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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
レンヴァル村の戦い
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作り出された希望

 フェルグスはカラドボルグに力を込めると、フードを被った男に照準を合わせる。


 再び、閃光の如く伸びていくカラドボルグが、フードを被った男に襲いかかった。


「ただの突きなら、先程の風の力で逸らせる事が出来るだろう。だが、これならどうだ!!」


 フードを被った男の前に広がる、風のバリアの少し手前……………カラドボルグの先端に稲妻の様なスパークが起こる。


「カラドボルグは、ただ伸びるだけの剣にあらず!!雷の力が加わる事で、この剣は真価を発揮する!!」


 フェルグスの叫び声と共にカラドボルグから放たれた稲妻が、フードを被った男を巻き込みながら大地を焼いていく。


 いや、稲妻に巻き込まれたと思った瞬間、稲妻の嵐の中から黒い影が凄まじい勢いで飛び出し、フェルグスに斬りかかる。


 風の力を利用し、稲妻が発生するよりも早く高速でカラドボルグの剣先を抜けて、フェルグスに攻撃を仕掛けたのだ。


 後方へ逃げたら稲妻に追いかけられて、その身を焼かれていただろう。


 そのため瞬時に前に出る判断をし、攻撃が襲い来る前方へ自ら飛び出したのだ。


「ぐおっ!!何てヤツだっ!!」


 まさか自分が攻撃されると思っていなかったフェルグスは、咄嗟にカラドボルグでエアの剣の斬撃を受ける。


 が………………その斬撃を受けた瞬間、強烈な風がフェルグスの身体を吹き飛ばす。


 2回、3回と転がったフェルグスは、しかし攻撃の機会を伺っている。


 風の力を使いながら…………加速しながら自分に迫る男に、フェルグスは転がりながらもカラドボルグを伸ばす。


 不意打ちの様な攻撃……………形振り構っていられないフェルグスの、自分のポリシーを曲げた攻撃だった。


 母を救う為には、何が何でも勝たなければいけない。   


 しかし、その不意打ちすら通用しなかった。


 伸ばしたカラドボルグはエアの剣で軽々と受けられ、風の力で受け流される。


「肉を切らして骨を絶つ………………喰らえ!!」


 カラドボルグの剣先が、先程と同じく稲妻を纏う。


 違うのは、その稲妻が前に行くのではなく、後ろに戻ってくる事だった。


 そう、カラドボルグを縮ませながら、それを追うように稲妻が迫る。 


 風の力でフェルグスに急接近するよりも更に速く、稲妻を纏ったカラドボルグが戻ってくる。


 自らも雷に晒されるが、相手を確実に倒す……………フェルグスの苦肉の策だった。


 ガガガガガガガッ!!


 何箇所かに同時に落雷したかのような、猛烈な爆音が響き渡る。


 フェルグスは、その身が雷に貫かれるのは覚悟の上だった。


 大地を叩き割るような……………耳をつんざくような爆音を聞きながら、その身に受ける衝撃に備える。


 だが、その瞬間は訪れない。


 大気を包み込むような風の壁が、フェルグスとフードの被った男…………2人分のスペースを確保し、稲妻の侵入を防いでいた。


「なんて……………なんて事だ…………私の攻撃が、こうも易々と……………」


 諦めに近い言葉を発し、カラドボルグを力無く落としそうになるフェルグスの手を、フードを被った男がそっと支える。


「雷はそのまま!!この状態なら、外にいるヨトゥンに気付かれず話せますよ」


「?????」


 明らかに戦意の無い言葉に…………そして爆音の中スッと入ってくる男の声に、フェルグスは怪訝な表情を浮かべた。


 雷の壁が、2人の姿と声を隠しているのは確か…………しかし、何故か対峙する男の声は聞こえてくる。


「この風の中は真空……………雷の落ちる音も入って来ないですよ。それより、あの気持ちの悪い男が、一騎打ちの勝者を助ける訳ないと思いません?2人で、どうにかしませんか?」


 突然の提案に、フェルグスは驚きを隠せない。


 いや、提案に驚いたのか……………本気の自分の攻撃を読みながら、この状況をいとも簡単に作り出した男の実力に驚いているのか……………フェルグスは分からなかった。


 ゼークが信用して共に戦っていた風のMyth Knightとは、恐らく別人だろう……………何故、この男がエアの剣を扱えるのかも分からない……………それでも、スリヴァルディよりは信用出来る……………その静かな声色に、フェルグスはそう感じる。


「だが………………どうする?スリヴァルディは不死身だ…………悔しいが、ヤツを倒そうとしたところで、人質を先に殺される…………」


「不死身でも、首を飛ばしてから動けるようになるまで、少しの硬直時間がありました。それはさっき確認したので、至近距離で斬り続ければ、人質を殺す動きは出来ない筈です。後は、周りのヨトゥン兵をどうにか出来れば…………」


 静かで優しい声色だが、その実力を肌で感じたからなのだろうか…………この男となら、人質の救出も容易く感じてしまう。


「このままヤツの言いなりに戦っても、人質も我々も殺される可能性は高い……………貴殿の言う通りだ。母の救出に力を借して頂けると助かる」


「僕も、この村の人達を……………人を犠牲にしたくないんです。戦いながら……………怪しまれないように近づいてから、僕があの気持ちの悪い男を………」


「私が、周りのヨトゥン兵を蹴散らせばいいか……………信用して……………いいんだな?」


 力強く頷く男を見て、フェルグスは雷を止めると同時にカラドボルグを伸ばす。


 ガキキィン!!


 激しい金属音が、周囲に木霊する。


(流石だな……………不意打ちですら、こうも簡単に対応する。少々、私の自信が失われるが……………)


 と………………その目前に鎌鼬が迫って来た。


(油断すると、スリヴァルディを倒す前に私が殺されかねんな……………)


 辛うじて鎌鼬をカラドボルグで弾くと、距離を置いて再び2人は対峙する。


 救う為の戦いである事には、変わりない……………それでも、希望の見えた2人の瞳に迷いは消えていた…………


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