旅立ちの時
「ここまで力の差があるのか………なんか、虚しくなってくるな!!」
航太は右腕を抑えながら、流れそうになる涙を堪える為に大声を出した。
照れと安堵と不安と………色々な感情が混じり合う航太の表情だが、少なくとも先程までの険しさは無くなっている。
「こうまで圧倒的にやられると………何も言えないね、航ちゃん」
蹴られた鳩尾を抑えながらヨロヨロと立ち上がった智美の顔にも、普段の優しい表情が戻っていた。
「ああ………出鱈目に強すぎだ!!普段の一真からは、全く想像も出来ないぜ!!」
少し呆れ顔になった航太の言葉使いからも、一真を敵対しているようには感じない。
「………どうなってるの??」
みんなの様子の変化に、一真は戸惑う。
「航ちゃん………気が済んだなら、本当の事を言わなきゃ………ね??」
智美が航太の背中を押すように、一真への返事を促す。
航太は複雑な表情になり、頭を掻きながら一真を見た。
「航ちゃん、何恥ずかしがってんの??『実力の分からねぇ一真を、1人で敵の城に潜入なんてさせれねぇ!!希望だか何だか知らねぇが、もしオレ達が一太刀でも浴びせられる程度なら、強引にでも連れ戻す!!』とか言っちゃってたくせにぃ~~~♪♪」
いつの間にか立ち上がっていた絵美が茶化すと、航太の顔がみるみる赤くなっていく。
「てめっ………絵美!!お前だって『カズちゃん1人なんて無理だよ!!止めたって、私はカズちゃんに付いてくからね!!』とか何とか言ってただろ!!」
「そんな言い方してません~~!!嘘つきカズちゃんの心配なんて、誰がするか!!だいたい、私の大事な胸を肩で押したんだよ!!」
航太に向かって反論する絵美も、顔を真っ赤に染めていた。
「はいはい………2人とも、素直じゃないねー」
智美は手を叩きながら恥ずかしがる2人の間に入り宥めた後、呆然とする一真に優しい笑顔を向ける。
「ゴメンね………みんなカズちゃんが強いって半信半疑で、そんなカズちゃんを1人で城に潜入させれないって話になって、本気のカズちゃんの力を見ようって話になったの。でもカズちゃん優しいから、事情を話して戦ったら手を抜くでしょ??だから、もっともらしい事を言って怒らせたかったの………」
「3人で協力して戦えば、一真の本気が見れると思ったが………完璧に手ぇ抜かれたな………」
智美と航太は、顔を見合わせて大きく息を吐いた。
「もー、カズちゃん強スギ♪♪でも、女の子の胸を攻撃するなんて………エッチ!!」
絵美が胸を抑えて冗談ポク言ったので、皆の顔が笑顔になる。
一頻り笑った後、安堵の表情を浮かべた一真が口を開く。
「みんな………ありがとう………それに、嘘をついててゴメン………正直、みんなの言葉を聞いてて心が揺らいだよ………自分の行動は正しかったのかなって………」
一真は項垂れながら、本当に申し訳なさそうな顔をする。
「ゴメンね、カズちゃん………私達、言い過ぎたよね………でも、本気でカズちゃんの事が心配だったんだよ………だから!!」
絵美は俯く一真の頭を、自分の胸に引き寄せ抱いた。
「一真………嘘をつかれてた事なんて、正直どうでもいいんだ!!智美が捕まった件だって………お前がどれだけ辛い思いをしていたか、将軍から話を聞いて少しは理解してるつもりだ!!ただ………まぢで心配なんだよ!!どんなに強くても、お前はオレの頼りない弟なんだ!!」
航太の声を聞いて、一真の瞳から涙が流れる。
「私達は、カズちゃんの背負っている物を知らない。バロールを倒すのは凰の目を持っているから………でも、それだけじゃないんでしょ??きっと、もっと大きな物を抱えてる………私がロキさんに捕まった時、ロキさんも大きな使命を持っているように感じた………カズちゃんからも、同じ感じがするの………私達の力不足で、まだ力になれないなら………もっと頑張る。幼なじみの弟の力になれないなんて………なんか、嫌だから………だから、私達の力がカズちゃんの力になれる日が来たら、必ず教えてね………」
絵美にもたれかかっている一真の背中を、優しく摩りながら智美も涙を流す。
「私達も付いていってあげたいケド、この実力差だと足手まといになるのは分かりきってるから………私達は頑張って敵の目を引き付けるネ」
絵美は自分の胸で泣く一真を、強く抱きしめた。
「一真………必ず生きて、お互い元気な身体で再会しようぜ!!城の外の事は、オレ達にまかせろ!!オレ達も、コッチの世界に完全に足を突っ込んでるんだ!!お前の使命の為だけに戦ってるんじゃない。だから、オレ達の事は気にすんな!!」
「まーったく、カズちゃんは1人でしょい込み過ぎ!!智ちゃんは力不足だ何だと言ってたケド、私は力不足なんて思ってないからねー。色々バレちゃったんだから、今後私達を頼らなかったらー………くすぐりの刑に処するぞっ♪♪」
航太に続いて、絵美が一真の背中を擦りながら勇気づける。
「ありがとう………みんなの気持ち、もの凄く伝わった!!力不足なんて、少しも思った事ないよ………俺の戦う力より、みんなの心の方がずっと強い………航兄、城の外の事は頼むね!!」
「任せろ!!だいたい、今までベルヘイム軍を支えてのはオレだぜ!!」
航太が力こぶを一真に見せると、その横で絵美が吹き出す。
「支えてたは言い過ぎでしょ♪♪笑かさないでよね~~♪♪」
「うるせーなぁ」
航太と絵美のいつものやり取りを見て、一真は微笑みながらその場を離れる。
「一真!!」
拳を突き出した航太に、振り向きながら笑顔で一真も拳を突き出した。
そして、一真は歩き出す。
(航兄………みんな………力不足だから言えないんじゃない。この事を言ったら、みんなの枷になってしまう………答えを出したロキと、答えの出せていないオレと………けど、みんなが不幸になる選択だけはしたくないんだ………)
そこまで考えて、一真は首を横に振る。
まずはバロールを倒す事に集中しよう………全てはそれからだ………
これから孤独な戦いが始まるが、一真の心は仲間の愛で温かく包まれていた。




