10.廃鉱集落フェイダメモリア
本日更新2話目です。
廃鉱集落フェイダメモリア。酒場前。
坂が終わり、慣性もなくなった為に完全停止した車両で一夜を開かし、翌朝にそこを出発してお昼頃。
ようやくたどり着いたフェイダメモリアで、一息付こうと酒場の前までやってきた時に目に付いたのは、なんと自分の手配書でした。
ここに来る前、通りのところにあった錆び付きギルドの手配書掲示板にも貼ってあったわよねッ!?
「あーもーッ! こんなところにまでーッ!?」
昨日の今日でもうこんなに手配書が回ってるってどういうことッ!?
いくらなんでも早すぎじゃないッ?
「この町に隠れ潜む賞金首は少なくないわぁ。
一人二人増えたって問題ないわよぉ」
酒場の前でうなだれるわたしに、気怠げな調子で励ましてくるのは、ビリーの仲間の一人ナージャン・ラタスさん。
桜色の肌をしたグラマラスな美人さんだ。
背が高く、手足は筋肉質ながらも細くしなやか。しかも服からこぼれそうなほど大きな双丘をお持ちでもある。
そして、左のほっぺたには岩のような材質の、鱗のようなものがある。
赤い肌と身体の一部に岩石のような鱗を持つのは、岩肌人の特徴の一つ。
だけど彼女の赤肌の色素は薄い。
石膚と呼ばれる鱗も、左ほっぺの一部だけ。
何でも、ナージャンさんは岩肌人とカナリー王国人とのハーフなんだそうだ。
「それにしても、ひっどい絵ねぇ……。
本物のシャリアちゃんの可愛さを微塵も表現できてないわぁ」
「むしろこれ、人間を表した絵なのかな?」
「さぁ?」
子供のラクガキよりもひどい絵をもってわたしと言われても困る。
とはいえまぁ――ここに書かれている内容そのものは、間違いなくわたしのことだ。
一緒に張られている無法の蠍ハーディン・ジョズリーの手配書と比べるとそのデキの差がひどい。
こっちは写真と思うくらい精巧に描かれたモノだ。どうしてわたしのだけこんなヘタというのもおこがましい絵なのよ……。
それはそれとして――
「本名のコト、ツッコミは入れて来ないんですか?」
「聞いてほしいのぉ? そんなワケないわよねぇ?」
「……みんな揃ったら言いますよ」
「そう? 私としてはツッコミツッコまれるのなんて、ベッドの上で充分なんだけどぉ。シャリアちゃんは律儀なのねぇ」
一晩一緒に過ごして分かったことなんだけど、ナージャンさんは良い人だ。
わたしが一人っ子なのもあるんだろうけど、何となくお姉ちゃんと呼んで甘えたくなる……そんな雰囲気がある。
ただまぁ会話していると、時々下世話な言い回しが混ざるのが玉に瑕かもしれない。
あと、彼女の甘やかさに身を任せすぎると、なんか大事なモノを溶かされてダメになりそうな怖さもある。
ナージャンさんの妹さん曰く、その直感は正しく、彼女はある種のダメ人間製造機でもあるらしい。何ソレ怖い。
「まぁ、説明を後に回すなら中に入りましょう?
ビリーとナーディアもすぐに来るわぁ」
ちなみに、ナーディアさんっていうのが彼女の妹さんの名前。名前が似ているのは双子だから。
今はビリーと一緒に、手持ちの宝石や魔獣素材を換金してくると言って別行動中。
「私、お腹すいちゃってぇ……。シャリアちゃんはぁ?」
「実はわたしも……」
「じゃあ期待してていいわよぉ、ここのランチ美味しいんだからぁ」
そうして私たちは酒場の中へと入っていく。
中に入ると、カウンターの中でグラスを拭いていた男性がこちらを一瞥して、低く告げた。
「いらっしゃい」
無愛想にも感じるその対応に、ナージャンさんは気にせずにカウンターへと駆け寄っていく。
「マスター久しぶりねぇ……今日はランチやってるかしらぁ?」
「ああ、久しぶりだなナージャン。ランチはある。そちらは?」
「お友達のシャリアちゃん。よろしくしてねぇ」
「ルールを弁えて金を払ってくれるなら、誰とだってよろしくするさ」
そう口にするマスターに、わたしは頭を下げる。
「ふん。チキングリルしかないが構わないな」
「私は良いわぁ……シャリアちゃんは?」
「あ。わたしも構いません」
「待っていろ、焼いてくる」
拭いていたグラスを丁寧に片づけると、マスターは厨房へと入っていった。
ならず者の多い廃鉱の町って印象があったから、酒場も荒々しい雰囲気がありそうだったんだけど、お客さんは落ち着いてるし、調度品などは綺麗なのが不思議なお店。
周囲を見回しているわたしの様子に気づいたんだろう。
ナージャンさんがわたしの疑問に答えてくれた。
「この店ではねぇケンカが御法度なのよぉ。
店のモノを壊すのもねぇ。守れない人は容赦なく町から叩き出されるから気をつけてねぇ……」
「店だけじゃなくて町も出禁なんだ……」
そりゃあ、調度品とか綺麗だったりするよね。
「まぁ、色んなコトに疲れたならず者が集まる町だからねぇ……。
基本的にみんなトラブルが嫌いなのよぉ」
そんな町の近くまで奪った列車で来て良いのかな?
「でもぉ、いつもより人が少ない気がするわぁ。活気が減ってるというかぁ」
「そりゃあ、人がどんどん逃げ出してるからな」
出来上がったチキングリルをわたしたちの前に置きながら、マスターの言葉にナージャンさんが思わず顔をしかめた。
「……私たち、やらかしちゃったぁ?」
「ゼロとは言えねぇな。だがな、そもそもお前らがやらかす前からの話だ」
「何かあったんですか?」
わたしが訊ねるとマスターが軽く肩を竦める。
「タチの悪い地上げ屋が現れたんだよ。この町の全部を奪う気まんまんのな。
なまじ地上げする側の経験者がいたからな。どれだけタチが悪いかってのが理解できちまったワケだ。
逃げなきゃ難癖付けられて、土地と一緒に自分たちも買い上げられちまうってな。
枯れかけているとはいえ、近くに霊力源泉もあるから、目を付けられたんだろうよ」
「この町、なくなちゃうのぉ……?」
「すぐには無くならん。だが地上げ屋のいやがらせが続くようなら長くはないな」
困ったもんだ――と言いながら、マスターは厨房へと戻っていく。
「タイミング悪いわねぇ……。
その地上げ屋――裏で貴族とでも繋がってたら、列車強盗も口実にされちゃうわぁ……」
「でもわたしたちはただここで足を調達しただけで、そこまで関わっては……」
「足を調達させたコトが逃亡協力の罪だとかなんとか言い出すだけよぉ」
あー……。
なるほど、それはあり得そうだ。
そう考えると、ほんとタイミングが悪かったのかもしれない。
二人でしんみりしながらチキングリルをつつく。
うーん、味付けも焼き加減も完璧で、めっちゃ美味しいのに……なんだかなー……。
「二人とも待たせた」
「ちょっと時間かかってしまいました」
しょんぼりした気分のままご飯を食べていると、別行動していた二人――ビリーとナーディアさんが酒場へと入ってきた。
次は19時頃更新予定です。




