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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
Myth of The Wind
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宿命の戦い

「オーディン……だって? 確か、神の1人だよな? なんでオレ達を攻撃する? 神の世界を守る為に、人間は戦ってるんだろ?」


 色々な疑問が、航太の中に渦巻いていた。


 神の為に戦い、多くの犠牲も出ている。


 そして、たった今……神にとっても脅威の筈のバロールをも倒したのに……


 労われるなら分かるが、なぜ攻撃されなければいけないのか……


 背中で冷たくなっていくガイエンを感じながら、航太は行き場のない感情が湧いてきた。


「ねぇ……自分達が攻撃されてるのに、何で拝んでんのよっ! そんな事してたら、一方的にやられちゃう!」


 絵美も航太と同じ気持ちなのだろう……自分の周囲の異様な光景に、軽いパニックを起こしている。


 口を半分開けて呆然としている智美と、雷を弾いた一真以外の人々は、方膝をつき頭を垂れていた。


 家族が……仲間が、雷に打たれたにも関わらず……だ。


「オーディン様っ! 我々は、命懸けでバロールを倒しました! なぜ、雷を落とすのですか?」


 頭を下げながら、アルパスターは叫ぶ。


 頭を下げている誰もが、航太達と同じ気持ちだった。


 しかし、神には逆らえない……大昔より身体に染み付いているモノが、どんなに理不尽な事であっても身体を……感情を抑えてしまう。


 それでも、アルパスターは叫ばずにはいられなかった。


「別に人間を殺すつもりはない。ここまでの活躍、良くやってくれたと思っている。しかし、バロールを倒せる程の人間……いや、ヨトゥンを野放しにはしておけまい? ならば、今ここで倒してしまう方がよい。多少の犠牲は仕方がない事だ」


 アルパスターの問いに答えたオーディンは、グングニールを構える。


「おいおい、ちょっと待てよ! ヨトゥンってのは、一真の事を言ったのか? 一真がヨトゥンって言うなら、なんでバロールを倒す必要があんだよ? バロールから姫さんを救うんだよ? あんた、言ってる事が目茶苦茶だぜ!」


 エアの剣を構えてオーディンを睨む航太の前に、ゼークが立ち塞がった。


「ちょっと航太! オーディン様に剣を向けるって、どういう事? エアの剣を鞘に戻して、頭を下げなさい!」


「おいおいゼーク……こんな時に、何の冗談だよ! さっきの雷……一真が飛び上がって対応してくれてなければ、俺達が死んでたかもしれないんだぞ……」


 そこまで言って、航太は少し後退りをする。


 ゼークも……その後ろに控えていたベルヘイム騎士達も、殺気を孕んだ表情を航太に向け、今にも飛び掛かって来そうだったからだ。


「航兄! ベルヘイム騎士とスラハトの人達を連れて、ここから離れてくれっ! このままじゃ……全員、雷に打たれて死ぬ……」


「一真様も、オーディン様に刃を向けないで! 私は、一真様とも戦いたくないっ!」


 グラムを持ち、宙に浮くオーディン目掛けて飛翔しようとした一真を、テューネが止める。


「ちょっち、コレどーなってんの? さっきまでは、カズちゃんの事をあんなに讃えてくれていたのに……」


「それだけ、この世界の神は絶対って事なんじゃない? でも……やっぱり異常だわ……」


 絵美も智美も、あまりの理不尽さに唇を噛み締めた。


 その時……


 ガアァァァァァァン!


 ガアァァァァァァン!


 ガアァァァァァァン!


 再び、大地が割れんばかりの爆音が轟く。


 自分を慕う人達などお構いなし……オーディンのグングニールが、天を切り裂き大地を穿つ雷を3発放った。


 その雷は、大地で頭を下げている人々を尽く焼き尽くす。


 しかし、その内の1発をグラムで弾いた一真は、炎の翼を従えてオーディンの元へ飛び上がる。


「もう……止めろ! オレと戦いたければ、オレだけを狙えばいいだろっ!」


「ふっ……貴様の動きは速い……広範囲に攻撃しなければ、捉えられんだろう? そして私の力は強大で、被害を最小限にしようとしても無理だ。全ての人を救いたいのなら、貴様は逃げ回らずに雷に打たれればいい」


 グングニールの槍先が、一真に向けられた。


「カズちゃん! そんな奴の言う事なんて、聞く事ないよ! こんな人達は放っておいて、逃げよう!」


「そうだな……とりあえず一真が狙いだってんなら、逃げちまえば他の人は巻き込まないで済む! 一旦退くぞっ!」


 絵美と航太は、その場を離れるように一真に向かって叫んだ。


 その声に一真は首を横に振ると、グラムを構える。


「カズちゃん……どうして……」


「オレが逃げても、コイツは全てを焼き尽くす……そもそも、コイツはオーディンの皮を被っているだけなんだから……」


 一真の言葉に、オーディンが笑う。


「自分が有利な状況で、自分が勝てる勝負しかしない……主神と呼ばれるオーディンが、そんな戦いをする筈がない!」


 赤く輝く瞳で、一真はオーディンを強く睨む。


「まぁ……貴様には分かるだろうな。自分の命を奪った黒幕が相手なのだから……だがオーディンの事を良く言っている時点で、確信した。やはり貴様は邪魔だっ!」


「少なくとも本物のオーディンなら、無駄に人を巻き込むような戦闘はしない! こっちの世界の住人を邪魔者としか思っていない奴に、倒される訳にも、背を向ける訳にもいかないんだ! たとえ心を失っても……オレには、守りたい人がいる……守りたい人達がいるんだ!」


 炎の翼が、更に大きく……そして具現化する。


 正に鳳凰……聖獣のように神秘の翼を携えた姿は、まるで神か天使のようだ。


「鳳凰天身か……あの禍々しい姿……正にヨトゥンだ! 皆の者! 我と共に、あの化け物を叩くぞ!」


 正面から見れば神々しい姿であっても、下から見上げれば、大きな影を作る姿は恐怖を誘う。


 オーディンの皮を被ったロキの言葉に、ベルヘイム軍は弓を構え、魔法を詠唱する。


 バロールを倒した英雄……一真に向けて、矢は放たれようとしていた……


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