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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
ロンスヴォの戦い
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デュランダルと共に……1

 オルフェと別れたランカストは、敵の波状攻撃を受け続けた。


 何も背負うものが無ければ、ランカストは倒れていただろう。


 しかしランカストの背後には、守るべき部下が……………友が……………大好きだった人が命を懸けて守った命が…………


「うおおおおおぉぉぉぉぉおおお!!」


 気迫の篭ったデュランダルの一撃がヨトゥン兵達に襲いかかり、一振りで数名の兵が倒れていく。


 それでも、減らない。


 まるで、壁を斬りつけているような感覚にも襲われる。


(まだ…………まだ、倒れる訳にはいかない!!オルフェとテューネが、皆を連れて逃げ切るまで…………敵をオレに引き付けなくては!!)


 正に…………鬼神。


 一騎当千と言うべき姿が、そこにはあった。


 だが…………そんなランカストも、数で圧倒して来るヨトゥン兵の攻撃を全て避ける事など不可能である。


 ついに、ヨトゥン兵の斬撃が、ランカストの左腕に襲い掛かった。


「ぐわっ!!」


 ランカストは鋭い痛みでデュランダルを一瞬手放してしまうが、地面に落ちる前に右手一本で大剣を握り直すと、そのまま横に一閃!!


 斬りつけて来たヨトゥン兵の胴体を真っ二つにする。


「強いな……………流石は、ベルヘイム12騎士に名を連ねる男だ。しかし……………」


 近くでランカストの戦いを見ていたビューレイストは、戦場に向けて歩き出した。


 ヨトゥン兵の攻撃が弱くなり、ランカストは視線を前に向ける余裕が出来る。


 ヨトゥン兵が攻撃を止め、1人の男の為に道を開けていく。


 ヨトゥン兵が作る道を歩いて来る男…………綺麗な漆黒の鎧に身を包む美青年。


 その身体は細く、その手に握られる剣も細く鋭い。


 ストレートの黒髪は、その瞳を軽く覆い隠し、神秘的な雰囲気を作り出すのに一役買っている。


「ビューレイスト殿か…………今更、何用だ??」


 肩で息をする無骨な男ランカストは、ビューレイストとは対称的だ。


 大柄な身体に、その大きな身体を持ってしても大きく見える程の大剣を持つ。


 お世辞にも美しいとは言い難い容姿に、無数に傷ついた鎧。


 対峙すると、まるで主人公と悪役のような…………そんな風にも見える。


「ランカスト殿、見事な戦いぶりだ。しかし、貴公を許す訳にもいかない」


「ロキ殿を傷つけてしまった事は、申し訳なく思っている。だが、我々に裏切るつもりなど無かった。だいたい、人質をとられている我々が、裏切れる訳も無いだろう??」


 ランカストは息を整えながら、ビューレイストの瞳を睨む。


 まだ、部下達は戦ってるに違いない。


 なんとか早く、戦いを終わらせたかった。


「貴公の言っている事も分かる。しかしな…………我々が勘違いをして、ベルヘイム王を斬り、その結果、掠り傷程度でも傷つけた場合…………それでも許せるのか??敵である我々を…………」


 静かな…………それでいて意思の強さ…………自分達の大将を傷つけられた事は許さない…………ぶれない意思が感じられる。


「ぐっ……………」


 ランカストは、何も言い返せなかった。


 ビューレイストの言う通り…………ベルヘイム王が斬られたら、勘違いでしたで許される事ではない。


「それでも…………ロキ様は寛大だ。私と一騎打ちをすれば、今回の件は不問にすると…………つまり許すと言っている。勿論、貴公の部下達も助けよう…………」


 部下を助けたいランカストには、願ってもない申し出だった。


 直ぐに返事をしようとしたランカストは、寸前で思い留まる。


(いや…………ここで私と戦い、デュランダルで何かをさせようとしてるのか??もしくは、私を殺してデュランダルを奪うか…………どちらにしろ、この状況を作る為に部下と私を分断させたか…………)


 神剣は、その持ち主が死なない限り、その所有権が移る事はない。


 持ち主が決まっている神剣は、その持ち主以外の者が持つ事は出来ないのだ。


(深く考えるな…………一騎打ちで勝てばいいだけの話しだ。ビューレイストを倒し、なんとかヨトゥン兵の囲みさえ突破出来れば…………後はデュランダルを隠せれば、オレの命など…………)


 ランカストは、デュランダルを握り直す。


「分かった。一騎打ちの申し出を受けよう。これ以上、部下達に手を出さないと約束してくれ!!」


「いいだろう…………ランカスト殿の兵を、囲みの外に出してやれ!!」


 ビューレイストの言葉に、ヨトゥン兵達が動き出す。


 その瞬間、戦場を駆け抜ける馬の音が聞こえた。


 一度大きくなったその音は、直ぐに小さくなっていく。


「突破出来たようだな…………これで心置きなく戦えるだろう??」


 余裕に見えるビューレイストを睨むと、ランカストはデュランダルに力を込める。


(オルフェ…………テューネ…………無事に逃げてくれたか??今度はオレが戦う番だ。どんな事があっても、デュランダルは敵の手に渡さないぞ)


 ランカストの思いを感じたのか…………デュランダルが大地を震わす。


(デュランダル……………第2形態で、これ程の力か…………しかし、大地を穿つには、まだ弱い…………)


 ビューレイストも、自らの剣を構えた………

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