スラハト解放戦6
ユングヴィ王子が崩れた城壁の隙間から城壁の外側に出ると、心地良い涼しい風が頬に当たる。
「王子、無事で良かった。お身体の方は大丈夫ですか??」
「ああ……だが、かなりの被害を出してしまった。まさか、スラハトの町を焼き尽くしてくるとは……航太達が来てくれて助かったよ」
たった今、自分が出て来た城壁の隙間を一度見たユングヴィは、再びスラハトの住人達が避難して来るのを確認した。
そして、声をかけて来たオルフェに視線を移す。
「それで、オレに頼みたい事とは何だ??」
「左翼を任せているゼーク隊が苦戦しているらしいのです。私はゼークの援護に回るので、王子はここでスラハトの人々とホワイト・ティアラ隊を守って下さい」
オルフェは、避難して来たスラハトの住人達と、怪我人達の治療にあたっているホワイト・ティアラ隊を囲うように守らせてた兵を一カ所に集め始めた。
「つまり……お前は、ここにいる全兵力でゼークの援護に行くつもりなんだな??」
「はい……王子なら、1人でも守りきれますよね??」
軽く口角を緩めて笑ったオルフェは、ユングヴィの返事を聞かずに自らの部隊を引き連れて左翼に向かって走り出す。
「アイツめ……言うようになったな……まぁ、ここで名誉挽回させてもらうぞ!!」
ユングヴィは苦笑しながら、ホワイト・ティアラ隊の前に出る。
「さぁ、来い!!私とゲイボルグが戦うからには、彼等に指一本触れさせん!!」
そう言ってゲイボルグを構えたユングヴィは、アルパスター隊とゼーク隊を抜いて左右から迫って来るヨトゥン兵に雷を堕とし始めた。
「王子……流石です。私も、力を使いこなせるようになりたい……」
ゼーク隊に追い付く為にオルフェの横を並走するテューネは鬼気迫るユングヴィの戦いを見て、まだ震えている自分の右手を悔しそうに見つめる。
「テューネ、キミの一撃が多くの人々の命を救っている!!テューネとデュランダルの力は、最悪な状況に光を与えた!!それだけの力を使ったんだ……自信を持て!!」
オルフェの言葉を聞いたテューネは、震える手で拳を握り締めた。
「焦るなよ……テューネ。そして、今はゼーク隊を助ける事だけを考えろ!!」
迫るヨトゥン兵をオートクレールで斬り伏せ、オルフェを乗せる馬は加速する。
「ゼーク隊を囲んでいるヨトゥンの部隊を分断する!!続けっ!!」
オルフェが叫びヨトゥンの部隊に突入する寸前、その勢いは複数の火の玉の襲撃に合い止められた。
スラハトを燃やした炎を間近で見ていたベルヘイムの兵達は、火の玉を見ただけで萎縮してしまう。
進軍を止められた事と自分達の近くで舞い上がる炎を見て、ベルヘイム軍の士気は急激に下がっていった。
「怯むな、スラハトを燃やした炎とは違う!!城壁に囲まれてる訳じゃない!!炎を避けつつ、ヨトゥンどもに攻撃を……」
兵の士気を取り戻す為に叫んだオルフェは、その炎が上げる煙を見て言葉が詰まる。
「オルフェ様、どうしたんですか??早くゼーク様の部隊に合流して、左翼を押し返さないと!!」
「ああ……いや、炎……煙か……」
動きを止めて考え込むオルフェに迫るヨトゥン兵を斬り裂いたテューネは、心配そうにオルフェを覗き込む。
「オルフェ様、どうしちゃったんですか??戦場で動きを止めたら、的になっちゃいますよ!!」
「ん……ああ……」
テューネの声で我に返ったオルフェの視線の先に、ガヌロンの姿があった。
「ガヌロン……まさか……」
オルフェが凝視する先で、ガヌロンが笑った様に見える。
「炎……スラハトを燃やした炎は、スルトではなくガヌロンの仕業か……」
オルフェの視線は、ガヌロンから空へ……いや、空を覆い尽くす程の煙に移った。
「テューネ……このまま、部隊をゼーク隊に合流させろ。そして、ゼークの指示に従え。オレは、一度戻る!!」
「えっ??ちょっと、オルフェ様??」
オルフェの行動の意味が分からないテューネだったが、ガヌロンの手からは火の玉が放たれ、ヨトゥン兵に囲まれているゼーク隊は苦戦中……とにかく、ゼーク隊と合流しなくては左翼がボロボロにされる。
テューネはオルフェに付いて行く事も、憎いガヌロンに向かって行く事も出来ず、ゼーク隊との合流を急いだ……




