく接近したソフィアが、霧野先輩を羽交い絞めにする。
「くっ……ソフィア、いつの間に……?」
ナイスだソフィア。さあすあまを確保するんだ……
「……なっ!? なんというボリューム……ま、負けた……」
ソフィアさん……何と戦っているんだい? たしかに霧野先輩はワールドクラスだけれども、大きさだけが魅力じゃないんだぞ。正気を取り戻すんだ!!
「……ああああ」
くっ……駄目だ、ソフィアの奴、正気を失ってやがる。
戦意を喪失しているソフィアにこれ以上望むのは酷か……。
仕方がない、あまり使いたくはなかったが……
『サンクチュアリ!!』
止まった時間の中で動けるのは俺だけだ。悪いな、一個だけだから……いや、せっかくだから二個だけだから許せひだにゃん。
固まっている霧野先輩とソフィアが美少女フィギュアのようで可愛いな……って、そんなこと考えている場合じゃなかった。
そっとすあまの箱に手を伸ばす。
ピシャリ!!
なっ!? 手が弾かれたっ!?
『にゃふふ、甘いぞ命』
なっ!? ひだにゃん……お前、動けるのか?
『神の眷属を舐めるな』
くそっ、ここまで来て諦められるかよ。
「頼む、ひだにゃん、この通りだ、二個、いや、一個だけで良い、分けてくれないか?」
っていうか、元々俺のすあまなんだけど、そんなことを言っても仕方がない。
ここは恥も外聞もなく土下座一択。俺の渾身の誠意を見せる場面だ。
『にゃふ……そんなにすあまが食べたいのか? ふむ、気持ちはわかるぞ、この甘み、弾力、まさに神の食べ物だからな。にゃああ……なんかまた食べたくなって来たにゃあ』
最後の一箱を口の中に流し込むひだにゃん。何てことしやがる……
『ぶにゃあっ!? やめるのにゃ命、口に手を入れるにゃあ!!』
多少唾液が付いたぐらいで諦めるわけにはいかないんだよ。
希望を掴もうと必死に手を伸ばすが、ひだにゃんも負けじとすあまを咀嚼する。
ああ……掴みかけたすあまが俺の手をすり抜けてゆく……。掌に残ったのは、ひだにゃんの歯形とベタベタの唾液だけ。わずかにすあまの欠片も含まれてはいるが、初めてのすあまをこんな形で迎えたくはない。
手……洗わなきゃな。
「ミコト……元気だせ。失われた命は戻らないが、すあまはまた作れば良い。そうだろう?」
ソフィアの言葉にハッとする。
ありがとう……君の言う通りだ。
そうだよ、よく考えてみたら、食べきれないほど作れば良いだけの話じゃないか。
なんだか元気が湧いてくる。もしかしたら、これがすあま耐性の力なのかもしれない。
「すあま、協力してくれそうなお店や業者を紹介してもらえないか?」
金と人材は揃っているが、ノウハウはゼロだからな。
「お安い御用だよ、お兄さま」
「零先輩、すあま工場を建設したいんですが」
「ふふ、空津グループにお任せなさい。明日にも着工出来るように手配しますわ!!」
さすがにそこまで急がなくてもいいですけど、頼りになります。
とりあえず工場建設予定地はうちの庭だな。幸い土地はいくらでも余っている。
「あとは従業員のための寮と店舗を作らないと……」
「それなら那須野建設に任せてよね」
そういえば茉莉の家は建設会社も持っていたっけ。
「ちょっと待って、店舗の方は折瀬住建に任せて」
ゆり姉の実家も有名な老舗メーカーだもんな。お父さん一級建築士で人気のデザイナーだったはず。
「命くん、それなら神社の方にも頼むよ」
「任せてください桜花さん」
当面は神社に販売所を作って知名度を上げる作戦が良いだろうな。ご利益ありそうだし。
軌道に乗ってきたら店舗を増やして……ソフィアたちもいるから、ゆくゆくは海外展開も夢じゃない。
ふふふ、夢は広がるけど、初心を忘れないようにしないと。
肝心の俺がすあまを食べられなかったら意味がないからな。




