城塞都市ロンスヴォ
レンヴァル村を出発して3日後の夕刻頃に、ガヌロンはロキ軍の本拠地であるロンスヴォに到着した。
ロンスヴォは城塞都市であり、遠目から見ると町全体が城壁に覆われているのが分かる。
(これが……………城塞都市ロンスヴォか…………過去に1度も城内への侵入を許していない堅牢さを誇ると聞くが…………それも事実と思わせる壮観さだな…………)
ガヌロンは出発してから3日間、自分が有利に交渉を進める為に考えを巡らせていた。
少なくとも、ロキは自分を殺すつもりはないらしい…………それは、道中ヨトゥン兵に襲われなかった事からも明らかだ。
(しかし、それも交渉次第だろうな…………奴らの希望を叶えつつ、こちらが有利になるような交渉か…………)
ロキの狙いは、ランカストの命なのだろうか…………ガヌロンは首を振る。
(いや…………恐らく、狙いはデュランダルの方か…………デュランダルを手に入れるには、所有者のランカストを殺すしかない。戦場で倒してしまうとデュランダルの所在が分からなくなる可能性があるから、確実に手に入れたい…………か??しかし、何故このタイミングなんだ??)
少しづつ迫ってくるロンスヴォの城壁を見ながら、ガヌロンは現在の状況を頭の中で整理していく。
(智美が捕虜になったから…………なのか??確かに航太達は、我々と考え方や雰囲気も違う。ロキの求める情報を智美が持っていて、その情報を得たから動き出したとも考えられる。アルパスター将軍も、航太達の事について隠し事をしている節がある………)
そこから先は、事実を突き止めてからではないと分からない。
(デュランダルだな…………交渉の鍵は………それとレンヴァル村。このタイミングでスリヴァルディが村を襲ったのは…………何かあると見るべきだな)
ガヌロンは決意を込め、馬をロンスヴォに向けて走らせ始めた。
その頃ロンスヴォの城内で、ベルヘイム軍の使者ガヌロンが近付いて来ていると報告を受けたロキは、出迎えの準備を部下に指示する。
「ロキ様、現状までは手筈通りに進んでおります。いや…………スリヴァルディが何の成果も上げれず死んだのは誤算でしたが…………」
「まぁ…………奴には、期待もしてなかったからな。それより、フェルグスと共闘した風のMyth Knight…………スリヴァルディを討ったのならば、凰の目か………それに匹敵する力を持っている可能性が高い。そちらの方が厄介だ」
ビューレイストの言葉に、指示を出していた手を止めてロキが答えた。
「フェルグスは、あまり詳しく答えてませんでしたね…………奴のゲッシュを容認するとしているからには、こちらも強くは言えませんが…………」
「やむを得ないな…………フィアナ騎士にとって、ゲッシュは絶対だ。しかし、ゲッシュがあるからこそ、奴を縛っておける。優秀な人間の騎士は、どうしても必要だからな…………」
ロキは、ロンスヴォの町が一望出来るアーチ型に切り抜かれた開口部に目を向ける。
「1つ1つの道のりが長いですね…………レンヴァル村の攻略だけでも、一筋縄では行かない………」
「やろうとしている事が、途方もない事だからな…………だが、成し遂げねばならん。ベルヘイム軍がバロールを倒し、我々が力の源を手に入れる………その状態が、1番の理想なんだが…………」
その開口部から流れてくる風を感じながら、ロキはこれからの道のりを思う。
(私がヨトゥンと神の混血である事…………それが、今回の事を気付かせてくれた。これが運命と言うのであろう…………ならば、私は…………私の成すべき事をするだけだ)
ロキもまた、決意を新たにする。
「では私は、ガヌロンを迎え入れる準備を整えます。デュランダル………完成していればいいのですが…………」
「完成していれば言う事はないが、まだ完成に至ってなければランカストの手にあっても無駄だ。結局は、他の所有者に移す必要がある」
ロキの言葉に、ビューレイストは一礼してその場を去った。
(完成されたデュランダルとレンヴァル村………2つ揃わなければ、手に入らないか…………バロールの魔眼、色々と厄介だな………)
太陽が傾き、オレンジ色に変わっていく空を見ながらロキは思う。
ヨトゥン軍に参加している為、バロールと直接戦う事は出来ない。
しかし事を成すには、バロールの魔眼の影響が邪魔なのである。
(確かに、1つ1つ片付けていくしかないな………)
ロキは風の流れてくるロンスヴォの町を背に、城内に向かって歩き出した。




