対峙する騎士
「うぉおぉぉぉ」
航太は慣れない手つきながら馬を操り、片手で【エアの剣】を横に振る。
すると、真空の刃が発生し、ヨトゥン軍の陣を強襲した。
手前にあるテントの殆どを吹き飛ばし、さらには真空の刃によって体を切り裂かれる者、吹き飛ばされる者……ヨトゥンの軍は混乱し始めた。
「流石はMyth Knightだぜ!!」
ゼーク軍の士気が上がり、軍全体の熱がグングン上がっていく。
「もー一丁だ!!」
航太は同じように、真空の刃を発生させる。
体制の整わないヨトゥン軍は、再び真空の刃の強襲にさらされる。
人間から攻めてくる筈ないと思っていたヨトゥン軍は、明らかに後手に回ってる………かに見えた。
しかし、フェルグスの指揮するヨトゥン軍の対応は早い。
一瞬パニックに陥った部隊をすぐに整え、魔導師を前衛に立たせて【火弾】を使ってきた!!
【火弾】は松明などの元になる火を使い、相手に火の玉を投げる魔法である。
「智美!!!」
ゼークが叫ぶと、軍の中央に位置していた智美が【草薙剣】と【天叢雲剣】を振る。
すると、智美を中心に薄い青の膜のような物が半球状になり、軍全体を包み込む。
この膜は水で出来ており、火弾は膜に当たると消失していく。
軍の動きに合わせて智美も動く為、ゼーク軍は常に水の膜に包まれている状態でヨトゥン軍の火の魔法を寄せ付けない。
更には、ヨトゥンの魔導師部隊の上から大量の雨が降ってきて、松明の火を全て消してしまう。
絵美が【天沼矛】の力で、雨を降らせているのだ。
3人とも一週間の特訓で、神剣や神槍のそれぞれの特性を把握していた。
大いに沸くゼーク軍。
一気にヨトゥンの陣地に雪崩込んだ……ように見えた。
が…雪崩込もうとした何人ものゼーク軍の兵の胴体が、一瞬にして真っ二つにされる。
目の前で一瞬で兵が殺される瞬間を見て、航太は自分でも顔が青くなるのを感じていた。
(………………………何が起きたんだ??何にせよヤバイ!!)
ゼークも恐怖からか怒りからか、身体を震わせている。
「フェルグス……」
そう呟いたゼークは、兵が真っ二つにされ切り崩された部隊の方に全力で馬を走らせた。
「フェルグス!!私と勝負しなさい!!」
叫びながら、ゼーク軍とフェルグス軍の混戦となっている戦場を駆け抜ける。
その時、ゼークは閃光の如く伸びる一筋の光を見る。
咄嗟に馬から飛び降り、転げ落ちるように閃光をかわした。
綺麗な銀の髪が閃光によって何本か切り裂かれ、キラキラと太陽の光で輝きながら空に舞う。
「ゼーク… 【カラドボルグ】の一撃をかわすとは、成長したな…しかし、将が部隊を外れて戦っては駄目だ 」
以前のように、白き鎧に黄金の装飾が施された高貴な鎧を身に纏う男が、馬に乗ってゼークの前に現れた。
「フェルグス!!どうしても人と戦わなければいけないの?私や、アルパスター将軍と供に歩む事は出来ないの!!」
ゼークは叫んだ…もう供に歩む事は不可能だと頭では理解していた。
でも、心が叫ばずにはいれなかった。
フェルグスは無言で首を横に振り、悲しそうな瞳で【カラドボルグ】を構える。
「分かってる…騎士として、護るべき者は護らないといけない…そういう事だよね…」
ゼークは誰にも聞こえないような声で呟くと、自らの持つバスターソードを構えた。
「フェルグス!!私は、貴方とアルパスター将軍は戦わせない!!ここで…ここで食い止めてみせる!!」
今度は決意の篭った大きな声で、ゼークは自分の迷いを断ち切るようにフェルグス相手に飛び込んでいった…




