宿命の戦い6
「智美! 大丈夫か?」
「結構キツイけど……なんとか大丈夫。でも……これじゃ、カズちゃんの力になれないね……」
肩で息をする智美を見て、航太は首を横に振る。
「そんな事ねーだろ! 今の1回だって、一真にとっては助けになった筈だ!」
智美の頑張りを感じた航太は、労いの言葉を投げかけた。
だが……そうは言ってみたものの、ロキに致命傷を与えられて無い時点で力になれていないようなモノだ。
「ねぇ……鳳凰天身って、どのぐらいの時間使えるのかな? 心を失っちゃうって聞いてるケド……まだ大丈夫だよね?」
「大丈夫に決まってんだろ! 一真が、何も考えないで戦ってる筈がねぇ! 大丈夫……大丈夫だっ!」
エアの剣で一真に風を送りながら、航太は叫ぶ。
そう……まるで、自分に言い聞かせるように……
航太の言葉に焦りを感じた絵美は、更に不安な表情で空で戦う一真の姿を目で追った。
「航太、遅くなった!」
そこに、馬に乗って駆け抜けて来たオルフェが馬上から航太に声をかける。
「オルフェさんか……全力でサポートしているつもりだが、均衡を崩せねぇ……このままじゃ、ジリ貧だぜ!」
「オルフェさん……鳳凰天身って、どのぐらいの時間で心を失うんですか? まだ……大丈夫……ですよね?」
航太と智美が、矢継ぎ早にオルフェに話しかけた。
「鳳凰天身……そもそも、その力を過去に使った事があるのは、7国の騎士アスナだけだからな……」
そう言うと、オルフェは一真に向けて矢を射ろうとしている騎士を説得するヴァナディース姫……フレイヤを見た。
その視線に気付いたフレイヤは、説得していた騎士達に向けて魔法を放った後に、オルフェの方に歩み寄って来る。
フレイヤの魔法に掛かった騎士達は、一真に向けていた敵意を忘れたかのように、その場を離れて行く。
「今の魔法が、セイズですか?」
「ええ……効果範囲が狭いから、複数に掛けるのは難しいのだけど……」
オルフェの質問に頷くと、フレイヤは空で戦う一真の背中を目で追った。
「航太……正直に話すと、アスナが鳳凰天身を使った時は1分も持たなかった……バルドル様が、どこまで内なる鳳凰に抗えるか……」
フレイヤの言葉を聞いた航太は、エアの剣を握る手に力を込める。
額からは、冷や汗が流れ始めた。
無意識に、心が危険信号を送って来る。
「くそっ! 智美、絵美……もう一度、水の力でロキの野郎の力を反射させるんだ! もう時間がねぇ!」
「分かってる! キツイとか言ってられる状況じゃない! 何回だって、やってやるわっ!」
膝をついていた智美は、ふらつきながらも立ち上がり、2本の神剣を構えた。
「おい待て! このまま続けたら、お前達が消耗して倒れるぞ! せっかく切り札を持って来たんだ。使ってくれないと、ゼークと国王に申し訳が無いんでね」
オルフェはそう言うと、フレイヤの足元の大地に1本の剣を突き立てる。
「これは……ミュルグレス? ベルヘイムに託された神剣の1つ……何故、ここに?」
「ミュルグレスは、ガヌロンの神剣だったのですが……ロキの魔法に晒されたガヌロンが国王に返納し、ベルヘイム城にて保管されていたのです。ゼークの魔導師の指輪でエリサの伝心の魔法を増幅し、国王陛下のジュワユーズで送ってもらったのです」
ミュルグレス……それは、ガヌロンがベルヘイム12騎士として戦っていた時に使っていた神剣であった。
死の剣と呼ばれるミュルグレスは、デュランダルの姉妹剣である。
金の柄頭に聖遺物を納める事で力が増すのも、デュランダルと同じだ。
そして、その能力……聖遺物を納めたミュルグレスの力は、人格を破壊し、人格を破壊した者を意のままに使役させる事が出来る。
聖遺物を納めていない状態だと、指定した者の真実の姿を晒け出させるというだけのモノだ。
悪人が人を騙す為に善人ぶっても、ミュルグレスの前では悪人としての自分が出てしまうのである。
ガヌロンがロキに騙されていたように見せれていた理由……そう、ガヌロンはミュルグレスの力を自分自身に使っていたのだ。
自身の人格を崩壊させて、娘の復讐の為に生きているように演出する……ソフィーアの死後、ガヌロンの性格が変わったのはミュルグレスの力である。
その力の解放条件が、ロキの魔力を失った時……ミュルグレスの力は、人格崩壊させるが、記憶は失わない。
更にガヌロンは、ミュルグレスの力でロキの本心も見抜いていた。
だからこそ引けなかった……この世界を崩壊させない為に……
その神剣はガヌロンの死後、所有者を失っている。
その為、誰にでも持てる神剣となっていた。
「そう……私なら、皇の目で神剣の力を引き出せる……オーディンに化けているロキの正体を晒けだせれば……」
「そうです。そうすれば、ベルヘイム軍を後退させられる……一真が戦う理由も無くなる筈です」
フレイヤは頷くと、ミュルグレスの柄を握り締める。
「分かったわ……やってみる!」
フレイヤの瞳が青く光り、その瞳でロキを睨みながらミュルグレスを構えた……




