ガヌロンの忠誠心
「ふむ、やはりガイエンは戻らんか……まぁ仕方ないのぅ……流石に、そろそろ気付く頃だとは思っていたが、思ったより時間がかかったのぅ」
ガイエンはベルヘイム軍との戦いの後、コナハト城へは戻っていなかった。
ガイエンが生き残っている事は他の兵達から聞いてはいたが、バロールは特に気に止める様子はない。
ガイエンの事を信用しているというよりは、関心が無い様に見える。
「ガイエンにスラハトを守らせようと思っていたが……まぁ、スラハトは諦めるしかないかのぅ……」
「仕方ないでしょう。ガイエンは、Myth Knightと言っても所詮は人間。力も心も弱いですからな……私がスラハトの防衛戦に出ましょうか??」
スルトの発言をバロールが手で遮り、傍らに座るガヌロンを睨むように見た。
「ガヌロン、お主がスラハトに出てくれんかの??儂らは、コナハト城の防衛で忙しいからのぅ……」
それを聞いたガヌロンは目を見開き、驚きのあまり席を立つ。
「そ……そんな馬鹿な話ありますまい。私は、軍師ですよ!!前線に出たら……それも最前線に出てしまっては、戦いを把握して策を立てれません!!」
「ふむ……しかし、お主の策で儂は城の中、スルトは橋の手前に配置となるんじゃろ??クロウ・クルワッハ不在で、兵を指揮できる者はお主しかおらんのじゃよ」
必死に訴えるガヌロンだったが、事前にバロールに伝えていた自分の考えた策を崩す訳にもいかず、顔面蒼白になる。
「だいたい捕虜であるお前が、指揮官として戦いに参加出来るだけ有り難いと思え!!バロール殿の配慮に、感謝するんだな!!」
スルトの迫力に圧され、ガヌロンは青ざめた顔のまま数歩後退した。
「後は、東と西の城門を破られた時の対処じゃな……どうするかのぅ??」
バロールが、青ざめているガヌロンに意見を求める。
策を練れる精神状態ではなかったが、スルトに睨まれている為ガヌロンは必死に考えを絞り出す。
「東と西の城門は小さいですので、侵入してくるとしたら恐らくバロール様を牽制する部隊だけでしょう。正面の橋に部隊を集中しなければ攻城戦など不可能なので、魔眼を使わせない為にも少数の兵を配置している可能性は高いと思われます。遊撃部隊を指揮するのは魔眼に対抗出来るユングヴィ王子なので、王子が東西どちらから出て来ても対応出来る部隊配置にすれば問題無いと思います。恐らく、東から来るとは思いますが……」
ガヌロンがベルヘイム軍の軍師をしていた頃から、ユングヴィ王子……フレイが東の城門から侵入する事は決まっていた。
ガヌロンが裏切った事で、その事がバロール軍に伝わっている事は承知しているだろう。
「何故、東からだと思うんだ??」
「私がベルヘイム軍を指揮している時から、既にコナハト城を攻める作戦は立てていました。ユンクヴィ王子は東門から攻める……それはもう決まっていた。今、ベルヘイム軍の軍師をしているオルフェは、その事を逆手にとる筈……全体の作戦は変えて、一部は元の作戦を使う。その事で、バロール様の軍を混乱させるように企むと思われます」
スルトはガヌロンの言葉に、ほくそ笑む。
「元の作戦を使うなら、作戦のキモであるフレイの突入で使うか……ガヌロン、良い情報を提供してくれたな」
「はい、ありがとうございます。私が最前線に立つならば、上手く正面の橋にベルヘイム軍を集めます。その時に、ユンクヴィ王子の位置も確認して参ります」
ベルヘイム軍は、バロールの魔眼に晒されたら全滅してしまう。
つまり、ベルヘイム軍がコナハト城に架かる橋を渡る間は、フレイがバロールを押さえ付けていなければならない。
フレイの動きさえ把握出来れば、バロール軍の勝利は確定する。
ガヌロンの答えに、バロールは満足そうに頷く。
自分への忠誠心を、ガヌロンから感じたのだろう。
「問題なさそうですね。我が部隊が、ガヌロンが引き付けて来たベルヘイム軍を正面の橋で足止めします。その間に、バロール殿の魔眼で一網打尽に!!我がムスペルの騎士達は、魔眼に数分は耐えれますからな!!」
「ふふ……これで、厄介なアルパスター隊が叩けるのう……ベルヘイムさえ堕とせば、虹の橋ビフレストがあるヴァナヘイムまであと一歩じゃ!!」
思わず笑みが漏れるバロール。
「切り札も、こちらにあるしの……ロキを出し抜いて、我らの天下をつくってやろうぞ」
魔眼の力で、永久の幻惑に囚われているフレイヤ……
そのフレイヤを眺め、バロールは更にほくそ笑んだ……




