凰翼7
「ついに、鳳凰覚醒を使ったのぅ……そこにいたチビちゃんが、貴様の弱点かの……」
バロールの言葉が終わらないうちに、先程までとは比べものにならないスピードで懐に飛び込んだ一真は、グラムは振り抜いた。
バロールはルナを魔眼で見る時間も与えられず、グラムで胸を斬り裂かれる。
「ぐっ……おっ!」
胸を斬り裂かれたバロールは、たまらず後退った。
が……無意識に後退した反応を上回るスピードで、グラムがバロールに向かって突き出される。
グラムの剣先はバロールの身体に触れるが、その身体は後ろに下がっていたため致命傷にはならない。
しかし追い討ちをかけるように、グラムの剣先から雷撃が放たれた。
ドオオォォォォン!
グラムの剣先と城の壁を一瞬で結ぶ雷撃に、バロールの身体は貫かれる。
「ぐおおぉぉぉお!」
絶叫と共に、バロールの巨体が崩れ落ちた。
身体の焼ける嫌な臭いと、黒煙が辺りに充満する。
「ルナ! 大丈夫? 怪我は?」
黒煙でバロールの身体が見えなくなった事を確認すると、一真は腰が砕けたように倒れたルナの元へ駆け寄った。
「私は大丈夫……ゴメンね、カズ兄ちゃん……戦いの邪魔しちゃって……」
「ルナが無事なら、それでイイんだ。でも、バロールの魔眼に見られたら死んでしまう。とにかく、魔眼の視界に入らないトコに……物陰に隠れてて」
一真はそう言うと、優しくルナの身体を起き上がらせる。
「バルデルス……バロールは、第3の目を使ってないニャ! この段階で鳳凰覚醒を使っちゃったら……」
声を荒げたアクアの口を塞いだ一真は、ルナを見てから倒れたバロールの先の壁を指差す。
「ルナ……こっちの部屋は壁が破壊されちゃったから、バロールから丸見えだ。危険だけど、向こうの丸い穴まで走れる?」
一真の指差した場所……それは、先程の雷撃で丸く開いた壁の先。
その穴は、隣の部屋まで貫通しているように見えた。
「うん……大丈夫! 全力で走ればいいんだね?」
「バロールの横を通り抜けなきゃいけないケド……オレが必ず守るから……」
ルナは、笑顔で顔を縦に振る。
先程の鳳凰覚醒で……一真の背中に生えた炎の翼を見て、ルナは確信した。
レンヴァル村で、母親と自分を救ってくれたのは一真だと……
ならば、怖い事なんて何一つない。
心優しき戦天使……悪を退治する為に遣わされた天使様が、ヨトゥンの将軍如きに負ける筈がない……ルナは本気で、そう信じていた。
「ルナ、行くよ。オレがバロールに攻撃を仕掛けたら、全力で走り抜けるんだ! アクア、ルナを頼むよ!」
アクアを頭に乗せたルナは無言で頷くが、グラムを携えて炎の翼を広げた一真の姿に魅入ってしまう。
普段の少し頼りない感じは、そこには全くない。
凛々しく立つその姿に、ルナの頬は紅く染まる。
「あっ……」
瞬きした一瞬で、一真の姿はルナの瞳から消えた。
一瞬で、ルナの手の届かない所まで……バロールの近くまで移動している。
「鳳凰覚醒したままで……まるで心を失わないじゃと……なんて奴じゃ!」
驚愕するバロールの言葉を無視して、一真は炎を纏ったグラムをバロールに叩きつけた。
鳳凰覚醒している一真に、両目の魔眼を使った幻術ですら通用しない。
躱ことすら出来ず、バロールは炎の一撃を受けた。
バロールの身体を斬り裂き、城の床を砕いたグラムの炎は、そのまま炎柱を作りだす。
その炎柱がバロールの魔眼の視線を遮り、その隙にルナは穴の開いた壁に辿り着いた。
「きゃっ! 誰?」
転がるように壁に開いた穴に入った瞬間、ルナは小さな悲鳴をあげてしまう。
ルナの入った部屋の壁には、綺麗な女性が十字架に張り付けられていた。
金色の綺麗なロングヘアが、まるで流れるように腰まで伸び、端整な顔立ちは女神のような印象を受ける。
しかしルナが驚いたのは、その胸の中心に埋め込まれた目……
その目は怪しげな赤い光を放ち続けており、ルナの動きに合わせて視線を動かす。
「気持ち悪い……何これ……」
「フレイヤ様と……魔眼? ルナ……大丈夫だと思うケド、あの目の視線に入らないようにしとくニャ」
ルナは嫌悪感を覚えたが、バロールのいる部屋に戻れば一真に迷惑がかかる為、その部屋の隅……アクアの言葉通り、フレイヤの胸に埋め込まれた目が見えない位置に腰を下ろした。




