表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
血に染まる白冠
113/221

明かされる真実1

 

 必死の捜索にも関わらず、消えたガヌロンは発見出来なかった。


 ベルヘイム軍はヨトゥン領に深く入り込んでる為、広範囲の捜索は出来ず、やむを得ず捜索を断念する。


 オルフェや航太達は納得出来なかったが、事情が事情なだけに受け入れるしかない。


 その日から、航太は兵法を必死に学び始める。


 オルフェやゼークから指揮の方法も学び、将としての貫禄を少しずつ出始めてきた。


 レンヴァル村を救った自覚は無い…………しかしベルヘイムの兵達は、航太の事をランカストの再来と信じ付いて来てくれている。


 だからこそ、航太は必死に学んでいた。


 航太は、そんなベルヘイム兵達……………ランカストの兵の期待に応えたい一心であり、その思いに智美と絵美もサポートを惜しまない。


 3人の成長は、日々著しかった。


 そんなある日、航太はアルパスターのテントに呼ばれる。


 テントに入った航太の目に入ったのは、アルパスターと隣に座るユングヴィ王子の姿であった。


 ユングヴィ王子は、人前にあまり姿を現さない。


 そんな王子がいた事に驚きながらも、航太は席に座った。


「航太、最近は兵法や指揮の勉強を熱心にしてるようだな」


 航太が椅子に座ったのを見て、アルパスターが聞いてくる。


「ああ、デュランダルを受け継いだのはテューネかもしれないが…………ランカスト将軍の魂と想いを受け継いだのは、俺だと信じている。だからこそ、ランカスト将軍が残した兵達に信頼される騎士になりたいんだ!!」


 興奮気味に話す航太を品定めするように見ていたユングヴィ王子が軽く頷き、アルパスターを見た。


 アルパスターも王子に頷くと、真剣な眼差しで航太を見る。


「航太…………これから話す事は、他言無用だ!!いいな………」


 アルパスターは、少し声のトーンを低くした。


 航太は意味が分からなかったが、アルパスターの真剣な表情に飲まれて頷く。


「よし…………航太、この世界はアース神族、人間、ヨトゥンしかいないという事は知ってるな??」


 航太は思考をファンタジー側に持っていき、少し考えてから頷づき、それを確認したアルパスターは続ける。


「しかし、神族にはもう1つある。ヴァン神族というんだが、昔アース神族に滅ぼされ、今は2人しか生き残りがいない」


「……………てか、神同士で戦争してたのか??神って、もっとこう…………」


 航太が想像する神様は全知全能で、人間同士の争いを止めたり戒めたりする者だと思っていた。


 そんな神同士で争いをするなど、航太の常識の中では有り得ない事である。


「まぁ、お前の神様像は置いといてだ…………これから話す事は、なぜ危険を侵してまで姫の救出をするか…………という疑問についてだ。お前には、伝えておいた方がいいと思ってな…………」


 アルパスターの言葉を聞きながら、ユングヴィ王子が静かに口を開く。


「航太…………君は、自分と関係のない我々の国の為に力を貸してくれている。そして、ランカスト将軍の意思を引き継ぐ決意も見せてくれた。我々も誠意を見せたいと思ってね…………」


 ユングヴィ王子は1度言葉を止め、少し周りを見渡すと再び話し出した。


「私と妹……………つまり、今ヨトゥンに捕まっているベルヘイムの姫は、ヴァン神族の生き残りだ。そして妹は、宿り木の剣ミステルテインに認められし者なんだ」


「は???」


 ユングヴィ王子の突然の告白に、航太の目が点になる。


「いや……………えーと、つまり………ユングヴィ王子って、神……………なのか??」


 航太が半信半疑の目で、ユングヴィ王子を見た。


 いやいや、よく見ても人間にしか見えない。


「驚いたかもしれないが、事実だ。彼の本名はフレイ。姫はフレイヤといい、2人は双子の神なんだ」


 アルパスターの説明が耳に入ってるのか分からないぐらい、航太の反応は鈍い。


「…………いや、神って目の前に出てくるのか??いやいや、そもそも実在するのか??てか、見た目人間ぢゃん…………」


 航太は独り言のように、混乱した言葉をブツブツと呟いている。


「大丈夫か、航太!!混乱するのも分かるが、落ち着け!!」


 アルパスターの声に、航太が我に返った。


「済まない、一瞬パニックに陥った。つまり神様が捕まったから、国を挙げて助け出そうとしてんだな!!てか、何で神様が王子と姫なんだ??」


 航太は、首を傾げる。


「そんな単純な話ではないんだが…………この戦争が始まる前に、ベルヘイムにミステルテインという神剣が、フォルセティという神から託された。その剣の護り手として使わされたのが、フレイとフレイヤなんだ」


「当然、我々が神として民衆の前に立つ事は許されず、王子と姫という役割を貰ったのだ」


 アルパスターに続いて、ユングヴィ王子が航太に話す。


「なぁ………えっと………王子は何歳なんだ??」


「年齢など、数えた事もないな…………そもそも神に、年齢という概念はない。アルパスターの何倍も生きてるのは間違いないな」


 航太の問いに、平気な顔でユングヴィ王子が答えた。


「いやいや、歳をとらない王子と姫がいたら、民衆だって気付くっしょ!!それに、何年も王子と姫って…………王か王女になってないと駄目っしょ??」


 現実離れの会話に、航太の口調も壊れ始める。


「我々がベルヘイムに来たのは、およそ100年前…………まぁ、人間の寿命でも、ギリギリ生きてる者もいる年月だ。それほど問題ないだろ??」


「いやいや、にしても100年なんて人間の平均寿命超えてんだぞ??その間歳とらないなんて、怪しむ人出てくるって!!」


 ユングヴィ王子と航太の言い合いを聞いていたアルパスターが、突如笑い出した。


「はははっ!!航太、王子と姫は龍の血を飲んだ事になってるのさ!!この戦争の初期に活躍した7国の騎士が竜退治した事があって、その血を飲んで不老不死になった事になってる。そして、永遠の王子と姫として、ベルヘイムの象徴のような存在になってる訳だが…………」


「なった事??つまり、龍の血に不老不死の力など無かったと??」


 航太が不老不死という言葉に食いつき、事実を確かめようとする。


「実際、不老不死など有り得ないさ。だが、邪龍ファブニールを倒した7国の騎士の1人は、その血を被り【凰の目】と呼ばれる力を…………そしてもう1人は、その血を飲み【皇の目】と呼ばれる、神をも越える力を授かったと言われている」


「すげぇ!!その力があれば、戦争を終わらせれるかもな!!」


 アルパスターの言葉に、興奮した航太が思わず席を立つ。


「神を越えるなど…………弱い人間が考えそうな事だ…………ちなみに【皇の目】は、最近テューネが発眼したが、神と比較など出来る程の力ではない。話が脱線したから、戻すぞ!!」


 ユングヴィ王子の言葉に、航太が項垂れながら再び席についた。


「とりあえず、ユングヴィ王子がフレイ様??で、姫がフレイヤ様??でいいのかな??」


 ぎこちない声で、航太が確認する。


「航太………………様とか付けなくていいぞ…………王子と姫でいい。それに神の方の名前は、知ってる人間が多いからな…………」


 王子の言葉に、航太が親指を立てて「了解」の合図を送った。


(相手は一応、神なんだがなぁ…………)


 アルパスターは、呆れた顔で頭を掻く。


「まずは航太に、我々の世界で起きた事を説明しよう」


 ユングヴィ王子は【*バルドルの死】について、航太に語った。


「成る程、でも何故ロキまで死なない体に??つーか、そのバルドルって奴は死んだんだろ??その後に不死の契約するって…………フォルセティって奴は馬鹿なのか??」


「航太…………神様に向かって、馬鹿とか言うな!!それには理由があるんだよ!!」


 アルパスターにゲンコツで殴られ、航太は頭を机に打ち付ける。


「ひでぇ…………思わず言っちまっただけなのに……………」


 ユングヴィ王子は溜息をつき、冷ややかな目で航太を見た。


「話を続けるぞ…………そもそも、フォルセティ様は馬鹿ではない。バルドルは生きているのだからな。全ての神がバルドルの為に涙を流せば、生き返らせるという約束を死の国の女王ヘルに約束したんだ」


「ほほぅ!!つまり全ての神様が泣いて、バルドルさんは生き返ったと…………なら、今までの話は何だったんだ??ただ死んで生き返りましたーって話か??」


 ユングヴィ王子の話に航太は若干、馬鹿にするような仕種をしながら聞いている。


「お前はアホか……………話はそんな単純じゃない。ただ1人、ロキは涙を流さずに、神として生き返る事は不可能になった」


「神として……………って事は、他の生き物に転生したって事かっ!!」


 アルパスターの言葉に、航太は身を乗り出した。


「アホに見えて、鋭いんだよな…………まぁ、その通りだ。ロキが涙を流さなかった分、1人の神が、神の力と引き換えにバルドルを救った」


「そう…………その力で、バルドルは人として生き返ったはずだ。どんな容姿で、どこに転生したかは分からないんだが…………そのバルドルの為に、フォルセティ様は精霊契約をした。まぁ、それもロキの策略だったのかもしれんが……………」


 アルパスターとユングヴィ王子の話が難し過ぎて、航太の頭から?マークが大量に飛び出す。


「ロキは恐らくフォルセティ様が精霊と契約した時にバルドルと同じ姿に化けて、バルドルと同じ体…………つまり、不死の体を手に入れた可能性が高い」


「いや、ちーっと待てよ…………ロキが化けれるとして…………姿を真似るだけで、同一人物と間違える訳ないっしょ??人間の目なら騙せるかもしれないけど…………神様やら精霊の目まで騙せんのか??」


 ユングヴィ王子の話に、航太が当然の指摘をした。


「いや、ロキは体の中身…………つまり臓器も変える力がある。実際、女性の体になって子供を産んだ事がある程だ………ロキなら、この無茶な方法が可能なんだ」


 ポカーンと口を開け唖然とする航太を一瞥し、ユングヴィ王子は話を続ける。


「結局、バルドルが人として生き返る事を知ったフォルセティ様が【宿り木の精霊】と契約を結んでしまった事で、ミステルテインでもロキの体を傷つける事が出来なくなった……………だが、フォルセティ様は滅んでしまったヴァン神族を契約に入れなかった。私とフレイヤが残っているのにな…………」


「ヴァン神族が契約に入っていない……………つまり、ヴァン神族ならミステルテインを使ってロキを倒せる!!」


 考えが繋がった航太が、再び興奮して席を立った…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ