表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
スラハト解放戦
167/221

最後の魔法2

 

「テューネ、とりあえずガヌロンを討たないと……このままヨトゥン兵とやり合っていても、状況は変わらないわ!!」


 テューネの率いて来たオルフェ隊の兵と合流したゼークの部隊は、ガヌロンの部隊を押し返し始めていた。


 しかし力で勝るヨトゥン兵に対しては、兵数で勝っていても複数で戦わなくては倒せない為に、完全に押し返すには時間がかかる。


 やはり大将を討ちとってしまい、指揮系統を混乱させてしまう方が早いが……


 スラハトの町が炎上している為に出来るだけ早く左翼を制圧し、スラハトの人々の救助に入りたい気持ちが焦りを生んでいた。


「ゼーク様、ガヌロンは私が討ちます!!ランカスト様の恨みを晴らしたいんです!!」


「焦っちゃダメ!!それに恨みとかで戦ってたら、ガヌロンみたいに周りが見えなくなるわよ!!」


 近付くヨトゥン兵を斬り裂き前方が開けると、馬上で指揮するガヌロンの姿が見える。


 その瞬間、ゼークの言葉を無視するように、テューネの表情は憎しみに歪んでいく。


 そして、デュランダルの柄を強く握り締めた。


「テューネか……ソフィーの魂を宿した剣、デュランダルを返してもらうぞ!!」


 テューネの鋭い視線を感じたガヌロンは、その手に握られるデュランダルを見て大きな声を出す。


「ガヌロン……貴様、ソフィーア様の魂に触れても外道のままかっ!!いかにソフィーア様の父親であっても、許されない!!」


 テューネは叫ぶと、その瞳を蒼に染めてデュランダルを地面に叩きつける。


 震えた腕から繰り出された一撃だが、それでも叩きつけられたデュランダルの剣先からは地面は裂け、ヨトゥン兵を大地の割れ目に飲み込みながらガヌロンに迫った。


「皇の目とデュランダルの力か……この聖バジルの力を宿した魔導師の指輪の力ならば、テューネ如きの攻撃など……」


 ガヌロンの右手の指に着けた指輪が赤く輝き、瞬時にその身体が浮遊する。


「なっ……浮いた……」


「浮遊魔法は、かなりの魔法力を消費するが……魔導師の指輪なら無制限に使える。そして、次は私が攻撃する番だ!!」


 驚くテューネとゼークの上から、火の玉を降らせた。


 1個や2個ではない……無数の火の玉が、2人とベルヘイム兵達に降り注ぐ。


 通常の魔法使いの魔法であれば、1回の魔法発動で1発の効力しかない。


 国直属の正規の魔導師であっても、1回の魔法の発動で火の玉2発が限界の筈である。


 それを浮遊魔法を使いながら、複数同時に放てるガヌロンは……と言うより、魔導師の指輪の力が異常だ。


「魔導師の指輪を使っているの??それは強大なヨトゥンの力に対抗する為に、魔法使い達が自分の魔力と命を犠牲にして作られるアイテム……それを人間に使うなんて……魔法使い達の崇高な魂と想いを……踏みにじるなっ!!」


 迫り来る火の玉に向かって、ゼークは叫ぶ。


 ゼークの幼なじみも、魔導師の指輪の作成に命を賭けた一人だ。


 魔導師の指輪を1つ作るのに、5人程度の魔法使いの全魔力が必要になる。


 当然、全ての魔力を抽出された魔力使いは生きていられない。


 それだけの犠牲を出して作られる魔導師の指輪も、神剣程の力を得る事は出来ないが、それでもヨトゥンに対抗する事は出来る。


 詠唱など制限が多い魔法の力を制限無しで使える魔導師の指輪は、その貴重性から各国の指揮官クラスでしか与えられない。


 ガヌロンはベルヘイムの軍師であり、持っていても不思議はなかった。


 人間を救う為に自分の命を犠牲にして作られた物が、人間を殺す為に使われる……その行為がゼークには許せない。


 怒りの表情を浮かべるゼークは、迫る8発の火の玉に飛び込もうとした。


「ゼーク様、ただのバスタード・ソードじゃ防げない!!私の後ろにっ!!」


 大剣であるデュランダルを盾のようにしてゼークの前に出たテューネは、その刀身に体を預けるようにして火の玉の襲撃に耐える。


 テューネの綺麗で長い水色の髪が、その火でチリチリと焼けるが、後ろにいるゼークは無傷であった。


「テューネ……無理をして……少し休んでいて。あなたの想いも私の剣に込めて、ガヌロンを討つ!!」


 閃光のようにゼークの前に飛び出したテューネは、皇の目を使ったのだろう。


 肩で息をして跪くテューネは、身体全体を震わせ立ち上がれないでいた。


 そんなテューネの前に出たゼークは、地上に降りたガヌロンを睨み、綺麗な銀髪をなびかせながらバスタード・ソードを構える。


「スラハトを燃やしたのも……城壁を潰したのも……お前の仕業か!!人の身で……よくも……」


 スラハトを燃やしたのは、火の化身スルトの仕業だとゼークは思っていた。


 しかし魔導師の指輪を使えば、魔力の弱いガヌロンでもスラハトを燃やす事は可能である。


「ふん……スルトの仕業と勘違いでもしたか??私もこれで、正規のヨトゥン将として迎えられそうだな」


 再び右腕を伸ばし、魔法を使う態勢を整えるガヌロン。


「貴様は……魔導師の指輪が、どういう想いで作られたか知っているの??神剣だけではヨトゥンに対抗しきれないから、魔法使い達がその命を犠牲にして作られた物なのよ!!それ1つに、何人の魔法使いの命の魔力が詰まってると思ってるの??それを……それを、私利私欲の為だけに……絶対に許さない!!」


「別に私の物をどう使おうが、貴様に関係ない!!それに、ただの魔導師の指輪如きでは、これだけの力は出せん!!聖バジルの力は、バロール殿から授かった物。人の命の力など、対した価値も無い!!」


 ガヌロンの叫びと同時に、伸ばした右手の指に装備された魔導師の指輪が赤く輝く。


 その輝きに反応し、複数の火の玉が発生する。


 そして、その中心に巨大な火の玉が発生した。


「悪いなゼーク……我が出世の為に死ねっ!!」


 巨大な火の玉がゼークに向かって……複数の火の玉は、ゼークの後方に控えるベルヘイム兵に向けて放たれた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ