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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
血に染まる白冠
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血に染まる白冠1

 時間は更に、少し巻き戻る…………


 航太達の部隊がバロールの先鋒部隊と遭遇した頃、ホワイト・ティアラ隊は負傷者の受け入れ準備のピークを迎えていた。


 そんな中を、1人の女の子が走り回っている。


 ルナ・ハートリィ


 レンヴァル村がスリヴァルディに襲われた時、凰の目の男の戦いを唯一見ていた女の子……………そして、何故か一真から離れようとしない。


 ルナの母も回復の魔法を少し使えるという事もあり、ホワイト・ティアラ隊と行動を共にしていた。


「カズ兄ちゃん、ちょっと遊ぼうよ!!遊んでくれなきゃ、靴返してあげないよー!!」


「勘弁してよー。今は皆、必死に戦ってる最中なんだから~~」


 一真の靴を持って外に出たルナに、一真が情けない声をあげる。


「チョット一真!!子供を甘やかし過ぎだよ!!ビシっと言わなきゃダメ!!ルナも、これから忙しくなるんだから、大人しくしてなさい!!」


 ティアが目を吊り上げながら、一真の背後からルナを睨んで声を荒げた。


「ちょっと~~、オバさんに用ないんだけど…………私は、カズ兄ちゃんと遊びたいの!!」


 ティアに向かってアッカンベーをすると、一真の靴を抱えて再び走り出す。


「も~~~、誰がオバさんよ!!一真がシャキッとしないから、あんな風になっちゃうのよ!!しっかりしてよね!!」


(やれやれ…………そういえば、小児の実習の時も何故か子供に懐かれたなぁ……………)


 一真は看護学校で行った小児実習で行った保育園での出来事を思い出しながら、元気に走るルナを目で追う。


 ルナが一真に懐く理由……………それは、自分と母をヨトゥン兵から救ってくれたのは一真だからだと言う。


 皆が「航太が救ってくれたんだよ」って言っても、一真は強くないと言われても、頑なに信じている。


 天使のように見えた雰囲気が、一真から感じると言い張って譲らない。


 更には、傷ついたレンヴァル村の人達を優しく看病して回っていた一真の姿に、言いようのない感情が湧いていた。


 一真の意識を自分に向けさせたい為に、ついつい悪戯をしてしまう。


「一真はチキンだから追って来れないでしゅ~~~。じゃんねんながら、靴はポイってするでしゅ~~。ルナ、ポイってするでしゅよ~」


 ルナの首からぶら下がってるガーゴが、その場の状況を煽る。


「ガーゴ……………チキンって、自分の事だろ……………」


「ざざざざ残念~~~~~~~~でしゅ。ぷぷ。ガーゴはヌイグルミなんでしゅよ~~~だ」


 一真の呟きに、ガーゴは勝ち誇ったポーズをしながら笑ったフリをする。


「ガーゴ、相変わらず面白ろ~~~い♪♪」


 ルナはキャッキャッと笑いながら、一真の靴とガーゴを交互に空に投げて遊び始めた。


(……………………)


 一真はティアのプレッシャーを背後から感じ、この状況をどうにか収拾しようかと思案していると…………


 ボコーーーーーン!!


 気持ちいぐらいイイ音がして、ガーゴが地面に転がった。


 そのガーゴを見下ろすように、手にバケツを持ったエリサが怒りの表情を浮かべて立っている。


 恐らく、空中に投げられたガーゴを、そのバケツで叩き落としたのだろう。


「そ…………そんなんで叩いたら駄目でしゅ~~。ガーゴは、お笑い芸人ぢゃないんでしゅよ(TωT)ウルウル」


 ガーゴは地面を這いながら、エリサにしがみつく。


「今は大事な時なんだから、ルナもガーゴも、遊ぶなら向こうでやりなさい!!一真も、シャキっとして!!」


「す…………すいません…………」


 普段は優しく、どちらかと言えば可愛いエリサに言われ、一真は思わず背筋を伸ばす。


 可愛い女性程、怒った時は恐いものだな…………一真は今後は注意しようと心に決めた。


(はぁ……………私、本当にこの人に助けられたのかな??でも、命の恩人なんだよねー…………人を救う時に見せる真剣な表情とのギャップがいいのかしら??)


 無意識に一真を見つめていたティアは、ハッと我に返り顔を紅くする。


「わーっ、ティア姉さん、カズ兄ちゃん見て顔紅くしてるー!!やらしー!!」 


「うぷぷー、ホントでしゅ~。ティアは一真の事が好きなんでしゅね~!!メモするでしゅ、ルナ、ガーゴの背中にメモするでしゅよ~~」


 ルナとガーゴが、今度はティアに照準を定めて遊び始めた。


「は……………はぁ!!な……………何言ってんの!!ほら、エリサにも怒られたでしょ!!子供は向こう行ってなさいよ…………もぅ…………」


「ってか、いい加減にしなさいっ!!ティアも、子供の言う事にイチイチ反応しない!!」


 ルナ達の言葉に、更に顔を紅く染めるティアを見て、エリサの怒りが爆発する。


 そんなやり取りを余所に、一真の表情が険しくなった。


「エリサさん……………なんか、人の気配しません??」


 一真は林の奥に、人の気配を感じる。


「んー…………そう??私には分からないケド…………」


 一真の雰囲気が変わっている事で、エリサも顔を引き締めて辺りを見渡すが、特に異常なく感じた。


「そうですか…………何事も無ければいいですケド…………ルナ、一応テントに入っといて」


 一真のただならぬ雰囲気に、今回はルナも「はい」と言って従う。


(嫌な予感がするな…………林を使えば、バロールの部隊がココまで回り込むぐらいは出来そうだし………………)


 一真は周囲を警戒しながら、ルナをテントに招き入れる。


 外の緊張した様子を感じとったのか、テントの中で作業していたネイアが外に出てきた。


「一真、どうしたの??」


 緊張した面持ちの一真を見て、ネイアも何かあると感じとる。


「林の奥に、何か潜んでるかもしれません。まだ気配がする程度で、何とも言えませんが…………」


 一真は立て掛けてあるバスタード・ソード…………グラムに、無意識に手を伸ばす。


 その様子を見ていたネイアが、グラムを掴む為に伸ばした一真の手に自分の手を重ね合わせ、首を振る。


「一真………ちょっと…………いい??」


 ネイアはそう言うと、一真の手を握ったままテントの裏手まで連れ出した。


「ネイアさん、どうしたんですか??」


 ネイアは真剣な瞳で、一真の瞳を見つめながら口を開く。


「私…………アルパスター将軍………アルから、全て話を聞いてるの…………」


「アル??そうか………だから将軍は、ネイアさんを信用して…………」


 部隊の総隊長を、あだ名で呼ぶ………


 アルパスターとネイアは特別な関係なんだと、一真は気付く。


 自分の所属している部隊の隊長だから秘密を話したと思ったが、それ以上に信用があったんだな…………一真は妙に納得出来た。


「一真…………貴方は、私が命を懸けて護るわ…………だから、グラムは使わないで…………」


 ネイアの真剣な眼差しは、懇願するような瞳に変わっている。


「いや…………でも、もし敵がいたら…………男のオレが戦わないと!!皆を護らなきゃ!!」


 これまでも、部隊の窮地に飛び出しそうになった事は何度もあった。


 しかし………今回ばかりは、自分が戦わなくては、どれだけの被害が出るか分からない。


 ホワイト・ティアラ隊は医療班の為、普段は護衛を付けるか、敵から分からないようにカモフラージュしている。


 敵に見つからないように、現在もカモフラージュの魔法と林の中という見つからない工夫はされていた。


 バロールの部隊との戦闘と言う事もあり、護衛の戦力も前方に出ている。


 普通に考えたら、見つかる筈はない…………しかし見つかった場合、護衛の戦力が整っていない分、かなり危険だ。


 だからこそ、一真は戦う覚悟をした…………秘密を漏らさない為に、襲ってきた敵兵を皆殺しにする覚悟を…………それでもネイアは首を振る。


「絶対に駄目!!もし戦うなら、この剣を使って!!あと少し…………あと少しで、私達の希望の剣がバロールに届く…………お願い…………」


 ネイアはそう言うと、自分が帯刀していた細身の剣を一真に差し出す。


「…………分かった…………出来るだけ、戦わないで済むようにします。将軍とも約束したしね…………でも、命を懸けるなんて言わないで下さい。何があっても、皆が助かる努力をしましょう!!」


 一真はそう言うと、ネイアから細身の剣を受け取る。


「ありがとう、一真………いつも辛い思いさせて、ゴメンね………」


 ネイアは、綺麗な長い髪が地面に付きそうなぐらい、深々と頭を下げた。


「なんでネイアさんが謝るのさ!!もし敵がいたら、逃げ最優先で行きましょう!!大丈夫、少し離れてはいるけど、全力で逃げれば将軍の部隊にも合流できますよ!!」


 一真はネイアに頭を上げるように促し、テントの正面に戻る。


「一真、間違いなく何かいる!!どうしよう!!」


 テントの前で林をジッと見つめていたティアが、戻ってきた一真に告げる。


 確かに…………明らかに木々が揺れており、複数の足音も微かに聞こえてきた。


 確実に、ホワイト・ティアラ隊に向かって足音が迫っている。


「なんで、私達の場所が分かるの………今まで、バレた事なんて1度も無かったのに…………」


 エリサも動揺を隠しきれず、声が震えていた。


「ガヌロンが消えた時から、嫌な予感がしていたんだ…………くそっ、まずいな……………皆!!逃げる準備を!!アルパスター隊の場所まで急ぐんだ!!」


 近付いて来る足音に危機感を感じながら、一真は叫ぶ。


 ホワイト・ティアラ隊に、確実に危機が迫っていた…………

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