激闘!!ムスペルの騎士
更に後ろに続く騎士は3人で、皆ガイエンの鎧より少し深みのある朱色の鎧を身に纏っている。
「ガイエン!!てめぇ!!よくも…………よくもノコノコと出てきやがったな!!」
航太は渾身の力を込めて、風の刃……………鎌鼬を放つ!!
凄まじい風圧が発生し、航太の怒りを乗せた風の刃は大気を切り裂き、ガイエンとその後方にいる朱色の騎士に牙を剥く!!
しかしガイエンはおろか朱色の騎士も、航太の最大の力を乗せた風の刃をいとも簡単に弾いて、何事も無かったかのように歩みを止めない。
「なっ!!一般兵にすら…………効かない!?」
手応えはあった………渾身の力で放った風の刃は、航太の意思を力に変えていた。
それでも………兵卒にすら簡単に弾かれた事に、航太は狼狽した。
「やはり…………奴らは【ムスペルの騎士】だっ!!ただのヨトゥン兵とは違うぞ!」
ランカストの言葉に乗って来る緊張感が、ムスペルの騎士が危険な存在だという事を伝えている。
「ムスペルの騎士って??そんなに違うの??」
危険を察知した絵美は、後方に控えるエリサとティアをチラッと見た後に戦闘態勢を整える。
「普通の兵とは大違いだ!!【黒き者・スルト】直属の騎士で、その強さはヨトゥン軍の将に匹敵する程だ!!」
そこまで言った頃には、ガイエン達は目の前にまで迫って来ていた。
「話は後だ!!」
ランカストは神剣【デュランダル】を振り上げ、凄まじい風切り音を上げながらガイエンに向かって振り下ろす!!
しかしガイエンは馬から飛び降りながらその剣を避け、ランカストには見向きもせずに航太に向かって走りだした。
逆に体勢の崩れていたランカストは、ガイエンの後に続いて来たムスペルの騎士の1人の剣撃を辛うじてデュランダルで受け止めたが、そのまま戦闘に縺れ込み足踏み状態になる。
ガイエンはその隙に、航太の目の前にまで迫った。
「このっ!!コイツら何なの?無言で気味悪い!!」
静かに強い剣撃を繰り出してくるムスペルの騎士は確かに不気味であり、感情の読めない相手に、絵美は嫌悪感をその身に覚える。
ランカストと互角に渡り合うムスペルの騎士に、絵美が何とか出来る訳もなく、防戦一方となり、こちらも援護が期待出来る状況ではない。
更に、3人目のムスペルの騎士が航太達の横をすり抜けて、エリサに斬りかかった!!
「くそっ!!間に合え!!」
航太は目の前まで来たガイエンの足元に鎌鼬を繰り出し土煙で目隠しをして、邪魔の入らない状態を作りだし、エリサに攻撃しようとしていたムスペルの騎士の剣を目掛けて風の刃を放つ!!
バシイイィィィィン!!
目を伏せ倒れ込んだエリサの目の前で、剣と風の刃が激突し、金属と風が擦れ合う奇妙な音を発した後、ムスペルの騎士が後方に吹き飛んだ。
「エリサさん、下がってて!!」
航太はそう言うと、ムスペルの騎士とエリサの間に滑り込み、エアの剣を構える。
「ありがとう!航太さん!!」
エリサはそう言うと、怯えているティアの手を掴み、大急ぎで後方へ下がる。
(しかし、こいつら強い!!これで一般の兵なのか??んで、更にガイエンの相手もしなきゃ…………だよな)
赤き不気味の剣【ヘルギ】を持ち、ガイエンが航太の前に再び迫ってきた。
「やってくれたな…………まぁいい………オレとムスペルの騎士、同時の攻撃に耐えれるかな?」
「耐えれるか!!てか、2人同時に相手する気もねーよ!!」
先程のような正確に標的を捉えるのではなく、渾身の力を込めた風の刃をムスペルの騎士に放ち、航太はガイエンに斬りかかる!!
「おいおい…………随分しょぼい策だな…………普通にオレと剣技で勝負とは……」
ガイエンの言う通り、ただの剣技で戦えば結果は目に見えていた。
軽く振るわれた【ヘルギ】で、航太は弾き倒される。
(やっぱ、無謀なチャレンジすぎたか…………でも、エリサさん達が逃げる時間は作れたはずだ)
素早く立ち上がった航太は、再びガイエンとムスペルの騎士と対峙するが、もはや打つ手は無かった。
(くそ…………ここまでかよ…………終る時って結構呆気ないもんだな………)
今の自分に、ガイエンとムスペルの騎士を同時に倒せる自信が無い…………それどころか、どちらか一方にも勝てるかどうか…………
絶望が、航太の頭を支配していた………正に、その時!!
「ぬをっっ!!」
航太の脇を通り、不意打ちの如く火の玉…………【火弾】の魔法がガイエンを襲った。
「エリサさん!!なんで逃げてないんだ!!」
火弾を間一髪避けたガイエンが、航太の叫んだ視線の先を見た。
「雑魚が………まだウロウロしてやがったのか!!小煩い奴め!!」
ガイエンがエリサに向けて走り出した瞬間、ムスペルの騎士が航太に襲いかかる。
「うわっ!!止まれガイエン!!彼女達は、非戦闘員だぞ!!戦うならオレと戦え!!」
航太はそう言いながらも、ムスペルの騎士相手に手一杯で、ガイエンを追うことは出来ない。
航太の声に耳を貸す気はないガイエンは、エリサに赤く光る【ヘルギ】を向ける。
その剣先を見てしまったエリサは、体が震え出し魔法が唱えられなくなってしまった。
(まずい!!)
そう思った航太の視線の先に、ティアの姿が写った………




