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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
孤独な旅立ち
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親しき者との戦い

 ティアと別れた一真はその足で旅の支度を整えると、バロールの居城………コナハト城に向けて歩き始めた。


 ベルヘイム軍の幕舎の明かりが少しずつ離れていくのを見て、一真は少し物悲しさを感じる。


「流石に………1人ってのは寂しいな………って言ってらんないケド、街灯もないから暗すぎだよ」


「あにゃあにゃ………あにゃあにゃあにゃ………にゃ!!」


 独り言を呟いた一真の懐から出て来た猫のヌイグルミ………アクアは、悲しみの表情を浮かべるその顔の上を這いずり回った。


「………分かったよ、オレが悪かった………1人じゃなかったね………」


「にゃーすけっ!!」


 しかめっ面になった一真を確認したアクアは再び懐の定位置に戻ると、気持ち良さそうな寝息を立てる。


 何かを言いたかった一真だが、これ以上面倒臭くなるのを避けたかった為、ベルヘイムの軍の夜営している明かりを一度見てから静かに歩き始めた。


 その時………木々の間の茂みが、微かに揺れる。


 一真はアクアの位置を確認すると、起こさないように静かにグラムを構えた。


 バスタード・ソードてあるグラムのルーン文字が刻まれる刀身は、ドラゴンスレイヤーと言われる程に鋭い。


 一真が茂みに視線を向けた瞬間、木々を薙ぎ倒した鎌鼬が突然迫って来た。


「くっ………」


 咄嗟に姿勢を低くした一真の頭上を、鎌鼬が通過する。


「不意打ちの鎌鼬を躱すか………やっぱり、アルパスター将軍の話は嘘じゃなかったってコトか??」


 茂みから鎌鼬を放った張本人、航太と………その後ろから智美と絵美が姿を現す。


「航兄………それに、智美にミーちゃんも………こんな所でどうしたの??」


 思いがけない人物達の登場に、一真は焦っていた。


 普通に出会っていたなら、焦りもしない。


 しかし、待ち伏せしていた上に攻撃までされたのだ。


 義理の兄と幼なじみに………


「一真………そりゃ、コッチの台詞だぜ!!その剣を持って………1人で、どこに行くつもりだ??」


 エアの剣を構えて、明らかな攻撃の意思を放ちながら、航太が一真との距離を詰める。


「いや………それは………その………」


 一真はグラムを下ろすと、言葉に詰まって後退った。


「コナハト城に………バロールに戦いを挑みに行くつもりでしょ??それも1人で………」


 智美が静かに………そして、はっきりとした口調で一真に問う。


「もう、みんな知ってるんだね………将軍から聞いたの??」


「オレだけな!!智美と絵美にはオレから話した!!神話の世界に来るのを協力したってのに、嘘をつかれてるとはな!!」


 静かに話す一真に対し、強い口調で航太が叫ぶ。


「本当だよ………カズちゃんにとって、私達って何だったの??神話の世界に来る為の道具??」


 普段の天真爛漫な絵美からは想像出来ない程の静かな中にも怒りのある言葉に、一真は目を丸くした。


「そ………そんな風に思ってる訳ないだろ!!オレだって、皆に打ち明けたかったケド………仕方なかったんだ!!ガヌロンみたいな奴もいるし、どこから情報が漏れるか分からない………だから………」


 いつも優しくて、どんな時でも明るく振る舞う絵美にそんな言い方をされて一真は悲しくなり、静かだった声も自然と大きくなる。


「まぁ………私達を軽く見てたのは確かよね………情報が漏れる事を心配していたって事は、私達が一真の秘密をバラすと思ってたって事でしょ??一真の願いを叶える為に私達は死線を越えてきたのに、自分はそんな戦いは興味ないって感じだったんだろうね」


「と………智美まで………そんなに皆を傷つけた??」


 確かに、隠してた事実は大きい………神話の世界に来てから、皆とは溝を感じる時もあった。


 それでも、最後には皆は分かってくれる………


 そう………自分勝手に思っていた………


「将軍を倒せる程の絶大な力を持ちながら、智美が敵に捕まった時に助けに行こうともしなかったな………智美より、バロール退治が大事か??この世界の命の恩人達の復讐は、オレ達より大事なんだな!!」


 航太は叫ぶと、エアの剣を構える。


 それに呼応するように絵美は天沼矛を、智美は草薙剣と天叢雲剣をそれぞれ構えた。


 その姿は、ヨトゥン兵と対峙する時のように真剣そのものだ。


「そうじゃない………皆の事は、オレの命より大事だと思ってる!!でもバロールは………スラハトに住む人々を魔眼で脅して奴隷のように扱っている…………それにこの遠征軍は、全滅してでも姫を取り返す為に組織された………そんな運命を変えれるのも、犠牲を出さずにバロールと戦えるのもオレだけなんだ!!だから………」


「だから、私はどうなっても構わないって事ね。よく分かったわ!!」


 一真の説明を聞いて、智美の怒りは更に増したように感じられる。


 どうしたら、分かってもらえるのだろう………いや、理解してくれるだろうと虫のいい事を考えた自分が悪いのだろう………


 一真の心には、後悔と悲しさが同時に襲っていた。


「一真、お前がバロールを倒す事を使命と思うなら、こんな場所で死ぬ訳にはいかないだろ!!剣を抜け!!」


「私達は、本気だよ!!一真のせいで私は敵の捕虜にもなったし、下手したら死んでた………一真を殺すのに、躊躇いはないわ!!」


 航太と智美は、今にも飛び掛かってきそうな勢いだ。


「バロールを倒しロキの真意を確認したら、皆の刃を甘んじて受ける!!だから、それまで待ってくれ!!ここで死んだら、オレの為に命を投げ出してくれたネイアさんに………命に変えて智美を救ってくれたランカスト将軍に、申し訳が立たない!!」


「やっぱり………カズちゃんの秘密を守る為に、ランカスト将軍は死んだんだね………カズちゃんが智ちゃんを助けに行ってくれれば、ランカスト将軍はガヌロンの策に嵌まる事も無かったのに!!」


 絵美もまた、恨みの視線を一真に向ける。


 もう、どうしようもない………


「分かった………皆の全力の刃を、今受ける。でも、オレはバロールを倒さなきゃいけない。その為には、ダメージを受ける訳にはいかないんだ………」


 一真は独り言のように呟くと、再びグラムの柄に手を伸ばした………


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