最後の魔法2
「テューネ、とりあえずガヌロンを討たないと……このままヨトゥン兵とやり合っていても、状況は変わらないわ!!」
テューネの率いて来たオルフェ隊の兵と合流したゼークの部隊は、ガヌロンの部隊を押し返し始めていた。
しかし力で勝るヨトゥン兵に対しては、兵数で勝っていても複数で戦わなくては倒せない為に、完全に押し返すには時間がかかる。
やはり大将を討ちとってしまい、指揮系統を混乱させてしまう方が早いが……
スラハトの町が炎上している為に出来るだけ早く左翼を制圧し、スラハトの人々の救助に入りたい気持ちが焦りを生んでいた。
「ゼーク様、ガヌロンは私が討ちます!!ランカスト様の恨みを晴らしたいんです!!」
「焦っちゃダメ!!それに恨みとかで戦ってたら、ガヌロンみたいに周りが見えなくなるわよ!!」
近付くヨトゥン兵を斬り裂き前方が開けると、馬上で指揮するガヌロンの姿が見える。
その瞬間、ゼークの言葉を無視するように、テューネの表情は憎しみに歪んでいく。
そして、デュランダルの柄を強く握り締めた。
「テューネか……ソフィーの魂を宿した剣、デュランダルを返してもらうぞ!!」
テューネの鋭い視線を感じたガヌロンは、その手に握られるデュランダルを見て大きな声を出す。
「ガヌロン……貴様、ソフィーア様の魂に触れても外道のままかっ!!いかにソフィーア様の父親であっても、許されない!!」
テューネは叫ぶと、その瞳を蒼に染めてデュランダルを地面に叩きつける。
震えた腕から繰り出された一撃だが、それでも叩きつけられたデュランダルの剣先からは地面は裂け、ヨトゥン兵を大地の割れ目に飲み込みながらガヌロンに迫った。
「皇の目とデュランダルの力か……この聖バジルの力を宿した魔導師の指輪の力ならば、テューネ如きの攻撃など……」
ガヌロンの右手の指に着けた指輪が赤く輝き、瞬時にその身体が浮遊する。
「なっ……浮いた……」
「浮遊魔法は、かなりの魔法力を消費するが……魔導師の指輪なら無制限に使える。そして、次は私が攻撃する番だ!!」
驚くテューネとゼークの上から、火の玉を降らせた。
1個や2個ではない……無数の火の玉が、2人とベルヘイム兵達に降り注ぐ。
通常の魔法使いの魔法であれば、1回の魔法発動で1発の効力しかない。
国直属の正規の魔導師であっても、1回の魔法の発動で火の玉2発が限界の筈である。
それを浮遊魔法を使いながら、複数同時に放てるガヌロンは……と言うより、魔導師の指輪の力が異常だ。
「魔導師の指輪を使っているの??それは強大なヨトゥンの力に対抗する為に、魔法使い達が自分の魔力と命を犠牲にして作られるアイテム……それを人間に使うなんて……魔法使い達の崇高な魂と想いを……踏みにじるなっ!!」
迫り来る火の玉に向かって、ゼークは叫ぶ。
ゼークの幼なじみも、魔導師の指輪の作成に命を賭けた一人だ。
魔導師の指輪を1つ作るのに、5人程度の魔法使いの全魔力が必要になる。
当然、全ての魔力を抽出された魔力使いは生きていられない。
それだけの犠牲を出して作られる魔導師の指輪も、神剣程の力を得る事は出来ないが、それでもヨトゥンに対抗する事は出来る。
詠唱など制限が多い魔法の力を制限無しで使える魔導師の指輪は、その貴重性から各国の指揮官クラスでしか与えられない。
ガヌロンはベルヘイムの軍師であり、持っていても不思議はなかった。
人間を救う為に自分の命を犠牲にして作られた物が、人間を殺す為に使われる……その行為がゼークには許せない。
怒りの表情を浮かべるゼークは、迫る8発の火の玉に飛び込もうとした。
「ゼーク様、ただのバスタード・ソードじゃ防げない!!私の後ろにっ!!」
大剣であるデュランダルを盾のようにしてゼークの前に出たテューネは、その刀身に体を預けるようにして火の玉の襲撃に耐える。
テューネの綺麗で長い水色の髪が、その火でチリチリと焼けるが、後ろにいるゼークは無傷であった。
「テューネ……無理をして……少し休んでいて。あなたの想いも私の剣に込めて、ガヌロンを討つ!!」
閃光のようにゼークの前に飛び出したテューネは、皇の目を使ったのだろう。
肩で息をして跪くテューネは、身体全体を震わせ立ち上がれないでいた。
そんなテューネの前に出たゼークは、地上に降りたガヌロンを睨み、綺麗な銀髪をなびかせながらバスタード・ソードを構える。
「スラハトを燃やしたのも……城壁を潰したのも……お前の仕業か!!人の身で……よくも……」
スラハトを燃やしたのは、火の化身スルトの仕業だとゼークは思っていた。
しかし魔導師の指輪を使えば、魔力の弱いガヌロンでもスラハトを燃やす事は可能である。
「ふん……スルトの仕業と勘違いでもしたか??私もこれで、正規のヨトゥン将として迎えられそうだな」
再び右腕を伸ばし、魔法を使う態勢を整えるガヌロン。
「貴様は……魔導師の指輪が、どういう想いで作られたか知っているの??神剣だけではヨトゥンに対抗しきれないから、魔法使い達がその命を犠牲にして作られた物なのよ!!それ1つに、何人の魔法使いの命の魔力が詰まってると思ってるの??それを……それを、私利私欲の為だけに……絶対に許さない!!」
「別に私の物をどう使おうが、貴様に関係ない!!それに、ただの魔導師の指輪如きでは、これだけの力は出せん!!聖バジルの力は、バロール殿から授かった物。人の命の力など、対した価値も無い!!」
ガヌロンの叫びと同時に、伸ばした右手の指に装備された魔導師の指輪が赤く輝く。
その輝きに反応し、複数の火の玉が発生する。
そして、その中心に巨大な火の玉が発生した。
「悪いなゼーク……我が出世の為に死ねっ!!」
巨大な火の玉がゼークに向かって……複数の火の玉は、ゼークの後方に控えるベルヘイム兵に向けて放たれた……




