包囲された戦場で……
「ビューレイスト殿!!これは何かの間違いだ!!テューネには、何故かロキ殿がユトムンダスに見えていたようだ。我々に攻撃の意思は無い!!」
ランカストはそう言うと、デュランダルを手放し、大地に突き刺した。
「私は武器を手放した!!確かに大将を攻撃されて、黙っている部下はいないだろう。しかし、これで信用して頂くしかない。この部隊を指揮する私には、攻撃の意思は無い!!」
攻撃の意思が無い事を、ランカストは強調し何度も言う。
このまま誤解され、戦闘が起きれば、自分の部下達はただでは済まない。
ランカストは、なんとしてでも部下を守りたかった。
しかし…………そんなランカストの思いも虚しく、部隊の中軍がガヌロンの指揮でロキ軍の包囲を突破する為に、比較的囲みの薄い場所に攻撃を仕掛ける。
「ランカスト殿の思いは分かった。だが、部隊の意思が統一されていなければ、その訴えに意味は持たない!!交渉は決裂だっ」
ビューレイストはそう言うと、傷つけられて後退したロキの後を追うように、自軍の中に姿を消した。
「くそっ!!なんで、こんな事に!!オルフェ、どうする??」
ランカストの横で難しそうな顔で考え込むオルフェは、何かに気付いている様子である。
「テューネにだけユトムンダスに見えて、我々にはロキに見えていた…………ガヌロンはテューネが従軍していた事を前から知っている様子だった……………と、言う事は…………」
独り言のようにブツブツ呟くオルフェの横には、頭を抱えて震えているテューネが…………
「オルフェ!!詮索は後だ!!まず、この状況を突破せねば!!」
ランカストの声に我に返ったオルフェは、周囲を見渡す。
「ガヌロンは??奴が裏切ったんだ!!我々がここで全滅して、ベルヘイム軍にガヌロンだけが戻ったら…………本隊が危ない!!」
いち早く突破を図ったガヌロンの部隊は、既にその姿を消している。
「ガヌロンが裏切った………と言うより、俺への恨みだろうな………だが、そんな私情で、大切な仲間や部下を失う訳にはいかん!!オルフェ、全軍を率いて後退しろ!!俺が敵を引き付ける!!」
ランカストは地面に刺さっていたデュランダルを力任せに引き抜くと、迫って来るヨトゥン兵に向けて一閃!!
屈強なヨトゥン兵の3人程の胸を切り裂き、そのヨトゥン兵達は地面に倒れた。
「ランカスト!!大将のお前が残る必要は無い!!俺が囮になる!!テューネを連れて逃げるんだ!!」
オルフェの手に握られている神剣【オートクレール】
その鍔は黄金造りであり、柄頭には水晶があしらわれている。
その剣を振るうと、清らかな風が吹き、敵を薙ぎ払う。
邪なる者を見極め倒す剣。
それがベルヘイム12騎士の1人、オルフェ・グランスのオートクレールである。
そのオートクレールが、ヨトゥン兵を斬り倒していく。
「オルフェ………俺の性格は知っているだろ??このまま2人で戦い続けるか、俺を囮にして、テューネを連れて血路を開くか…………どちらかしかないぞ!!」
徐々に囲まれていくランカストとオルフェだったが、そう簡単にやられる2人ではなく、ヨトゥン兵の死体の山を積み上げていく。
「このまま体力を削られて死ぬか、生き延びる道を模索するか…………お前なら分かるだろ!!ガヌロンの裏切りを伝える役目もある。誰かが生き延びなければいけないんだ!!」
ランカストが振り下ろしたデュランダルは、凄まじい地響きを上げて大地を穿つ!!
ヨトゥン兵が怯んだ隙に、オルフェはテューネを抱え上げて走り出していた。
オルフェは、ランカストの性格を熟知している。
仲間を置いて、自分が逃げ出す事はない…………それが例え、どんなに合理的で戦術的に有利であっても……………だ。
「ランカスト、死ぬんじゃないぞ!!お前を救う策を練って、必ず戻る!!それまでは…………生きる事を…………諦めないでくれ!!」
残ったランカストは頷くと、オルフェの方にヨトゥン兵が行かぬよう、必死にデュランダルを振るう。
囲みを突破する為に走り出したオルフェも、味方の兵と合流出来ずにいた。
あまりに、ヨトゥン兵の数が多過ぎる…………まるで、仕組まれていたかのように…………
(ガヌロンとロキ…………手を組んで、この絵を描いていたのか…………だが、ロキが絡んでいるという証拠がない。ガヌロンが絡んでいるのは間違いないんだが…………)
考えながら走っていると、味方の兵がバラバラになりながらヨトゥン兵に立ち向かっている映像が目に飛び込んできた。
ヨトゥン兵は人間の兵より明らかに屈強であり、数で対処しなければ相手にならない。
しかし兵数でヨトゥン軍に負けている為、個々に戦ってしまっている人間側に勝ち目はなかった。
指揮官不在の状況では、仕方の無い事ではあるが…………
「このままじゃ駄目だ!!ベルヘイム軍は、我の元に一度集結せよ!!個々に戦っていては、ヨトゥン兵の思う壷だ!!」
オルフェの声がベルヘイム兵達に届き、ベルヘイム軍はオルフェの元に集まって来る。
その数は、既に半数近くまで減っていた。
「よし………皆、よく戦ってくれていた。これからは、私が指揮をとる。我々を逃がす為、ランカストは1人で戦場に残って戦っている!!まずは、この囲みを突破し、ランカスト救出部隊を再編成しなければならない!!時間をかけている余裕はない!!」
オルフェの気持ちの入った言葉に、テューネは我を取り戻す。
「オルフェ様…………ごめんなさい……………わたし…………ランカスト様を助けに行かなくちゃ…………」
「テューネ!!ランカストは大丈夫だ!!お前はガヌロンに嵌められたに過ぎない。気付けなかったオレの責任でもある。だから………まずはランカストの大切な部下を救い、それからランカストも助けに行くぞ!!呆けてる暇はない!!」
テューネは、力強く頷く。
このまま助けに行っても、ランカスト様は動かない。
だから…………全員で、この囲みを突破する。
「私には、7国の騎士のミルティの血が流れてるんだ…………7国の騎士は、人類の希望なんだ…………誰も救えずに、倒れる訳にはいかないんだ…………だって私の命は、ソフィーア姉様とランカスト様に、多くの命を救うために繋げて貰った命なんだから…………」
テューネは誰にも聞こえないような声で、その決意を新たにした。
その様子を見ていたオルフェもまた、オートクレールを握る腕に力を込める。
「これより、敵軍の包囲を突破する!!ランカストを討つ為に、兵が動いて出来た綻びを突く!!ヨトゥン兵には、必ず3名以上で戦え!!1点集中で貫くぞ!!この攻撃が、ランカストの助けになる事も忘れるな!!」
オルフェは叫ぶと、先頭を切って走り出した。
うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!
今まで死を意識して弱腰になっていたベルヘイム兵達は、ランカストを助けるという名目に向けて、一致団結していた。
自分達の為に大将が…………その身を削り囮になっている。
自分達が、そんな思いを無駄にしてはいけない…………
オルフェを中心に、強い意思を持った集団がロキ軍のヨトゥン兵に襲い掛かった。




