ソフィーアの涙3
「離せ!!娘がユトムンダスの近くにいるんだ!!助けなければ…………騎士団は前に出ろ!!」
「ガヌロン様、何を言っている??」
飛びだそうとするガヌロンを必死で制止しながら、オルフェはその豹変ぶりに驚きを隠せなかった。
「ヨトゥン兵をここに釘付けにしておく事が、村人を助ける事にも繋がると……………そう言ったのはガヌロン様だぞっ!!」
先程は自分の意見に対して戦況を見ろと一蹴され、今度は騎士達に戦えと言う……………
オルフェには、理解出来なかった。
「オルフェ!!貴様と話をしていても、埒が明かん!!騎士長!!コッチに来い!!」
オルフェの話に聞き耳も持たないガヌロンは、騎士長を見つけると大声で呼びつける。
「村人が犠牲になっている!!ヨトゥン兵の壁を突破して、村人を助けるぞ!!何人やられても構わん!!突破を優先して攻撃を仕掛けろ!!」
「なっ…………正気ですか…………あのヨトゥン兵達を突破するのは容易では無い事は、先程の攻撃で分かった筈です。村人を救う為とは言え…………そもそも、村人達は逃げれば助かりそうですが…………何故、ヨトゥン兵に挑んでいくのか…………??」
騎士長の疑問などガヌロンにとっては、どうでもいい事だった。
ただ、娘のソフィーアを救いたい…………
ヨトゥン兵に挑んでいく無謀な村人達の事など、ガヌロンの目には映っていなかった。
「騎士長殿………ガヌロン様の命令は、とても容認出来ませんが…………しかし、見習いの騎士を見捨て、村人も救えない騎士団と…………栄光のベルヘイム騎士団が蔑まれるのは、もっと堪え難い!!」
横で話を聞いていたオルフェが、自らの拳を固く握りながら、騎士長に訴える。
「そうだな…………どんな理由であれ、指揮官からの命令は下されたんだ。遅くはなったが…………ベルヘイム騎士団の意地と誇りを見せつけてやろう!!」
騎士長はそう言いながらオルフェの肩を軽く叩くと、他の騎士団員達に攻撃の号令をかけていく。
その頃、ソフィーアはベルヘイム騎士団の一連の動きを見ていた。
一度、ヨトゥン兵相手に距離をとったかと思えば、自分が飛び出した後は慌ただしく動き始めている。
(お父さん………私以外の人は、見捨てても良いって事??ランカストもテューネも………村人の人達だって、ヨトゥンに抗おうと必死なのに………ベルヘイムの騎士より、ランカストの方が立派よ…………)
今日、ランカストを紹介する時に、付き合う事を許してくれた父ガヌロンにプレゼントしようと思って買っていた指輪【聖ドゥニの護り】を見つめた。
そして、そんなベルヘイム騎士団の動きを気にしないように心に決めると、ソフィーアはランカストに視線を移す。
ユトムンダスと対峙するランカストは、弾き飛ばしたデュランダルを拾い上げていた。
クレイモアのような形状の剣デュランダルは、片手剣……………と言うには、あまりに大きく長い。
大柄なランカストであっても、デュランダルを構えるだけでフラついてしまう。
(くっ!!重い…………だが、思った通り、オレでも持てる!!ユトムンダスは、まだデュランダルに認められていなかった!!)
神剣は、自らの主を見つけるまでは、その質量を保ったまま誰でも使える。
しかし、一度主と認める者が現れると、その人以外の者が使おうとしても、持つ事すら許されない。
つまりユトムンダスは、デュランダルには認められる事なく、ただ使っていただけだった。
(これで、オレがデュランダルに認めてもらえれば、言う事ないが………そう上手く事は運ばないか…………だけど、神剣を奪えただけでも、勝てる可能性が増した筈だ!!)
ランカストはデュランダルを構えながら、ユトムンダスを睨む。
その左腕には、テューネが捕われたままだ。
「ゴメン!!ランカスト…………テューネ、取り戻せなかった…………」
突然のレイピアの攻撃に、ユトムンダスは一瞬驚きはした…………が、騎士でもない女性の攻撃如きで、ダメージを与える事は出来なかった。
「一騎打ちに応じておきながら、奇襲作戦を用意しておくとは…………人間にしちゃあ上出来だ。だが、駒が悪すぎたなぁ…………もっと屈強な騎士でも準備しておけ。デュランダルはハンデとして貸しといてやるよ」
ユトムンダスは笑いながら、余裕な表情を浮かべている。
ランカストを大きく息を吸うと、覚悟を決めてデュランダルを握り締めた。
ほんの少しだけ軽くなった感じのしたデュランダルは、その刀身を輝かせる。
「いくぞ…………ユトムンダス!!」
ランカストの使っていたバスタード・ソードを構えたユトムンダス相手に、デュランダルの一撃が振り下ろされた…………




