凰翼4
ガキィィィィン!
ヘルギとロングスピアが、激しくぶつかり合う。
甲高い金属音が、断続的に周囲に広がる。
「うおおおぉぉ!」
ガイエンに近付くヨトゥン兵は、赤い光を発するヘルギの力で悉く竦み上がっていく。
ガイエンは自分に近付くヨトゥン兵を次々と斬り倒しながら、唯一ヘルギの力に耐えるムスペルの騎士とも互角の戦いを演じていた。
他のヨトゥン兵を気にしなければ……ヘルギの力を全開で使い続けなければ……普通に戦っていれば、ムスペルの騎士はガイエンが一騎打ちで負ける相手ではない。
しかしヘルギを全開で使用し体力も消耗してる上に、迫り来るヨトゥン兵を倒しながらの戦いなので、ムスペルの騎士を圧倒出来ないでいた。
(厄介だな……ヘルギの影響を受けてるから動きは鈍っているが、それでもここまで動けるか!)
ヘルギの力で竦み上がったヨトゥン兵を斬った隙に、ムスペルの騎士が放った突きが飛んで来る。
「くっ!」
ロングスピアによる一撃を辛うじてヘルギで受け止め、その反動を利用して再びヨトゥン兵を斬った。
ヘルギの影響を受けている兵を斬る必要はないかもしれない……しかし扉の近くで戦っている為、ヘルギの効力が切れたらルナのいる部屋に入られてしまう危険がある。
それを考えると、ガイエンはヨトゥン兵を斬る選択をしてしまう。
その結果、ムスペルの騎士に隙を突かれていた。
「ガキの事など考えなければ、この窮地を乗り越えられるかもしれんぞ? だが、このままでは貴様に勝ちはない」
ムスペルの騎士の言う通り……いずれ体力が無くなり、突破されるのは明らかだ。
ルナの言葉で力が沸いてきたガイエンだったが、さすがに体力が限界に近い。
それでも……
「知った事かっ! てめぇは、自分が斬られた後の事でも心配してろっ! オレは、ルナを守り抜く! それだけだっ!」
ガイエンは吠えた。
もう、元の自分には戻らない……理由なく、人の命は奪わない。
操られて戦うんじゃなく、自分の信じた事の為に戦う……
その決意を持ったガイエンの気持ちは揺るがない。
どんなに辛くても、大変な道程でも、その道を歩み続ける。
その時……一陣の風が吹いた。
その風は、ヨトゥン兵を次々と斬り裂いていく。
同時に、ガイエンの身体が青い光に包まれる。
「まさか……お前達に助けられる日が来るとはな……」
「コッチも、お前を助けるつもりじゃなかったんだけどな……てか、ボロボロじゃねーか! 随分とダサくなっちまったな!」
その言葉に、ガイエンが軽く笑みを浮かべる。
そして風を操る騎士の後ろ……ガイエンの視線の先に、可憐な2人の女騎士の姿があった。
「ほえー……まさか、ガイエンがロリコンだったとはねー。オレは、ルナを守り抜くっ! だってー! そういえば、子供の頃からティアちゃんのお姉ちゃんを嫌らしい目で見てたんだっけ? うひゃー」
「ちょっと絵美、ガイエンが本気でルナちゃんを助けてくれてたら、感謝しなきゃいけないんだよ? そういう事を言うのは、事実確認がとれてからにしなさい!」
そんな絵美の言葉を無視したガイエンだが、少し顔を赤らめながら近くにいるヨトゥン兵を斬り倒す。
「ちっ……貴様達を見て、少しホッとしちまった自分が情けないぜ……だが、今はオレに力を貸せ! その扉の先に、ルナと……その先の部屋で一真がバロールと戦ってる! この扉をヨトゥン兵に破られたら、ルナも一真もヤバい!」
赤く燃え上がる風景をバックに立つ3人の騎士に、ガイエンは叫んだ。
「今のお前を見りゃ分かる……その顔を……その表情を……その戦いを……自分の為の戦いじゃねぇ! ルナと一真を守ってくれて、サンキューなっ! 少し休んでろ!」
エアの剣が発する鎌鼬が、ヨトゥン兵を凪ぎ払う。
「ちっ……この状況で休めるかよ……てめぇの仲間とガキに、目ぇ覚まさせられちまったからな! オレだって、ダセーと思いながら戦ってんだっ!」
それを聞いて、風の力を利用してガイエンの隣まで跳んだ航太が吹き出した。
「ホント……普通の状況でロリコン発言してたら、ただのヤバイ奴だけど……今のガイエンは、ちょっとカッコイイぞっ!」
「ねっ、なんか物語の主人公みたい……ボロボロになりながらも、大切な人を守る為に戦ってる。ちっともダサくないよ」
絵美と智美が、揃ってガイエンにウィンクをする。
戦場に現れたオアシスのように、その笑顔はガイエンの傷と共に心も癒していく。
「オレはダセーと思ってんぞっ! この程度の奴らに、苦戦すんなよっ! オレを圧倒する程の男なんだからよっ!」
ガイエンは、3人の言葉を聞きながら不思議な気持ちになった。
敵だった筈なのに、その言葉は……存在は、心安らぐ……
だからこそ、更に守りたい気持ちが強くなる……ガイエンは航太達に軽い笑みを見せると、ルナのいる部屋に続く扉に手をかける。
「航太! ここは、貴様に任せるぞ! この扉の先にルナが……その先では、一真とバロールが戦ってる! オレは、バロールの切り札を一真に伝えなきゃならねぇ!」
「なら、その情報を教えてくれっ! オレが助けに行く! 義弟を救うのは、兄貴の仕事って相場が決まってんだっ!」
ガイエンは首を横に振ると、扉を開けた。
「お前じゃ、無理だ……バロールの魔眼の恐怖は、オレが1番知っている。だから、オレが行くしかない……その代わり、この扉は死守してくれ……頼んだぞっ!」
ガイエンは扉を勢いよく閉めると、走り出す。
「航ちゃん、コッチも簡単な状況じゃないよ。考えなしで突っ込んだけど、まさに敵軍の真っ只中って感じ……」
「だな……んで、ムスペルの騎士もいやがる。ガイエンの奴、この状況で戦ってたのかよ……」
航太と……智美と絵美は、扉の前に立ち神剣を……神槍を構える。
「ふん……貴様らが来たって事は、スルト様は後退したか……なら、もう用は無いな。せいぜい、生き延びろよ」
航太達を見たムスペルの騎士は、航太達に背を向けて歩き始めた。
「舐めやがって……」
「航ちゃんがイラッとするのは分かるケド、今は扉を守る事と自分達の命
を優先しよっ! 私達の目的は、カズちゃんを守る事……そうでしょ?」
次々と増えて来るヨトゥン兵を見ながら、智美が航太に囁く。
「そう……だな。ヨトゥン兵を蹴散らして、オレ達も一真の援護に行かなきゃな……」
「まぁ、ただの足手まといになる可能性大だけどねっ!」
扉に迫るヨトゥン兵を倒しながらも、航太はガイエンの事が心配であった……




