ランカストの旅立ち
次の日の朝、太陽がまだ昇りきらない時間、ランカストはベルヘイム兵の前に姿を現す。
ランカストと共にロンスヴォに行くと志願した兵は、ベルヘイム軍全体の2/3にものぼった。
その中から、オルフェが忠義を重んじる騎士を1000人選び、その騎士達が、今ランカストの目の前にいる。
「皆………私の為にありがとう。ロンスヴォは知っての通り、ロキの居城だ。危険が待っているかもしれないが…………ベルヘイムの姫の為に、戦争を知らぬ村から来て、我々と共に戦ってくれている航太達の仲間が捕われている以上、連れ戻すのが我々の義務だ。力を借してくれ」
ランカストは、部下である騎士達に頭を下げた。
強いながら、部下への感謝も忘れない…………ランカストが、部下から慕われる由縁だろう。
航太と絵美は、そんなランカストに近寄った。
智美を助ける為に、危険な場所に赴いてくれるランカストやベルヘイム騎士達に、お礼を言いたい。
ランカストの言うように、見返りなくベルヘイム軍に協力しているが、命を懸けて仲間を救おうとしてくれている姿に、心を打たれた。
「航太か。わざわざ見送りしてくれなくても、よかったのに…………連日の訓練で、疲労困憊だろう??」
ランカストは航太を見つけると、先に声をかける。
「何言ってんスか。智美を助けに行ってくれるんだ。見送りぐらいしか出来なくて、申し訳ないぐらいですよ!!」
「ホントに…………ランカスト将軍、それにベルヘイム騎士さん達も…………ありがとうございます!!」
ペコペコ頭を下げる絵美に、ランカストがその頭を軽く撫でた。
「お礼は、智美を連れ帰ったらでいいよ。それに、我がベルヘイム騎士には、家族がレンヴァル村で暮らしている者もいる。レンヴァル村を救ってくれた航太に、我々も礼がしたいのさ」
そう言うと、ランカストは2人に優しい笑顔を向けて、心配するなと頷く。
その笑顔を見て、絵美はランカストが智美の迎えに行ってくれる事に安心感を感じる。
正直、ガヌロンが迎えに行った時は、心配で仕方なかった。
「将軍、ホントにお願いします!!無事に智美を連れて帰ってきてくれたら、チューしてあげちゃう♪♪」
明るくランカストに抱き着いた絵美の背中から、ガーゴがモゾモゾと現れる。
「久しぶりにジャジャジャジャーーーン!!そしてー、ガーゴもブチューってするでしゅよ~~~」
絵美の頭からランカストに向けてダイブしたガーゴの頭を、航太が絶妙なタイミングでキャッチした。
そして、そのまま地面に叩きつける。
「ぐへぇ…………でしゅ~」
「ぐへぇ………じゃねぇ!!毎回、真面目な展開の時に現れやがって!!空気読みやがれ!!このアヒル野郎!!」
そんなやり取りを見て、ランカストは軽く吹き出した。
「じゃあ戻ったら、絵美ファンの騎士にキスしてやってくれ!!モチベーションも上がりそうだからな!!ガーゴのファンもいたら…………いや、いないか??」
「なんて事言うでしゅか~~~!!(-_-#)ならば、今すぐブチュ~するでしゅ~~!!」
航太のスキを突いて、ランカストの顔面に向けてガーゴがダイブする。
「お………おい止めろ!!!☆£∞∬∵†$★!!!!」
ガーゴにキスされて、ランカストが意味不明な絶叫をあげた。
それを見て、2人は大爆笑する。
無理矢理ガーゴを引きはがしたランカストは、ガーゴを地面に放り投げた。
「ぼよ~~~ん、でしゅ~~。ガーゴはヌイグルミだから、痛くありましぇん。残念でしゅたねー」
全く痛みを感じてなさそうなガーゴに、ランカストが怒りの拳を握る。
「イラつきますよね!!オレら、毎日コイツと絡んでるんスよ!!」
航太が察して下さいとばかりに、ランカストの肩を叩きながら言う。
ふざけているように見える3人と1匹?の前に、真面目な顔をした一真が顔を出す。
「将軍…………僕には、何か嫌な予感がしてならない。昔読んだ神話の本に、今の情況によく似た悲劇の話があったような気がするんです…………」
一真の真剣な言葉に、ランカストや航太は笑いを止める。
「一真も見送りに来てくれたのか。ありがとう。オレも色々な神話を知っているが、そんな話は記憶にない。それに、オルフェも付いて来てくれる。心配しなくても智美は無事に連れ帰るから、安心して待っていてくれ!!」
ランカストは力強くそう言うと、馬に跨がった。
「そろそろ出るぞ!!」
オルフェの声に、騎士達は整った隊列のまま動き出す。
「じゃあ、安心して待っててくれ!!」
ランカストは片手を上げてから、幕舎を出て行く。
見送る一真は不安を消そうとしたが、ランカストが去った後も心のモヤモヤが消えなかった……




