智美とロキ2
「ははっ!!そんなに固くならなくて大丈夫だ。君がドコから来て、ドコで2本の神剣を手に入れたかだけ教えて欲しいんだ」
智美は一瞬安堵の表情になるが、【天叢雲剣】と【草薙剣】が手元にない事に気付き、焦った表情に変わる。
「ははっ!色々な表情をして面白い娘だな!!剣は君にしか持てないから、君が剣を手放した馬車の中に放置してあるよ」
それを聞いて、智美は胸を撫で下ろす。
「私に答えられて、私の仲間に迷惑のかからない範囲内なら答えます…………それでイイですか??」
智美はロキの今までの対応に、自分達の事だけなら話てもいいかな?と思う。
「それは助かる。私は色々な文献を読むのが好きでね。とある文献によると、この世界には我々の生きている世界の他に、もう1つ別の世界が存在するとか…………君は、我々とは少し雰囲気が違う。ひょっとしたら、別の世界と繋がりがあるのではと思っているのたが…………どうだ?」
「はあ………別の世界の事、その文献には何て書いてあったんですか?」
智美は、自分達が違う世界から来た事を言うか迷っていた。
ロキの真意が分からなかった為、話を聞いてから考えようと思ったのだ。
「その文献には、【風の剣が龍を切り裂いた時、水の流れに乗って龍の中の世界に行けるだろう】と書いてある。君達がベルヘイム軍として我々の前に姿を現したのは、伝承の龍の湖の近くだったし、君の仲間で風を操る剣士がいるだろう?そして君の剣は水の特性だ。偶然とは思えなくてな………」
ロキは、真剣な瞳で智美を見つめる。
「その…………もし、別の世界があったとして、ロキさんはその世界と戦争したりしますか?」
「どうかな?私は、無理に戦う事は好まないよ。戦争は…………戦争したい誰かが、何かの理由をつけて争わせて、後は恨みや復讐の気持ちが高まって勝手に争いが拡大していく…………そして、本当の戦争の目的なんて、少しずつ忘れてしまう。君は、何故ベルヘイム軍で我々と戦っているんだ?」
そう言われると、確かに成り行きで戦争しているのか?と智美は思ってしまう。
「私達は………最初の戦場で、ヨトゥン軍の殺戮の現場を目撃して………それで戦わなくちゃって………神剣に選ばれた者として、責任があるんじゃないかって思ったんです」
ガイエンによる、オゼス村の殺戮と焼き打ち…………思い出しただけでも気持ちが悪くなる。
「そうか………だが、それが恨みとか復讐の類なんだ。殺戮されているのは人間だけなのか………戦争中に、戦場が悲しみで溢れるのは当然だ。だからこそ、戦争の本質を理解し、神・人間・ヨトゥン関係なく、何の為の戦争か考える必要がある………と、話が逸れたな」
ロキはそう言うと、珈琲を一口啜った。
「ロキさんは、どうして戦争してるんですか?」
智美は、元の世界の話をする前に、どうしても聞いておきたいと思う。
これだけの考えがある人が、何故ヨトゥン軍の指揮をとる立場で戦っているのかを…………
「私は、神達に意見を言いに行きたいんだ。その為にはヴァナヘイムという国にあるというビフレストって橋を渡らなければいけないんだが………神を良き者として見る人間が、我々の足止めをしてしまっている状態だ。しかし、ヨトゥン軍の中にも人間の土地を我が物にしようと考える者もいる………君が目撃した殺戮現場は、おそらくクロウ・クルワッハの部隊の仕業だと思う」
その話を聞きながら、智美は先程のロキの言葉を思い出していた。
神・人間・ヨトゥン関係なく、自分の考えが大事なんだと…………
「ロキさんは、神に何て言いに行きたいんですか?」
「神は、自分達の国を優秀な人々に護らせる為に、その人達の寿命を操作して早く殺しているんだ。それを止めたい………神だからと言って、人の寿命を早めていい筈が無いと思うんだ…………なんだか、私が捕虜になって取り調べを受けているみたいだな」
「ごめんなさい!!本当にそうですよね!!あの…………何から話したらいいでしょうか??」
自分の質問に丁寧に答えてくれるその瞳を見て、この人には自分達の話をしても大丈夫だろうと、智美は思った。
実際、別に隠す話でもなく、今までも信じてもらえないから話さなかっただけなのだから…………
捕虜の身なのに、客のように扱ってくれるロキに対する信頼感も、智美の中に芽生え始めている。
「そうだな………まずは、君が何処から来たのかを教えてくれ。やはり、こちらの人間達とは、言葉使いを含めて雰囲気が違いすぎる気がするのでな………」
「はい…………私達は、確かに世界を越えて来た…………と思います。こちらの世界に来た時、湖畔に立っていたので、ひょっとしたら文献通りなのかも知れないです。私達の暮らしていた世界には、魔法も存在しないし、剣も…………まぁ、あると言えばあるんですが、殆ど使ってないような………」
智美の答えに、ロキは身を乗り出してきた。
「やっぱりあったか!!世界が違えば、文明が違っても当たり前だな!!しかし、剣も魔法も無いとすると………どうやって戦っているんだ??」
子供のような反応をするロキに、智美にも自然と笑みが浮かぶ。
「うーん…………私も、よく知らないんですけど、銃っていう遠くから人を撃てる道具とか、ミサイルって言って飛んできて爆発する道具とか…………あと、戦車って言って車に砲台が付いてて動くヤツとか…………」
話をしている智美にも分かるぐらい、ロキの頭の上にハテナマークが次々に増えていく。
「つまり………我々の世界より、道具が進歩しているんだな………そして、肉体機能については退化しているのか…………と、すまない!!悪い意味で言ったつもりはないんだ!!」
智美は笑いながら、慌てるロキに対して首を振る。
「本当の事ですもん。私達の世界は機械が発達して、最近では掃除も自動でやってくれるし………体を動かす事が少なくなってますから」
「掃除を機械がやる??そもそも、機械とは何だ??」
それから智美は、現代社会の説明を延々と話した…………その全ての話に、ロキは瞳を輝かせて、子供のように聴き入っていた。




