温泉にて……2
「ふむー、つまりカズちゃんが、その伝説の騎士と何らかの関係があって、凰の目ってのが使えると…………いやー、無いでしょー。だって……………ねー??」
絵美は智美の鋭い視線を感じて、言葉を濁す。
余計な事を言って再び頭を叩かれたら、本日何回叩かれたか分からない頭が限界をむかえる。
無意識に頭を摩った絵美は、その瞬間に何かが温泉に落ちた音がしたが気付かなかった。
「でも…………そうよねぇ……………カズちゃんが強いなんて、やっぱり信じられないよね…………喧嘩したって、絶対に手を挙げないし…………航ちゃんの方が、まだ可能性ある気がするなー」
「たよねー!!私、薙刀の試合でカズちゃんに負けた事無いし、かなりなヘタレっぷりだったケド…………」
智美と絵美は元の世界での一真を想像するが、戦争の無い世界ですら強いというイメージはない。
「もし皆さんが言うように、一真様の強さに疑問が残るとして…………それでも私は、バロールを倒す為の力にはなれないのでしょうか…………私も皇の目を使えるのに…………」
テューネは仄かに赤くなった自分の身体を見ながら、その小さな手を握りしめる。
「テューネは頑張ってるし、才能もあるわ。でも、デュランダルを使いこなすには時間も必要よ………焦っちゃダメ。それより情けないのは、7国の騎士の末裔なのに、神剣も使えない私の方だわ…………」
ゼークはテューネの肩を抱きながら、自らも俯いてしまう。
「なんだなんだぁ!!暗いぞぉ~。1人が弱ければ、皆で纏まって強くなればイイじゃんさ!!私達はチームなんだから!!」
「そうね…………絵美の言う通りだわ。1人で戦う訳じゃない。カズちゃんがもしバロールと戦わなければいけないとしても、そのサポートは私達でも出来る筈よ。とにかく、今の話は黙っておきましょ!!味方からも、いつガヌロンのような裏切り者が出るか分からないしね」
智美も一真が強いという事に半信半疑だったが、ネイアが死んでも守った事を無駄にしたくなかった。
「ところで、アスナって一体誰なの??」
絵美が少し上気し顔を赤らめながら、誰に聞く訳でもなく声を発する。
「アスナ様は、邪竜ファブニールを倒した7国の騎士の英雄の1人よ!!ファブニールの血を浴びて生き残った唯一の人間で、その時に凰の目の力を手に入れたんだよ☆って、何で子供でも知ってる常識を知らないかなー」
ゼークは胸の前でお祈りするかのように握り合わせ、ウットリした表情を浮かべた。
「まぁ…………こんな風にミーハーなファンがいるぐらい、アスナ様は有名なのよ。ムスペルヘイムに自らの巣を作って、人間の生贄を捧げさせてたファブニールを討った英雄ってね」
エリサはゼークの話の後を追って、アスナの説明する。
「ファブニールの血は凰の目って言うアスナ様の力となって、その後はバロールやスルトなんかと互角に戦えるようになったんだよ☆☆その時に、ソード・オブ・ヴィクトリーも手に入れたのよ☆☆」
ゼークは、アスナの話になると多弁になる。
「ゼークはアスナって人の事、尊敬してんだね♪♪」
そう感じた絵美は、ゼークに笑顔を向けた。
「憧れの人だよ!!でも…………突然、ベルヘイムから姿を消して、それからのアスナ様の事は、誰の知らないんだよね……………」
ゼークは少し暗い表情で、絵美から視線をズラす。
(ひょっとして、そのアスナって人が一真の先祖??確かに、私達は一真が航太の家の養子になった経緯をよく知らないケド………うーん………)
ゼークの話を聞きながら、智美は首を傾げた。
消息を絶ったなら、智美達から見る『元の世界』に跳んだ可能性は充分にありえる。
(しかし、一真が伝説の騎士の末裔??いまいち弱々しいしなぁ………絵美じゃないけど、航ちゃんの方が英雄に近い気がするし…………)
智美が難しい顔をしているのを見て、ティアが智美に近付く。
「どうかしたの??」
ティアが心配そうに、智美の顔を覗き込む。
「なんでもない、なんでもない」
智美はティアに言うと、作り笑いを浮かべた。
(いつ、本当の事を話せばいいんだろ??でも、将軍に話してから皆に報告すした方がいいよね…………だめだ、考えるの止めよ!!)
智美は「んー」と、軽く伸びをする。
「ねぇ、結構長い時間湯に浸かってるけど、私達大丈夫かな??頭がポーッとしているのは、私だけかなー??」
身体全体を赤くした絵美が、急に立ち上がった。
「ねぇ、みーちゃん…………頭にのっけてたガーゴ、どこ行ったの??」
ルナが、キョトンとした目で絵美の頭の上…………ガーゴが乗っていた場所を見る。
……………………………………
「湯舟に落ちた……………かな??」
絵美が冷や汗を垂らす。
「早く引っ張り上げなきゃ!!てか、なんで浮いてないの!!」
智美が慌てて、湯舟の中を探し始める。
「もー!!絵美、ちゃんと面倒見ててよね!!面倒臭い!!」
「あー!!ゼークひっどぉぉぉい!!あんなの面倒みきれるかぁ~~!!」
絵美とゼークが言い争いを始めた瞬間、ルナが湯舟の底からグッタリしたガーゴを引っ張りあげた。
「ルナ…………助かったでしゅ………3回ぐらい三途の川を渡ったでしゅ………ガーゴじゃなきゃ死んでたでしゅよ~」
大量の温泉の湯を含んだガーゴの体は、かなり重い。
「なんか………ガーゴ、温泉臭い………」
ゴミを掴むようにガーゴを持つルナは、さらに自分の鼻も摘んだ。
「サイテーでしゅ!!温泉に落としといて、心配なしでしゅか!!これだけ女の子が揃ってて『ガーゴごめんネ』とか言う人は、1人もいないんでしゅか!!」
喚き散らすガーゴを横目に、全員立ち上がる。
「とりあえず、熱いから出ようか。このままじゃ、全員脱水で死んじゃう!!それとガーゴ、ちゃんと体乾かしなよ!!しっかりしてくれないと、私が怒られるんだからね!!」
絵美はルナに掴まれているガーゴを睨んでから、皆を促して温泉を出た。
「し…………しどいでしゅ」
温泉の湯を身体から垂らしながら、ガーゴはルナと一緒に温泉を出る。
ティアは温泉に浸りながら、ずっと一真の事を考えていた。
バロールと戦ってほしくない…………温泉での話が、間違いであって欲しい…………ティアは、ホワイト・ティアラ隊に戻ったら一真に自分の気持ちを話そうと、心に決めた。




