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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
ロンスヴォの戦い
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ランカストの帰還

 

 オルフェ達がベルヘイム遠征軍の本隊に帰還したのは日が陰り始めた夕刻であり、空は赤みを増している。


 幕舎に着くと、航太と絵美、それにホワイト・ティアラ隊が負傷者の治療の為に待ち受けていた。


「絵美!!」


 智美は絵美の姿を見つけると馬から急いで下りて、思い切り抱きつく。


 ロキの部隊では良くしてもらっていたし、ゼークにも出会えていたが、それでも異世界に1人という状況は心細かった。


 双子でもあり本当の家族である絵美に再開出来た瞬間、智美は寂しさから解放される。


「良かったぁ~~♪♪本当に心配してたんだぉ♪♪」


 絵美は瞳に涙を溜めながら、それでも明るく……………そして強く、智美を抱きしめた。


「まぢ良かったよ!!ホントに死んじまったと思って、皆落ち込んだんだぜ!!」


 航太も安堵の表情で、喜びの声をあげる。


「ゴメンね航ちゃん。連絡手段が無かったから、無事って事伝えられなくて……」


 絵美と再開を喜び合った後、智美は航太の方を向いた。


「あ~~~!!もう着いてるでしゅ~~」


 遠くから聞き覚えのある声が聞こえ、智美の顔が自然と綻ぶ。


「ガーゴも……………相変わらずだね!」


「ああ、毎日喧しいのは変わらないよ……」


 嬉しそうな智美に、航太はウンザリした表情で答える。


「智しゃん!!久しぶりでしゅね~。ガーゴも久々の登場でしゅよ~」


 ガーゴは意味不明な事を言いながら、智美に突っ込んでいく。


 突っ込んで来るガーゴの後方で、負傷者の搬送を手伝う一真を見つけた智美は、自然と走り始めていた。


 皆と再開出来た喜びで、智美は浮かれ過ぎた自分を後悔する。


「智美~~。会いたかったでしゅ~~」


 その行動を見ずにダイブしたガーゴは、智美が走り出す前の場所に飛び込む……………が、当然だが智美はソコにはいない。


 スカッという音と共に、ガーゴは地面に落下していく。


「シドイでしゅ~~(・_・、)」


 ガーゴは泣きながら、地面でバウンドする。


 その頃、智美は負傷者を診る一真の横にいた。


「ゴメン…………直ぐに会いに行きたかったけど、予想以上に負傷者が多くて…………」


 額の汗を腕で拭いながら、一真は智美の方を見る。


「ううん。私を迎えに来てくれた事が、これだけの負傷者を作った原因なんだから…………一真、1人でも多く助けてあげて」


「もちろん!!それがオレの仕事だからね。それに、今回の件は智美のせいじゃないよ。ロキ陣営から裏切りがあったり、色々あってゴチャゴチャしただけなんだから…………」


 一真が負傷者を見渡すと、治療を終えたゼークがテントから出て来た。


「ゼーク……………いつも助けてもらって…………本当にありがとう…………」


「もー、何を言ってんだか!!私こそ、全然助けられなくてゴメンネだよ!!でも…………本当に無事で良かった…………」


 智美とゼークは、戦場では言えなかったお互いの思いを口にし、そして抱き合う。


「ところで、ランカスト将軍は??どっか負傷でもしたのか??」


 智美の後を追って歩いて来た航太の一言で、智美の表情が一気に暗くなった。


「智ちん、どーしたぁ??暗いぞぉ♪♪」


 智美の表情の変化に気付いた絵美が、智美の後ろから抱きつく。


「ランカスト将軍は……………」


 智美の代わりに喋ろうとしたゼークだが、言葉が喉に詰まって出てこない。


 2人の視線の先では、ランカストの遺体が担架のような物で地面に降ろされている。


 そこに1人の男が近寄って来る…………ランカストの部下だったシェルクードである。


 黒き者スルトの炎の一撃で大火傷を負っていたが、一真やホワイト・ティアラ隊の治療で一命を取り留めていた。


 そのシェルクードが、馬上に横たわっているランカストに気付き、走ってきたのだ。


「ランカスト将軍!!目を開けて下さい!!なんで…………なんで、こんな事に…………」


 泣き崩れるシェルクードの悲痛な叫びに、航太達の視線がシェルクードに向けられる。


 そして、その場にいる全員が、ランカストが力なく横たわっている姿を目にした………………


「ランカスト将軍!!まぢかよ…………帰ってきた兵は少ないとは思ったけど、まさか将軍まで…………」


 航太もランカストの亡骸に近寄り、その状態を見て言葉を飲んだ。


 体中は傷だらけで、左の太股と肩には貫通した傷…………そして、致命傷になったであろう胸の傷……………


 激戦の末に倒れたとしか思えない傷に、ロキ軍と戦闘した事が容易に想像できた。


「ランカスト将軍を、ここまで痛め付けれる奴がいるのか??それとも大軍に襲われたのか??」


「その両方よ…………将軍は、たった1人でヨトゥンの大軍の中に残り、オルフェ将軍やテューネの逃げ道を作った…………そして、疲労している将軍にロキの将…………ビューレイストが一騎打ちを申し出て…………その傷の殆どは、ビューレイストに付けられたモノだよ…………」 


 ゼークの言葉を聞きながら、航太の握る拳が強くなる。


 仲間を救う為に敵に1人で立ち向かい、その結果オルフェやテューネやゼークや智美…………皆を無事に帰してくれた。


「畜生!!オレはまだ、あんたに色々教わりたかったんだ!!でも…………最後に教わったよ。部下の命を守る…………守り抜く事こそ、指揮官の役割なんだってな…………」


 そう言うと、航太はその場に座り込んだ。


 この世界に来て、始めて身近に尊敬出来る同性の騎士が…………分かり合えたと思える騎士が出来たのに…………


 自分を評価して、信じてくれた騎士だったのに……………


「ゴメン航太…………将軍を守れなくて…………援軍に行って、大将を守れなかったなんて…………最悪だよ…………」


 ゼークも、悔しい気持ちは航太と同じだった。


 いや、同じ戦場で何も出来なかった分、ゼークの悔しさの方が強いかもしれない。


 その顔が…………声が…………悔しさを表している。


 そんなゼークの横では、一真がシェルクードをテントに戻そうとしていた。


「シェルクードさん!!大火傷だったんだから、あまり動いちゃ駄目だって!!それに、興奮したら、傷が開く!!」


 一真は注意するが、シェルクードはその場を離れようとしない。


「くそっ!!ランカスト将軍がやられたんだぞ!!こんな傷で寝てられるかっ!!」


「だから、今騒いだって仕方ないだろ!!」


 そんな一真の頭の上に、アヒルのヌイグルミ…………ガーゴが飛び乗る。


「しょうでしゅよ!!ランカスト将軍が、ぶはぁ~~でも、お前は寝てるでしゅ~」


 そんなガーゴを航太は怒りに満ちた表情で、首を持つと地面に叩きつけた。


「ガーゴ!!煩せーぞ!!一真も、このアヒルを黙らせろ!!」


 苛々する航太を横目に、一真もランカストの遺体を見つめる。


「出発前に嫌な予感がしたんだ…………もっと強く止めてれば…………」


 一真が呟く。


「大分、騒がしくなっちまってるな…………」


 ガヌロンをアルパスターに引き渡した後、戻って来たオルフェが騒ぎに気付いた。


「オルフェ将軍!!貴方程の騎士が付いていながら…………何故、ランカスト将軍を守ってくれなかったんだ!!」


 オルフェを確認したシェルクードは、その襟首を掴み声を張り上げた…………

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