決戦直前
「では、コナハト城攻略戦の概要を説明する!!」
まだ日が昇りきってない時間、横からの朝日がテントの隙間から入ってきている。
そんな時間に、各指揮官達はアルパスターのテントに集合していた。
「まず我々は、城下街である首都スラハトの奪還を試みる。バロールの魔眼で脅されながら日々生活している市民の解放と、退路の確保を行う」
今回の遠征軍の目的でもあるコナハト城奪還と姫の救出………つまり、バロールを討つ為の最後の戦いを前に、アルパスターの気持ちは高ぶっている。
その横で、冷静なオルフェがコナハト城の城下街、スラハトの地図を広げた。
「恐らく、バロールが魔眼を使うのはここ………我々がスラハトを奪還した後に、コナハト城に架かる一本橋を渡る時だろう………」
オルフェは地図上で、コナハト城の堀に架かる一本の橋を指しながら説明する。
「ん??じゃあ、スラハトで戦ってる間は魔眼を気にしなくて戦えるわけ??」
「うーん………バロールがスラハトの街を重要だと思っていなければ、確かに考えられそうだけど………オルフェさんの作戦通りにいけば、スラハトにヨトゥンの大軍はいなそうね」
ゼークは地図を見ながら首を捻るが、智美はその作戦を何となく理解していた。
ロキは人間しかいない町でも手厚く統治していたが、他のヨトゥンの将軍達は、使えなければ切り捨てるだろう………そうであれば、スラハトを奪還し歓喜に湧いているところを魔眼で一掃して、絶望する姿を見て楽しむかもしれない。
「スラハトの住人を人質にしたり、なんらかの罠は仕掛けているだろうが………バロールが魔眼を使うのは、橋を渡る時しか考えられない。大部隊が城の中に入るには橋を使うしかないから、そこだけを注意していれば見てればいい………奴は面倒臭い事を嫌うし、何より城から橋を魔眼で見られたら、全員橋を渡ってる間に死ぬ。バロールにしたら、こんなに簡単な事はないからな」
オルフェはそう言うと、コナハト城とスラハトを結ぶ橋に丸印を付ける。
「スラハトを奪還した後は、ユングヴィ王子は単騎で東の門に向かって下さい。ヨトゥン軍は魔眼に対抗出来るのは王子だけだと思っているので、敵の部隊を分断出来る筈です」
更にオルフェは、コナハト城の東に架かる小さい橋に印を付けた。
「我々が橋を渡る時に、一真がバロールに戦いを挑んでくれる筈だ。そうすれば、魔眼に晒される事無くコナハト城に進軍出来るだろう」
オルフェの話を補足するように、アルパスターが続ける。
「つまりオレ達がスラハトの民衆を解放している間に、一真がコナハト城に侵入する。んで、一真がバロールと戦い始めたら、そのスキに橋を渡ってコナハト城に雪崩込むって訳だな!!けど、俺達の進軍と一真の戦うタイミングがズレたら、作戦は失敗すんじゃねーの??」
「それは大丈夫です。私が、こっちの情報を魔法で一真に伝えます。ただ、何度も魔法を使うと一真の侵入がヨトゥン側にバレてしまう可能性があるので、最低限の連絡になりますが………」
航太の疑問に、エリサが答えた。
エリサの瞳には、強い決意が読み取れる程に力が入っている。
ホワイト・ティアラ隊の隊長として………兵達の傷を治す為に共に走り回った仲間として………少しでも一真のサポートしたいという気持ちが伝わってきて、航太は嬉しくもあり感謝もした。
「ガヌロンは、一真様が凰の目を持っている事を知らない。だから、ユングヴィ王子の動きには気を配っている筈。王子を東側に配置しておけば、自然と東門に兵を配置するだろうから、西門への注意は薄くなる。一真様の力なら、城への侵入は容易いですね………」
テューネは力の無い小さな自分の右手を眺めた後、その手の平を固く握り締める。
自分にも、魔眼に対抗出来る皇の目がある。
けれど、バロールと戦う程の力が無い………その事が辛く、悲しかった。
「大丈夫だよー、カズちゃんと王子は化け物。テューネちゃんは、可愛い女の子なんだから!!そんな異次元の争いに、参加しなくていいってー」
「まぁ………そうね。あの2人は、格が違い過ぎるわ………私達は、私達に出来る事をやるしかない!!ねっ」
絵美とゼークに左右から肩を抱かれて、テューネは僅かな笑顔を取り戻す。
そう………今は仕方ない。
力不足は、少しずつでも差を埋めていくしかないんだ………
テューネは小さな自分の顔をパンパンと叩いて、気持ちを入れ直す。
「バロールの部隊には、黒き者スルトに、ガイエンもいる。クロウ・クルワッハはコナハトから離れているという情報も入っているが、それでも強敵揃いだ!!気を引き締めて、そして戦いに勝利しよう!!」
スルトか………航太は、アルパスターの言葉で思い出していた。
以前ランカスト隊を全滅に追い込んだ、凄まじい炎………あの時、実際にスルトとは相見えなかったが、ムスペルの騎士とともにスルトの力の強大さを思い知らされた。
そして人の命を奪う事に、躊躇いが無い事も………
「バロールの魔眼もそうだが、スルトの炎だって使わせる訳にはいかねぇ………簡単に人の命を奪う、あの力を………」
搾り出すような声で、航太が呟く。
「そうだな………スルトの炎は、一発で多くの人達が犠牲になる………オレやMyth Knightの力で、必ずスルトの力を抑え込むぞ!!」
航太の肩を叩きながら、ユングヴィ王子も航太に同意する。
「この戦いでは、姫の奪還を最優先にする!!一真がバロールを倒したら、城に侵入して姫を助ける。スルトや他の敵は無理に相手をせず、姫を救出後は速やかに撤退するんだ!!」
アルパスターの言葉に、各指揮官達が頷く。
「スラハトには、ガイエンも出てくるかもね………」
立ち上がろうとした航太に、ゼークが声をかけた。
(ガイエンか………結局、あの後ヨトゥン軍に戻ったのかな??ヤツもある意味騙されてたんだし、オレ達と共に歩めるといいが………難しいか………)
考え込む航太を見て、ゼークは不意に航太にデコピンをする。
「痛ぇ!!ゼーク、いきなり何しやがる!!」
「にゃはははは☆ゴメン、ゴメン」
額が赤くなった航太を見て、ゼークが笑いながら椅子から飛び降り、航太の側を離れた。
そして急に振り返り、航太の頬に指を突き刺す。
「考え過ぎても仕方ないって!!私達は一真を信じて、自分達の出来る範囲の事を頑張ればイイんだから☆」
ゼークは最後にウインクして、その場を離れる。
(ま………ゼークの言う通りか………一真、今日の夜には会えるよな!!)
テントから出ると、朝の日差しと柔らかい風が航太を出迎えた………




