第百一話 アメフト部のスーパースター
「は? 命、助っ人部に入ったの?」
美術部に戻り、撫子さんの絵を描きながら、ゆり姉に助っ人部の事、姫奈先輩のことを報告している。
「そうなんだ、ゆり姉。なんていうか成り行きでね。影響の出ない範囲で活動するから大丈夫」
結局、姫奈先輩も加入したからな。ほとんど名前だけになるとはいえ、すごいメンバーだ。しかも全員俺の許嫁だという……。
「ふーん……なら私も入ろうかな、助っ人部。なんか楽しそうだし」
ゆり姉も入るのか……まあ人間離れした身体能力を持っているからな。部活程度なら余裕でこなすだろうけれど。
「良いんじゃないかな、部員が多くて困ることなんてないだろうし」
「ふふ、じゃあそうするわね。そうなるとすでに五人以上なんだし正式な部として申請すれば予算も出るわね」
良い笑顔のゆり姉。さすが抜け目がない。たしかに予算がないよりはあったほうが良いよな。撫子さんは自腹で活動していたみたいだし。試合会場への交通費とか葵のお茶だってタダじゃないんだ。
「でも正式な部にするなら顧問の先生はどうするんだ?」
「え? そんなの雅ちゃんにお願いすれば万事解決じゃない」
……完全に家族経営みたいになっているけど、まあそれしかないか。でも雅先生はすでに美術部の顧問だし、一族の情報組織の仕事もあるから、これ以上は難しいんじゃないかな?
「え? 助っ人部の顧問? 良いわよ~」
何のためらいもなくOKされたよ。
「ただし~、代わりにお願い聞いてもらってもいいかしら~?」
な、なんだろう……ちょっと怖い気もするけど……。
「俺に出来ることなら……」
「ありがとう~きっとそう言ってもらえると思っていたわ~」
くるくる回る雅先生が小学生にしか見えない……いや落ち着け命、彼女は年上。
「それで……お願いって?」
「大したことじゃないのよ。許嫁になって欲しい人がいてね~」
全然大したことじゃないじゃないですか……でもなんか大したことじゃないような気もしている俺はどこかおかしいのだろうか?
ま、まあ雅先生が推薦する人なら大丈夫だろう。会ってもいないのにOKしていいのかわからないけれど。
「んん~? すでに会ってるわよ~?」
既に会っている……? 誰だろう……学校の誰かかな?
「キアラのこと知っているでしょ?」
「きあら? そんな生徒いましたっけ?」
直樹じゃあるまいし、そもそも下の名前まで知っている子なんてほとんどいないから全然わからん。
「違うわよ~監督のキアラ。日本代表の~」
「あはは、またまたご冗談を、ナイスジョーク!!」
「むう……信じなくても別にいいわ~。とりあえずOKってことで本人には伝えておくから~」
「は、はあ……」
え……? さすがに冗談だよな?
「はぁ……また許嫁が増えるんですね……。それより雅ちゃん、冷静に考えたら助っ人部、あのクズ会長がいる限り予算貰えない可能性が……」
「どういうことゆり姉? なんで予算貰えないんだ? 人数だって揃っているし、顧問だっているなら金額はともかく正式な部活動なんだからいくら会長だって……」
「ああ、そうか、命は知らないんだっけ。金満会長ね、力技で会長の権限強化したのよ。部活動の承認権と拒否権を持っているから、そもそも部活動として認められない可能性が高いわ。今までだって、撫子に自分と婚約するなら活動を認めてやるとか言って強引に迫っていたらしいからね」
なんだって!? あのクズ会長め……。
「うふふ、それなら大丈夫よ百合ちゃん。金満くんなら、今頃……」
◇◇◇
「またまたタッチダウン!! 金満先輩半端ねえ……さすが日本代表メンバー!!」
「キャーキャー!! 素敵です~!!」
フン……外野がギャーギャーうるさいな。
俺にとってこの程度のことはウォーミングアップなんだよ。これだから凡人どもは……。
ん? あれは……
「よお、姫奈。見てたか? 俺の華麗なタッチダウンを?」
白石姫奈、サッカー日本代表のエース。顔も好みだし、俺の愛人にしてやってもいい候補の一人だ。たしか怪我していたはずじゃあ……? まあ別に良いか。俺には関係ない話だ。
「……悪いな金満。生憎サッカー以外の競技は一ミリも興味ないんだ。じゃあ練習があるんで」
ちっ……お高く留まりやがって。世界最高のスポーツはアメフト一択だろうが。ふん……どんな手を使ってでも絶対に愛人にしてやるから覚悟しろよ、脳筋女め。
シャワーを浴びて出てくると、ファンの女や取り巻きどもが群がってくる。
俺は卒業したらアメリカに行ってアメフトのスターになる男だぞ? パツキンの女どもが待っているのにお前らの相手している暇なんてないんだよ。
「金満くんさすがっす。女紹介してくださいよ」
「ああ、俺のお古で良かったらやるよ」
「やった!!」
「あ、お前だけ汚えぞ!?」
クズどもが……お前らの頭の中は金と女のことしかないのか?
撫子は中々落ちないし、面白くないな。
黒津家も大口叩いていたくせに役に立たない。大金払っているのに報告すら寄こさないとかどうなっているんだ……?
そろそろ飽きてきたところだし、女を変えて気分転換するか……。
次は……そうだな、そろそろ霧野くんに手を出してもいいかもしれん。
誰も気付いていないようだが、あの女、とんでもない身体しているからな。くくく、どんな反応をするのかゾクゾクするよ。
「会長お帰りなさいませ」
気のせいか霧野くん以前よりも綺麗になっていないか? 妙な色気があるというか。こんなに興奮するのは久しぶりだな。
「霧野くん、悪いんだけど後で会長室に来てくれないか? 大事な話があるんだ」
「はあ……? 構いませんが、その前に会議室で皆さまお待ちですよ」
「……何? そんな予定は知らないが?」
「臨時の役員会が招集されたんです」
臨時の役員会……だと?
「議題は……金満会長、貴方の解任だそうですよ」




