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閑話

「ど、どういうことだ!?」


 動揺激しいレオナールの声が響く。


「はっ……」


 それを聞いたアシルはよりいっそうかしこまる。

 八つ当たりをされてはたまらないという意識が強い。

 彼がした報告は部下を率いてルーランに侵攻し、三巨頭ニーズヘッグのサラヴァンを復活させたことである。

 その後、彼は一度魔界まで帰ってきたのだ。

 その時に知ったのが、クローシュに赴いた天猛星バジリスクのエリックが倒されてしまったという情報である。

 驚いたものの、今代の勇者は十二将をすでに倒しているのだから、遭遇してしまえばエリックも倒されてしまうというのは分からないでもない。

 レオナールもそれを聞いた時は「馬鹿め」としか言わなかったものだ。

 彼らが大いに衝撃を受けたのは、せっかく復活させた三巨頭のサラヴァンが倒されてしまったからである。

 七本槍としてはサラヴァンという強大な戦力を旗印に、一挙に三巨頭を復活させてカルカッソンを制圧するつもりだったのだ。


「な、何故だ。何故サラヴァン様が勇者ごときに……」


 それが大いに狂わされてしまったのである。

 レオナールは歯ぎしりをした。

 とにかく計画を修正しなければならない。

 今のままではカルカッソン制圧の最大の功労者となり、七本槍筆頭となるという彼の野望が破れてしまう。


「まだだ。まだ終わったわけではない……」


 彼は自分に言い聞かせる。


「何が終わっていないのだ?」


「ずいぶんと騒々しいな?」


 そこへ声が複数降ってわく。

 驚いてふり向いたレオナールは、声の主を察知して顔色を変えた。


「お、お前たち……七本槍か」


「そうだ。天間星ケツアルコアトルよ。今まで一人でご苦労だったな」


 一人がそう言えば、天間星ケツアルコアトルのレオナールがあえぐ。


「ど、どうして……お前たちが今になって?」


 彼の問いに一人が鼻を鳴らして応じる。


「おそらくは三巨頭ニーズヘッグの封印が解かれたおかげだろうな」


「そのせいで我らを縛っていた神々の枷が外れたというわけだ」


 彼らは己の予想を言い合うと、レオナールに視線を集めた。


「どうした天間星? あまり喜んではいないようだが?」


「まさかと思うが、我らを復活を意図的に後回しにしていたとか、そのようなことはあるまいな?」


 図星である。

 彼にしてみれば七本槍の復活こそ、一番後にしたかったのだ。

 だが、こうなってしまってはそれを明かすわけにもいかない。


「そんな馬鹿なことがあるはずがあるまい。歓迎するぞ、七本槍の朋友たちよ」


 彼はわざとらしいくらいに両手を大きく広げて、後ろ暗いところがないと示す。


「ふん……」


 それを素直に信じるほど、彼らは単純ではなかったらしく懐疑的な視線を向けるばかりであった。

 このままではまずいとレオナールは歯噛みする。

 現状ではまだシュガールからの信を厚くはなっていない。

 今この六名が揃って彼の不信を訴えると、処刑されなくとも冷遇されることはありえる。

 彼は七本槍たちの意識を逸らすべく、必死に知恵を絞った。

 その結果、あることをひらめく。


「今回の勇者は早くも三巨頭の一角を崩すくらい強いらしい」

 

 彼がそう言うと、狙い通りどよめきが起こった。


「そんなまさか」


「三巨頭が敗れているだと……」


 彼らの間で発生した波紋の大きさにレオナールは微笑み、舌をなめらかに回転させる。


「ああ。どうだ、お前たち。一気に勇者倒しを狙ってみないか? 三巨頭もやられているだけに、大きな手柄になるぞ」


 彼は勇者というエサを投げ与えたのだ。

 三巨頭が負けたとしても、あくまでも一対一での話である

 複数でかかれば自分たちが負けるはずがない。

 そう考えたのであった。


「……何故、我々にそのようなことを話す?」


 一人が冷静なと言うよりは、猜疑心に満ちた視線をレオナールに浴びせる。


「私は手柄を独り占めにする気はないからだ。カルカッソンにはびこる邪悪な神々の走狗どもを一掃し、世界を真実の光で照らすという使命を達成する喜びを、お前たちと分かち合いたいのだよ」


 ケツアルコアトルのデーモンは悪びれずに堂々と言い訳をした。

 そのせいか、ひとまず彼の主張は否定されない。


「まあよかろう。今後は我ら七本槍全員で、デーモンどもを動かしていく。それでいいな、ケツアルコアトル?」


「ああ、三巨頭が不在である以上、当然のことだ」


 レオナールはそう答えつつ、内心しめたとほくそ笑む。

 魔王シュガールがすでに復活していると、彼らはまだ気づいていないようだ。


(それならばまだ我が野望は諦めずともよい。それどころかサラヴァン様の戦死の責任を、こやつらになすりつけられるぞ)


 同格の者たちに対して仲間意識などカケラもない彼は、そのように企んだのである。

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