遠征軍の運命
「さーて、どうすっかなー。ベルヘイム軍最強の2人が相手だ。手は抜けねーぞ!!」
航太はエアの剣を横に一度振り、直ぐに勢いよく縦に振り抜く。
疾風の如き鎌鼬が横と縦で発生し、十字となってアルパスターとユングヴィ王子に迫った。
が…………その攻撃を2人は難無く避ける。
2人の後方で、何本かの巨木が斬られて倒れる音が聞こえる…………その音で、十字の鎌鼬の破壊力が想像出来た。
「破壊力は、なかなかだな…………しかし、肝心のスピードは落ちている!!使い時を間違えると、相手に躱されて反撃されるぞ!!」
「まぁ…………その為の訓練なんだがな…………次の戦いは、間違いなく激戦になる。技の使い所も、考えて戦え!!」
ユングヴィ王子とアルパスターの交互に聞こえて来る声に耳を傾けながら、航太はエアの剣を構え直す。
「くそー!!結構、自信のある新技だったんだけどなー。多少は食らってくれないと、自信無くすぜ!!」
そう言いながら航太は横の鎌鼬を発生させると、風の力を自らの後方に発生させ加速し、その鎌鼬を追う。
アルパスターとユングヴィ王子は迫って来る航太に向けて、それぞれの神槍を構える。
「では…………いくぞ!!」
アルパスターが神槍ブリューナクに力を込めると、航太を目がけて光の槍が、正に光の速さの如く3本飛び出した。
「うおっ!!」
カウンターで飛び込んで来る光の槍に、航太はエアの剣で風を発生させ、その風に自らの身体をぶつけた反動で横に跳び、間一髪で光の槍を回避する。
それでも、光の速さで襲い掛かるブリューナクの光の槍は航太の左腕を掠め、その左腕から鮮血が舞う。
(おいおい、マジかよ!!こんな本気でやるなんて、聞いてねーぞ!!)
軽く出血した左腕を見て、航太は気を引き締める。
「考え事をしている暇はないぞ!!」
膝をつく航太の後方から、今度はユングヴィ王子が神槍ゲイボルグを放り投げた。
ゲイボルグは航太の目の前で30本に分離し、襲い掛かる。
「だーっ、くそっ!!」
片膝をついた態勢で航太は下から上にエアの剣を振り、襲い掛かって来る大量のゲイボルグを風の力で上に弾き飛ばした。
その瞬間、真横から光の槍が航太に迫る!!
「うわぁあぁあぁあぁ!!!」
航太は、絶叫して目を閉じた。
その絶叫に反応するように、光の槍は航太に当たる直前で消滅し、光は四散して消えた。
恐る恐る目を開けた航太は自分の無事を確認すると、立ち上がれずにその場に座り込む。
「2人とも本気かよ!!1対1でも勝てないのに、2対1で勝てる訳ねー!!」
航太は夜空を仰ぎながら、大声で叫んだ。
「航太はかなり強くなったさ。以前は、ブリューナクの光の槍を躱せなかったからな」
アルパスターは、座り込む航太に手を差し延べながら微笑む。
「まったくよー!!多少は手加減してくれてもいいのに……」
航太はブツブツ言いながらも、アルパスターの手を掴んで立ち上がった。
「航太……………さっきの話だがな……………我々2人を同時に相手をして、そして一瞬で倒せる人物なら、バロールの相手をさせても勝算があると思わないか??」
ユングヴィ王子は、航太が立ち上がるのを待って話かけた。
「2人を一瞬で…………って、そもそもユングヴィ王子は神様だろ??神を倒すって、どんだけだよ??もし、そんな人がいたら文句なしだと思うが、でも将軍と王子以上の腕の持ち主なんて…………もしいても、軍神とかの二つ名を持ってる奴じゃないと無理だろ。そして、そんな奴はベルヘイム遠征軍にはいない…………ってか、軍神って王子の事だろ??」
航太は作り笑いを浮かべ、首を横に振る。
「それがいるんだ。我々2人が本気で戦っても傷一つ付けれなかった人物が………………今まで戦いには参加させず、ヨトゥンに警戒されないようにしていた人物がな……………」
「なるほどね…………これで航太を丸め込むつもりかぁ…………普通に話をして、航太が納得する訳無いもんねー」
アルパスターの話に割り込んで来た人物…………銀色の綺麗な髪を靡かせながら林から出て来た女性は、航太とアルパスターの間に割って入った。
「ゼーク、話を聞いていたのか??」
「ええ、航太が情けない声を出した辺りからね。将軍に真実を聞きに来たんだけど…………その必要もなさそうね」
ゼークの視線は鋭く、今にもアルパスターに戦いを挑みそうな雰囲気でもある。
「お前の察している通りだ。だが…………この方法以外、どうやって航太に理解してもらえると思う??そして、もはやバロールとの決戦は目と鼻の先だ。仲間同士でゴタゴタしているヒマは無い!!」
アルパスターも、鋭い視線をゼークに反す。
唇を噛み締め、拳を握り締めるゼークの姿に、航太は嫌な予感がした…………




