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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
レンヴァル村の戦い
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ジュワユーズの起こす奇跡

 航太達が、ベルヘイム軍の幕舎に戻ると、一人の男がアルパスターのテントから出てきた。


 黒髪で短髪、細身だが体が鍛え抜かれてるのは、肩幅や腕の太さを見れば分かる。


「オルフェじゃないか!!どうしたんだ??」


 ランカストが親しい友を呼ぶように、その男に声をかける。


 オルフェと呼ばれた男はすぐにランカストに気付き、航太達の方に歩いてきた。


「どうした?とはご挨拶だな。お前が失態かましてくれたおかげで、オレが援軍を引き連れてくる事になっちまったんだぜ!」


 言葉とは裏腹に、オルフェの顔には笑みがこぼれていた。


「スマンな。まさかガイエンの軍にスルトの軍勢が混じってるとは思わなくてね……………まぁ、ヨトゥン領見学でも楽しんでいってくれ!!」


 ランカストも、笑顔で答えている。


「あの~~~、こちらの方は??」


 意気投合している2人に声をかけ辛かったが、絵美が恐る恐る聞くと、「スマン!」とランカストは言って紹介を始めた。


「コイツは【オルフェ・グランス】ベルヘイム騎士団の誇る【12騎士】の1人で、文武両道の猛者だ」


 ランカストの紹介に、オルフェは頭を掻いて恥ずかしそうにしている。


「オルフェだ。皆さんヨロシク!!君が風の騎士の航太クン。で、君が美少女騎士の絵美サンだね。アルパスター将軍から聞いているよ」


 握手を2人に求めながら、オルフェは確認の挨拶をする。


「美少女なんて♪♪オルフェさん、本当の事言っちゃ駄目ですょう♪♪」


 現代社会ではあまり見かけない、男らしい体格のイケメンに誉められ、照れながらも明らかに喜んでいる絵美に、呆れ顔のガーゴが絵美の頭から航太の頭に乗り移り、絵美の顔を覗き込む。


「美少女…………………でしゅか。ゼークの方が何倍も可愛いでしゅよ。お世辞だって事に気付いた方がいいでしゅ。見てるコッチが恥ずかしいでしゅよ~~」


 ガーゴを見てる絵美の目が、恐怖の色の光をだす。


「……………ガーゴ……………逃げとけ……………」


 航太が言った瞬間、ガーゴを捕まえようとした絵美の手が、航太の顔面にヒットする!!


「ふがっ!!」


 間一髪、絵美の手をかわしたガーゴが、逃走を開始する。


「待て~~!!ガーゴ!!焼き鳥にして食べちゃうぞ!!」


 追いかけっこを開始する2人の巻き添えを喰った航太は、顔面を押さて痛そうにうずくまる。


「…………………………」


 ア然とするオルフェに、ランカストが「いつもの事だ」と言ってため息をつく。


「にゃはははは☆」


 その横で、ゼークが腹を抱えて爆笑している。


「なんだ??酒でも飲んで来たのか?」


「ああ………………オレと航太だけな………………走ってるのと、爆笑してるのは飲んでない……………」


 オルフェの問いにランカストが答えると、再びオルフェはア然とした表情になる。


「ま、あれで戦いになると心強いんだがな…………」


 ランカストが言うと、オルフェは「絶対嘘だ」という表情をした。


「ところでオルフェさんは、ドコから来たんですか??うちらが酒飲んでる間に来れる距離って……………」


 鼻の頭を押さえながら、航太は疑問に思ってる事を口にした。


 ランカスト将軍が兵を失い、その補充の為だとすれば、数時間で準備し部隊に合流した事になり、あまりに早過ぎると思ったからだ。


「数時間前までベルヘイムの首都にいたよ。国王に呼び出されて、数時間で準備したんだ。まいったよ」


 数時間前のドタバタを思い出したのか、オルフェが溜息をつきながら答えた。


「いや、やはりおかしい。数時間で準備したなら、その時間だけでオレらは酒場から帰ってきている」


「ハハハっ!航太、そんなに不信がらなくていい。国王陛下が力を貸してくれたんだな」


 不信がる航太を宥めつつ、オルフェに同意を求めた。


「ああ、航太クンは知らないんだな。国王陛下の神剣【ジュワユーズ】はスゲーんだぞ!!最大3000人近くの人間を、一気に瞬間移動出来る力を持っているんだ。力を使う時は、剣が30色の輝きを放ち、幻想的な感じになるんだぜ!!」


「まぁ、移動先にも準備が必要で、移動する人数が安全に到着出来る環境を整えないといけないんだがな。だから今回は、こんな平原に陣取ってる訳さ」


 オルフェとランカストが、交互に説明してくる。


 その興奮度の高さで【ジュワユーズ】の凄さが伝わってくる。


「そっか。神剣って使いこなせると、無限大に可能性が広がるのかもな………………」


 航太が自らの神剣【エアの剣】を見つめる。


「まぁそうだが、強すぎる力には代償がある。【ジュワユーズ】は力を使うと30日間、神剣の特性が使えなくなるんだ。自分の身が守れなくなるのを承知で、国王陛下は力を使ってくれたんだ…………………」


 ランカストが申し訳なさそうな表情をして、唇を噛んだ。


「騎士は主君を危険に晒せないからな。だが、それだけ今回の任務は重要なんだ!!」


 オルフェは顔を引き締めて、ランカストの肩を叩く。


(ずっと気になってるけど、姫を助けるのってそこまで重要なのか??沢山の人が死んで、智美も犠牲になったのに!!)


 航太は姫に特別な力があるか、姫を助けるのは口実なだけかもしれないと感じていた。


 しかも、それは内密にしなければいけない事情なのだろう。


「捕まえたぁ~~~~~!!」


 そんな航太の思考を、絵美の大声が台なしにした。


「は…………………離すでしゅ~~。捻ったら元に戻らなくなりましゅよ~~~。」


 絵美がガーゴを雑巾のように絞りあげ、ガーゴの体は白と葡萄酒の紫色が縞模様になりながら捻れていく。


 その様子を見ながら、相変わらずゼークは手を叩いて笑っている。


「だいぶ、リラックス出来たみたいだな。そろそろ皆、休みをとろう。疲れてるだろうからな。航太は酒も入ってるし、グッスリ寝れるだろ」


 ランカストの言葉に、ゼークと絵美が頭を下げた。


「今日は、ありがとうございました。将軍、最近少し落ち込んでたケド、凄い楽になりました☆」


「ホント、ランカスト将軍の事、少し好きになっちゃったかも♪ほら、航ちゃんもアリガトする!!」


 絵美が航太の頭を無理矢理に下げて、再び一同の輪が笑いに包まれる。


「コッチこそ、皆と話せて気分転換出来たよ。これからも激戦が続くと思うが、仲間を思いやりながら戦っていこう!!」


 ランカストの言葉に皆が頷き、それぞれがテントに散っていく。


「航ちゃん、オヤスミ」


 テントに入ろうとした航太に、ガーゴを抱いた絵美が声をかけてきた。


 宴が終わってしまって、淋しさが込み上げて来た……………そんな声に航太は聞こえた。


 静かになると、どうしても智美の事を思い出してしまう。


 忘れてた感情が込み上げてくるのを抑え、航太は絵美の方を向いた。


「オヤスミ。今日はゆっくり休もうぜ!!」


 智美の事を言うと、今以上に現実が降りかかって来そうな気がして……………航太はそれしか言えずにテントに入った。


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