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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
コナハト攻城戦
201/221

最後の抵抗

 

「航太、大変ニャ! バルデルスを助けに行ってほしいニャ!」


 …………


 一真とバロールが戦っている部屋から出て来た猫……のヌイグルミを不審者を見るような目で航太は見た。


「……まぁ、アヒルの化け物がいるぐらいだからな……猫の化け物がいても、不思議じゃねーが……」


「うーん……誰の魂の情報が入ってるんだろーね? 少なくとも、ガーゴより頭悪そう。 だいたい、バルデルスって誰よ?」


 航太と絵美は、アクアの必死な形相を見ても不信感を抱いている。


 ヨトゥンの……バロールの居城で、喋る猫のヌイグルミが知らない人を助けてと懇願してきても、信じれる訳もない。


 そもそも数は減ってきているとは言え、ヨトゥン兵達は扉を目指して襲いかかって来る。


 猫の戯言に付き合っている余裕も、あまりない。


「ねぇ……この猫ちゃん、一真の部屋にあった猫のヌイグルミに似てない? カズちゃんの魂の情報が入った猫ちゃんかもよ?」


 ヨトゥン兵を水の刃で斬り裂きながら、智美はアクアの姿を思い出していた。


「流石は智美ニャ! さぁ、早くバルデルスを助けに行ってくれニャ!」


「……いやー、智美さんさぁ……あんな猫のヌイグルミ、どこにでも売ってるだろ。それより、コッチの敵に集中しねーと……」


 エアの剣を構え対峙するヨトゥン兵相手に睨みを効かせる航太に、アクアは飛び掛かる。


 そして、頭や顔を這いずり回る。


「うをっ! 何だ? やっぱり、ヨトゥンの手先か! バルデルスって奴の前に、まずは貴様を始末してやんぜっ!」


 アクアの尻尾を掴まえようと必死にもがく航太を見て、智美は呆れて溜息をついた。


「その猫ちゃん、絶対に一真の部屋にあった猫のヌイグルミだよ。コッチの世界のヌイグルミは全部手作りだから、そんなに精巧に作られてない……つまり、私達の世界から来たヌイグルミって事だよ」


「ほえー、智ちん名推理だねー。さっすがぁ!」


 双子の姉妹が話をしている間も、航太の顔を這いずり回るアクア……


「なる程……そうだな……確かに、コッチのヌイグルミとは出来が違うか……だが、やってる事はアヒル野郎と同レベルだぜっ!」


 上手く尻尾を絡めとった航太は、振り回した後に壁に向かってアクアを投げつけた。


 が……


 何事も無かったようにアクアは壁に張り付くと、そのまま航太に襲い

 かかろうとしていたヨトゥン兵の顔にダイブする。


「航太、油断するニャ!」


「おお……サンキュー、化け猫! 食らえっ!」


 アクアに目隠しされたヨトゥン兵は、鎌鼬によって胴体を分断された。


「で……猫ちゃんのお名前は? バルデルスって、カズちゃんの事かな?」


「私は、アクアにゃ! 一真は光の神バルドルの生まれ変わりで、コッチの世界ではバルデルスって名前ニャのよ」


 アクアの言葉を聞いて、その場の全員が思い出す。


 一真が、神の生まれ変わりだと……


「で……バルデルスを助けてって事は、一真がピンチって事かっ! 化け猫! 肝心な事は先に言いやがれっ!」


「はいはい、ごめんニャ。バルデルスがバロールの魔眼を最後の1つまで追い詰めたんニャけど、ルナが掴まっちゃって手が出せない状況ニャ」


 アクアの言葉を聞き終わる前に、航太は扉に手をかけていた。


「航ちゃん、ここは私が引き受けるわっ! みーちゃんと一緒に一真を助けに行って!」


 智美の言葉に、航太は動きを止める。


 扉の前は、まだヨトゥン兵がいる……かなり数は減らした……それでも、ざっと数えただけでも100以上はいそうだ。


「引き受けるって……この数を1人じゃ無理だ……智美だけを置いていける訳ねーだろっ! 絵美も置いてく!」


「何言ってるの? その扉は守らないといけないけど、魔眼と戦うには水の力も必要でしょ?」


 智美の声を聞いても、航太の足は前に出ない。


 智美は戦闘向きじゃない……性格も神剣の特性的にも……


「航ちゃん、行くよ! ここは智ちんに任せよう! 頼りになる援軍も来たしね!」


 絵美の声に、航太は反射的にヨトゥン兵の最後尾に目を向ける。


 そこには、銀色の髪と水色の髪の女騎士が指揮する部隊が、ヨトゥン兵の背後に食いついていた。


「なんてタイミングだ……オレが主人公の筈なのに……」


「何ブツブツ言ってんの! ほら、早く行くよ! 智ちゃん、ヨロピクね!」


 絵美は航太を小部屋に押し込むと、智美にウィンクする。


「さて……ゼーク達も来てくれたし、私も死なない程度に頑張らないとね……それにしても、アクアかぁ……航ちゃんの扱い、上手かったなぁ……」


 智美は2振りの剣を持ち直すと、ヨトゥン兵の前に立ち塞がった……



 航太は小部屋から、一真の戦っている部屋の扉を静かに開けた。


 そして航太の目に飛び込んで来たのは、バロールの顔面に拳を食い込ませる一真の姿……


「おい……一真がバロールを倒しちまってんだけど……オレ達は何しに来たんだ?」


「んー、おかしいニャア……」


 航太の視線を逸らしながら、アクアは部屋に入ろうとする。


「ちょっと待って……バロールから、青い光が……」 


 絵美の視線の先……倒れたガイエンの元へ走る一真に向かって、バロールの顔から青い光が飛んで行く。


 そして、一真の身体に触れて消える。


「今の……何だったんだろう?」


「何だか知らねぇが、バロールから飛んで来たんだ! 身体に良い訳がねぇ!」


 一真に向けて走り出そうとした航太の足元で、アクアがその動きを邪魔した。


「おい! 今の、一真に教えてやらねーと!」


「分かってるニャ! でも、少しだけ……ガイエンにお別れを言う時間だけ……」


 アクアは気付いていた……ガイエンが命懸けで、ルナとバルデルスを救ったという事に……

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