叫ぶ智美
「やめて!!悪いのは全部ガヌロンよ!!」
ずっと静観していた智美が、今まで溜まっていた物を全て吐き出すように…………その華奢な体のどこにそんな力があるか分からないぐらいの大声で、オルフェの動きを止めた。
「どういう事だっ!!」
智美に向かって、オルフェが怒鳴る。
今の状況だと、ロキとビューレイストの動きはガヌロンを殺しに行くようにも見えた。
このタイミングでガヌロンを殺そうとするなら、聞かれて困る事があるとしか思えない。
「私…………ガヌロンとロキさんとの会話、一部始終聞いてたんです。ガヌロンがロキさんのトコに私を迎えに来た時も、今も……………」
智美はそこで一息つき、真っ直ぐな瞳でオルフェを見る。
ガヌロンが捕まり、フェルグスが事の顛末を話した後のロキの動きは早い。
ランカストを殺す為だけに動いていたガヌロンに利用されたにも関わらず、ロキはベルヘイム軍との戦いを止める為に走ったのだ。
そんな姿を見て、智美は敵でありながらもロキという人物を信用してもいいと思った。
ロキが傷つけられて、ビューレイストが怒りガヌロンを斬ろうとしているなら、その考えも分かる。
「私を迎えに来た時、そのまま解放してくれようとするロキさんを止めて、ランカストさんをおびき出す為の条件を出したのはガヌロンだし、ランカストさんが殺されるのを止める為に、必死に動いていたロキさんに悪意は感じなかった!!」
智美の訴えを聞いていると、ロキ達が悪くないと錯覚してしまいそうになってしまう。
「ロキさん達はガヌロンに裏切れとか手を貸すとか、そんな事は一切言ってない…………ずっと、私を無条件で返すと言ってくれてたのに…………」
智美の言葉は、真実を伝えているのだろう…………そう思わせる程に真剣な言葉の重みだ。
それでも、親友に刃を向け、殺した目の前の男を許す事が出来ない。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおお!!」
オルフェは心の…………腹の底から叫びながら、オートクレールを地面に叩きつけた。
仮に…………もしロキがガヌロンと結託していたとしても、その証拠は無い。
そして、ここは敵の領地であり、休戦を申し出てくれている敵の大将に刃を向けるのは得策では無いし、そもそも味方である智美がロキの無実を証明する発言をしているのだ。
納得は出来ない…………だが、理解するしかない。
そんな想いが、オルフェを叫ばせた。
「智美、無事で良かった。でも、再開を祝うのは後にさせてね!!」
オルフェの影から現れたゼークが、今度はビューレイストの前に立ち塞がる。
「ランカスト将軍を助けようとしてくれた…………智美が言うから信用はするけど、今はテューネと…………光ってる少女の邪魔はさせない…………あの少女は、何かを伝える為に現れたんだと思うから…………」
ゼークはバスタード・ソードを構えて、ビューレイストとロキを睨む。
ここから先は通さない…………テューネの為にも、ランカストの為にも、邪魔はさせたくない…………そんな思いが、ゼークの心を満たしていた。
「オレも…………乗っからせてもらうぜ!!ソフィーアの想い………繋げなきゃいけない想いを守らなきゃいけないんだ!!」
ソフィーアもランカストも目の前で殺された…………オルフェは、栄光のベルヘイム騎士の1人として…………12騎士の1人として、死んでも尚、その想いを繋げようとする者を護る。
2度も3度も、護れないなんて…………そんな者が、生き残っていては申し訳がない。
ロキとビューレイスト、オルフェとゼーク。
火花が散るかのような状態で、4人の騎士が対峙する。
「みんな…………止めて!!今、ロキさん達とゼーク達が戦う必要無いでしょ??ガヌロンが悪いって分かったんだから…………どうして、優しい人同士が戦わなくっちゃいけないの??」
智美は、戦争の無い世界から来た…………それぞれの陣営の思惑なんて、お構い無しか…………
そう思うと、自然とロキの口元から笑みが零れた。
「まぁ…………このまま静観しても、問題ないだろ??ガヌロンを殺したところで、私の傷が治る訳ではない。私も、智美の友人を傷付けたくはないしな」
そう言うと、ロキがビューレイストの肩を叩く。
「ロキ様が、そう言うならば………」
ビューレイストは、ダーインスレイヴを鞘に戻す。
「って…………智美さーん!!せっかくの緊張感を台なしにして…………航太といい絵美といい…………あんた達は、空気を読まない天才だわ…………」
そう言うと、5人の視線がソフィーアとガヌロン………そしてテューネに注がれる。
そして、ソフィーアの想いが紡がれていく…………




