スリヴァルディの策略
「フェルグスの母親は、まだ見つからないのですか?」
「はっ!!只今、それらしい女性を見つけたとの報告がありました。じきに、こちらに連れて来れるでしょう」
その報を聞くと、スリヴァルディは焦りながら近くにいた幼い少女を抱え上げると、その首に剣を突き付ける。
「さて、風のMyth Knightさん。この状況でも、まだ鎌鼬を撃ち続けられますかねぇ…………私の首を飛ばせたとしても、この少女の命も同時に消える事になりますよ。まぁ、私は死にませんがね」
その少女は、魔術師によって眠らされているのだろう。
スリヴァルディの腕の中で、力無く項垂れている。
そして、この状況は【伝心】の魔法によって、フードを被りエアの剣を持つ男に伝えられた。
「ふぅ………………」
その男は、少し面倒臭そうに溜息をつくと、歩きながら丘を下り始める。
「そのまま、コチラにどーぞぉ…………あなたの首で、この少女を助けてあげますよぉ」
スリヴァルディは心の中で笑いながら、人間はつくづく愚かだと思う。
ヨトゥン軍の将である自分に恐怖を感じさせる程の強さを持っているのに、無力な人間を1人でも人質にとれば、その力を無力化出来る。
フードを被った男がレンヴァル村の中心付近に到着した頃、フェルグスの母親もスリヴァルディの前に連れて来られていた。
自分の有利な状況を次々と作り出し、スリヴァルディは先程までの恐怖に引き攣った顔が嘘のように笑いが止まらない。
その時……………フードを被った男がいた逆の丘から、スリヴァルディに向かって一条の閃光が伸びて来る。
「おっと!!」
スリヴァルディはフェルグスの母親を閃光の伸びて来る場所に盾のように立たせると、閃光が剣の形状になり止まった。
「やはり………………貴方に、母親は殺せませんよねぇ…………【ゲッシュ】なんて面倒臭いモノがありますからねぇ………」
その閃光が放たれた先……………そこには、白と黄金の鎧に身を包む男……………苦虫を噛み潰すような顔で、フェルグスが馬上からスリヴァルディを睨む。
【ゲッシュ】とは…………騎士に課せられる制約…………誓いのようなものである。
ゲッシュを守る事は、神の祝福が受けれるとされ、破れば禍が降りかかると言われている。
そして、ゲッシュの誓いが厳しいものであれば、受けとる祝福も強いとされている。
フィアナ騎士は、ゲッシュを課す事が義務付けられており、強いゲッシュの設定をする事が、最強の騎士に近づく事とされていた。
フェルグスのゲッシュは、母を傷つけない、母を救った者は命懸けでも守る、親友とは戦わない、という3つのみだが、とても強い制約がある。
母を傷つけない…………それは、己であっても他者であっても、母を傷つけてはならぬと言う事…………母自身以外の者が傷つけた場合の全てに該当する。
今の状況であれば、スリヴァルディが母親を盾にしている限り、フェルグスから攻撃出来ない状態であった。
「良い事を思い付きましたよ!!フェルグスも、風のMyth Knightも死んでもらいましょう!!」
スリヴァルディは、気持ちの悪い笑いを浮かべていた…………




