ロキの妙計3
「ガヌロン!!よく無事に戻った!!して、智美は??」
ガヌロンが1人な事に首を捻りながら、アルパスターはガヌロンの帰還を労った。
「はい…………どうもロキはデュランダルとランカスト将軍の力を欲しているようでして…………智美を返してもいいが、その代わりにデュランダルとランカストを差し出せと言ってきましてな………なので、交換条件を提示してきました。ランカスト将軍の力を1度だけ貸す代わりに、我が軍の後方から攻撃せぬようにと…………」
「なにっ!!それは助かるが………そんな都合の良い話があるか??」
考え込むアルパスターに、隣で話を聞いていたオルフェが顔を上げる。
「ガヌロン殿、その話が本当ならば、前方のバロールやクロウ・クルワッハの部隊にのみ集中できる。しかし、ヨトゥン軍を裏切るような行為をして、ロキにメリットがあるようには思えないんだが??」
オルフェの言葉に、ガヌロンは自信あり気にニヤッと笑う。
「オルフェ、私の交渉術を甘くみるなよ。ロキは、レンヴァル村でデュランダルを使うつもりだ。レンヴァル村に眠っている物が何かは分からんが、ロキにとっては重要な物のようだ。今のデュランダルの力で、ロキの求める事が出来るかは不明だが、結果に関しては交渉での契約外の話だからの………それに、クロウ・クルワッハとロキの関係は、うまくないらしい」
「そうか………確かにロキは、レンヴァル村に感心がある気はするな…………かつて、ランカストが戦ったユトムンダスは、ロキの配下だったしな…………」
ガヌロンの表情を見ながら、アルパスターは言葉を発した。
アルパスターも、ガヌロンの娘がユトムンダスに殺された経緯は知っている。
「はい。そしてデュランダルも、元々はユトムンダスが所有してました。そこを突いてみたら案の定、私の術中に嵌まったと言う事ですな」
ガヌロンの下卑た笑いに不信感を感じたオルフェだが、航太がレンヴァル村で倒したとされるスリヴァルディも、ロキの配下であった者だ。
ロキがレンヴァル村にこだわっているようにも、確かに感じる。
「ガヌロン殿、ランカストに護衛は何人程付けますか?流石に1人で行かす訳にも………デュランダルを使うという事は、武器を持って行くと言う事。ロキ陣営も、それなりの準備をしているでしょうからね」
将軍級の武力を持つ者が、神剣と言われる武器を持って敵の大将と会う。
それは相手にとってもリスクが高く、備えをしていると考えるのが普通である。
オルフェは、ガヌロンとランカストの因縁も知っている為、このロキと交わした契約を信じる事が出来なかった。
「ロキの居城であるロンスヴォへの攻撃や、ロキの配下に攻撃しなければ、我々には攻撃しないと約束してくれた。少数の部隊での護衛なら問題なかろう」
ガヌロンの答に、アルパスターもオルフェも口を紡ぐ。
敵の領土内にあるコナハト城を攻めるのに、敵国の中を進軍して行く事になるのは当たり前だ。
そこで1番の問題になるのが、後方から挟撃される事である。
周囲を囲まれながら行軍するのと、後方を気にせず行軍するのとでは、肉体的にも精神的にも、かなり楽なものになる筈だ。
そう思うと、この申し入れを断る事は困難に思える。
「ランカスト将軍を危険な目に合わせてしまう事になるが…………止む終えないか…………」
アルパスターは、ガヌロンの交渉の成果に乗る決意を固めた。
「それならば、私に護衛の任を命じて下さい。ランカストは、命に代えても守ってみせます!!」
オルフェの言葉に、アルパスターは頷く。
「オルフェが行ってくれるならば、心強い。ではガヌロン、ランカスト将軍と作戦について話し合ってくれ」
「はい。ランカスト将軍に命の危険が無いよう、作戦を立案してみます」
そう言ってアルパスターとオルフェに背を向けたガヌロンは、軽く笑いながら姿を消した。
オルフェはランカストに事情を説明し、その判断はランカストに委ねる。
その答は、皆の期待を裏切らないものだった。
ベルヘイム軍にとって、良い事であれば何でもすると…………
そしてランカストは、城塞都市ロンスヴォに旅立つ事となる。
レンヴァル村に何が眠っているのか、分からぬままに…………




