2人の逃避行
アルパスターが航太の救援に駆け付けていた頃、ゼークと智美は乱戦の戦場に身を投じていた。
足を引きずる智美を支えながら移動するゼークの歩行スピードは遅い。
次々に現れるヨトゥン兵に回復する余裕もなく、傷ついていく2人は標的にされ続ける。
右手のみで全長140㎝にも及ぶバスタード・ソードを振り続け、智美も支えながらの戦いは、さすがのゼークでも体力の消耗を避けられなかった。
(この身がどうなっても、智美は助ける!!)
気力だけで必死に剣を振るゼークだが、次から次へと襲ってくるヨトゥン兵に、徐々に押され始める。
「ごめんね………ゼーク。私、凄い足手まといになっちゃって………」
「何言ってるの!私が戦えてるのは、智美が腕を回復してくれてるおかげだよ。2人で切り抜けるよ!!」
智美は、ゼークの腕を最優先で治していた。
自分の足は激痛が走り、すぐにでも治したかったが、この状況を切り抜けるにはゼークに戦ってもらうしかない。
そんな気持ちも智美に罪悪感を感じさせていたが、ゼークも智美の傷が酷いのも理解しながら回復を優先してもらう事に申し訳ない気持ちを感じていた。
(私が………踏ん張らないと!智美も傷の痛みと闘ってるんだから!!)
そんな思いも、突然の攻撃で無に帰す。
「ぐわっっ!!」
突如、後ろからヨトゥン兵に体当たりされたゼークは、その拍子に智美を離してしまった。
「きゃぅっ!!」
智美は倒れた拍子に、大量出血の影響もあり意識を失った。
(まずい!!)
ゼークは地面に倒れた智美を助けようとするが、数で攻めてくるヨトゥン兵に、少しずつ智美との距離が離れていく。
(畜生!!私もMyth Knightならこんな奴ら………)
航太やアルパスターの戦いを思い出し、ゼークは無い物ねだりをしてしまう。
しかし、現実は厳しい。
普通の剣では、1人1人倒していくしかない。
しかも負傷している体では、思うように動かない。
戦い続けるゼークの視界からは、もはや智美の姿は消えていた。
しかし、ゼークは戦場に残り戦い続ける!!
徐々にゼークの体にも傷が増えていき、動きも鈍くなっていく。
(智美…………せめて智美だけでも………)
その思いだけで剣を振り続けるが、限界が近づいてきた。
ゼークの気持ちが萎えかけた、その時!!
3本の閃光が、ゼークを守るように周りのヨトゥン兵を薙ぎ払った。
「ゼーク!!大丈夫か??」
「アルパスター将軍………どうして……」
アルパスターの姿を見て安心したのか、ゼークの全身から力が抜け、その場に倒れ込む。
その体のいたるところが、ヨトゥンと自らの血で赤く染まっている。
綺麗な銀色の髪も所々赤く、その乱れ方も尋常じゃなかった。
それだけにアルパスターは、ゼークがどれだけの激闘をくぐり抜けて来たか理解できた。
「もう大丈夫だ!!一回引き上げるぞ!!」
ゼークを抱き上げると、アルパスターは幕舎に向けて馬を走らせる。
「将軍……まだ智美が………」
朦朧とした意識の中で、ゼークは必死にアルパスターに伝える。
その瞳には、今にも戦場に戻り智美の捜索を続ける意思をアルパスターに訴えている。
「分かってる。幕舎に戻ったら、捜索隊を組織する。お前は一度休め!」
そう言うと、アルパスターは【ブリューナク】で光の槍を放ち、一瞬で血路を作り出す。
(やっぱりMyth Knightは凄い………アルパスター将軍なら……)
ゼークは、アルパスターの腕の中で意識を失った。




