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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
コナハト攻城戦
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凰翼12

「ぐ……貴様、鳳凰天身まで使うのか……アスナですら、一瞬の鳳凰天身で心を失ったのに……そして、アルパスターのブリューナクか……我が魔願を潰した罪、その身で償ってもらうぞ!」


「魔眼2つで勝てる程、オレは弱くない! 皆の……この世界の人々の思いを背負っているんだ……ここで負ける訳にはいかない!」


 一真は、赤き瞳でバロールを睨む。


 バロールの言葉遣いで、もはや余裕が無い事は想像出来る。


 バロールは、一真が鳳凰天身を切り札として使うと予測はしていた。


 しかし、鳳凰天身を使った後も心を維持している事……そして、アルパスターと連携して攻撃してくる事までは予測しきれなかった。


 自身の魔眼が1つ潰されるなど、予想の範囲外である。


 人を馬鹿にしたような言葉遣いが出来ない程、バロールは追い詰められていた。


「バロール……人々を虐げてきた報いを受けろ!」


 もはや鳳凰天身は必要ない……一真の背中から炎の翼が生えていく。


 炎の翼が羽ばたいた瞬間、バロールと一真の間合いは一瞬で埋まった。


 ガアキィィィィィ!


 クレイモアとグラムが、激しくぶつかり合う。


 2つの魔眼による圧力と幻術……全開で力を使っても、鳳凰覚醒した一真の動きについていく事が、バロールには精一杯だった。


 無理な体勢でグラムの一撃を受けたバロールは、床を転がる。


「人間如きに……人間如きの一撃で、地面を這う事になろうとは! 貴様……許さんぞっ!」


 頭に血が上ったバロールは、クレイモアを床に突き刺し、転がる反動を利用して起き上がった。


「地面を這いずり回った程度で……自分が人々にしてきた仕打ちに比べたら、大した事ないだろっ!」


 火の粉を残しながら高速で移動する一真の閃光の様な突きが、立ち上がった直後のバロールを襲う。


 クレイモアの腹でグラムの突きを辛うじて受けたバロールは、自身の目を疑った。


 クレイモアを貫通し、グラムの剣先が目の前に迫っていたからである。


 それでも……目の前まで剣先が迫ったが、受け止められた……安堵したバロールの身体に電撃が走った。


 グラムの剣先から稲光が走り、バロールの右目にあたる場所を電撃が貫く!


「くぼはぁぁぁあぁあぁあぁ!」


 奇妙な悲鳴を上げ、バロールは再び床を転がった。


「これで2個目……しかし、アルパスター将軍のブリューナクと今の電撃と……頭を貫通する攻撃を2回も受けているのに生きているなんて……スリヴァルディといい、ヨトゥンの生命力は異常だよ……」


「ぐふぅ……異常なのは、貴様の方だ! ファブニールの涙の雫を持っているとはいえ、鳳凰覚醒に鳳凰天身までして、まだ心を保っているんだからな。だが、まだ終わらんぞっ!」


 バロールは叫ぶと、残った最後の魔眼で氷の壁の幻術を作り出す。


「また幻術……魔眼1つでは、相手にならない……これで終わりにする!」


 氷の壁の幻術をすり抜けて、炎を纏ったグラムがバロールを襲う。


「ぐおおおおぉぉぉぉ!」


 グラムから発せられる炎の刃に、その身を焼きながらも後方に跳んで致命傷を避ける。


 そして自身と一真の間に、再び氷の壁を作り出す。


「同じ事を何度も何度も……これで止めだ! 覚悟しろ、バロール!」


 炎の翼をはためかせ、低空を飛びながら加速し氷の壁をすり抜ける……筈であったが、その動きは質量のある氷の壁に遮られた。


「同じ事を繰り返す訳がなかろぅ! これで詰みじゃな!」


 一真が氷を壁を破壊するのに、1秒……いや、そこまで掛かっていないかもしれない。


 しかし……その一瞬で、バロールはフレイヤやルナのいる部屋に飛び込んだ。


 床を転がり、魔眼1つを犠牲にしながら、バロールは一真に気付かれないようにその部屋に近付く事に集中していた。


 常に幻術で氷の壁を見せていたのも、部屋に仕掛けた競り上がる氷の壁を有効に利用する為でもある。


 鳳凰覚醒している一真の攻撃速度は、どんなに逃げても一瞬で追いつかれる事は分かっていた。


 だからこそ、一瞬のロスタイムで部屋に入れる位置に移動しておく事……そして、一瞬のロスタイムを作り出す事が必要である。


 部屋に飛び込んだバロールは、突然ルナの後ろに現れた。


「きゃ! いつの間に後ろに……」


 後ろに現れたバロールから逃げようと走り出したルナは、バロールに抱き抱えられてしまう。


 そう……ルナの後ろに現れたバロールは幻術……ルナ自らがバロールに向かって走って来るように仕向けたのだ。


 突然部屋に入って来たバロールに応戦しようとフレイヤは龍皇覚醒したが、ルナの不可解な動きに攻撃のタイミングを逸してしまう。


 一真もまた、バロールに攻撃する直前にルナを抱き抱えられて、その動きを止めた。


「くっくっくっ、やはり攻撃出来んのぅ……儂の魔眼を潰して勝ちを確信していたのじゃろうが……形勢逆転じゃな!」


 再びバロールに余裕が生まれ、言葉遣いが変化する。


「痛い……離してよ! 離してよぉ……」


 バロールは右手でルナの頭を持ち、一真達に見せつけるように小さな身体をユラユラと振り回す。


 小さな身体は、最後の魔眼にしっかりと捉えられている。


 攻撃を仕掛けようとすれば、魔眼の力でルナの命は一瞬で消えてしまうだろう……


 成す術無く、一真は自分の詰めの甘さに歯軋りしていた……


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