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24.悩める夜は女子会で


 全ての死体を捨て終えたわたしたちは、新ハニーランドの少し離れた場所に馬車を乗り捨てることにした。


 姉妹の目的地であるキャシディも、ビリーの目的地である王都も、馬車で行くには距離がある。

 どちらの目的も期限も決まっているようなので、鉄道で距離を稼ぎたいんだろう。

 そうなると、確かに馬車はむしろ荷物になっちゃうもんね。


「用意してくれた人たちには悪いけど、目立ちたくないからね」

「ナーデ、お願いねぇ~」

「はい」


 馬車の中に荷物が残ってないことを確認し、ナーディアさんが星術(ブレス)で火球を放つ。


「馬はどうするの?」

「新ハニーランドの貸獣屋(レンタ・ビスト)にでも買い取ってもらってお金に換えよう」


 ここからなら、のんびり歩いても一時間くらいで新ハニーランドにつくらしい。

 日暮れ前には付けそうだけど……。


 自分の気持ちが定まらない……。


 帰らなきゃいけないと思う自分と、ビリーと離れたくないという自分がいる。


 いっそビリーが貴族だったなら……と安易な妄想もしてみたけれど、ビリーの身分は何であれ、わたしの婚約者がウィリアム王子であることには変わらない。


 政略結婚なのは百も承知。

 だけどそれも受け入れて、ダメ王子を調教しながらでも前に進もうってそう思っていたハズなのに……。


「シャリアちゃん、大丈夫ぅ?」

「え?」

「なんだかずっと難しい顔してるからぁ」

「ああ、それは……その、みんなと別れがたいなぁって思ってて」

「そっかぁ。そう思って貰えるのは嬉しいわぁ」


 いい子、いい子――とナーディアさんが頭を撫でてくる。

 ナージャンさんはただふざけているだけかもしれないけれど、その優しく頭を撫でる手に、なんだか無性に泣きたくなってきた。


 それでも何とか涙を堪えて笑顔で返せたのは、貴族としての教育のたまものだったかもしれない。




 日が落ち始めて、大地が赤く染まりだした頃、新ハニーランドに到着した。到着してしまったと言うべきか……。


 鉄道はそろそろ最終便が出る時間だ。

 だけどそのチケットはとれそうにないので、馬を売ったお金を使って宿を取ることになった。


 そうして夜。

 客室のベッドの上でぼんやりしていると、部屋のドアをノックする音が響く。


「シャリアちゃん、起きてるぅ?」

「起きてますけど……」

「じゃあ、入~れてぇ」


 子供が遊びに誘うような調子のナージャンさんにうなずいて、わたしは部屋の鍵を開け、ドアを開く。


「どうぞ」

「ありがとぉ~……。

 ふふふふふ。シャリアちゃんを泣かせ来たぞぉ」

「は?」


 何やら楽しそうなナージャンさん。

 その背後から、ナーディアさんも入ってきて、部屋に鍵をかけてくれた。


「姉さん。言い方が悪すぎます」

「女子会しに来たのぉ、女子会よぉ。

 ビリー無しで、女の子だけで騒げるタイミングってぇ、もう今夜くらいしかなさそうだしぃ?」


 そう言われると、確かにそうかもしれない。


「ビリーさんはお酒はナシと言っていたのでハチミツとレモンのジュースですけど、飲み物を持ってきましたよ」

「氷とグラスも持ってきたし、おつまみも持ってきたからぁ」

「羽目を外しすぎない程度に楽しみましょう。シャリアさん」


 のんびりと奔放なナージャンさんと、真面目でしっかり者なナーディアさん。

 双子だけれど、性格はあんまり似てないなぁ……なんて思ってたけれど。


 何やら息ぴったりに、夜宴の準備をしてわたしの部屋へとやってきたみたい。


「何かずっと考えごとされてたようですし、少しは気晴らしになれば良いのですけれど」

「そこまで気遣っての女子会なのね。

 なら、ありがたく楽しませてもらうわ」


 これはさすがに、無碍にできそうになわよね。


 ・

 ・

 ・

 ・



「――さて、そろそろはっきりさせたいのだけれどぉ」


 なんてことのないお喋りで盛り上がり、美味しいジュースと食べ物で気分も良くなってきた頃――ナージャンさんが少しだけ真面目な顔をした。


「何を?」

「シャリアちゃん、ビリーのコト好きでしょ~?」

「んなッ!?」


 真面目な顔をして何を言ってくるかと思えば……!


「なるほど。だから、この町でお別れだという話になってから、シャリアさんはずっと悩んでいたんですね」

「いや、えっと、あの……」

「赤くなっちゃって可ぁ愛いぃ!」


 何やらテンションのあがったナージャンさんが、わたしの手首と肩に手をおいてそのままベッドに押し倒してくる。


「可愛すぎて食べちゃいたいわぁ」


 そのままナージャンさんはわたしに覆い被さるようにして、こちらの顔を覗き込む。

 思わずナーディアさんに助けを求めて視線を向けたけれど……。


 彼女はこちらをチラリと一瞥したあと、ジュースを啜り肩を竦めた。


「姉さん、ほどほどにね」

「は~い」

「は~いではなくッ!? というかナーディアさん止めてッ!?」

「止めて止まるような姉さんなら止めてるわ」

「投げやりな返答ッ!?」


 ど、どうなっちゃうの、わたし……。


「実際食べたりしないから大丈夫よぉ。

 シャリアちゃんが逃げたりしないように、押さえてるだけだからぁ」

「逃げる? えーっと、それはどういう……?」


 わたしが、何から逃げるっていうんだろう?


「もう一回聞くけどぉ、シャリアちゃん。ビリーのコト好きでしょ?」

「それはその……」


 ナージャンさんの問いに上手く答えられずもごもごしていると、彼女の唇がわたしの首筋に触れた。


「な、ナージャンさんッ!?」

「ちゃんと答えてくれないと、本気で味見しちゃうぞぉ~。

 まぁそれはそれで、美味しいから問題ないんだけどぉ」

「問題しかないからッ!」


 本気の目をしながらニッコリ笑うナージャンさんに、ツッコミを入れてから、わたしは小さく嘆息する。


「認めますよ。好きです。旅の途中で、好きになっちゃいました」


 自分でも顔が赤くなるのを自覚しながら、ナージャンさんから視線をそらしつつ答えた。


「ふふ。よくできましたぁ」


 わたしの答えを聞いたナージャンさんは、少し身体を起こしながら満足そうにそう笑うのだった。



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