7-2 決意の裏側
「お疲れ様、サヴィトリ」
タイクーンとの謁見、という緊張感から解放されたサヴィトリがほっと一息ついていると、ジェイの声が聞こえてきた。
声の方に目をやると、大きく手を振り、こちらに近付いてくる。
「サヴィトリ様に何かご用ですか?」
険しい顔をしたカイラシュが、遮るようにサヴィトリの前に立つ。
「何かご用、って……俺、一応正式にサヴィトリ付きの近衛兵になったんですけど」
「わたくしは許可しておりません。それ以前に、サヴィトリ様の御名を呼び捨てるなど許しがたい行為をしやがって今すぐにくびり殺してやりたいくらいですが」
「助けてサヴィトリ殺される」
「二人とも、ここは病人の部屋の前だ。喧嘩なら他でやれ」
サヴィトリは頭を抱えずにいられない。
「サヴィトリ様、これからおこなわれるのは喧嘩ではなく粛清です。ですが、タイクーンの私室の前でおこなうことではありませんでしたね。申し訳ありません」
「サヴィトリ~、この人なんとかしてよ~。怖くて怖くて俺もうやだ」
「貴様! 呼び捨てにするなと何度言えばわかりやがりますか! そんなにその薄汚い舌を切り落とされたいですか!」
「だって、今はまだアースラの遠戚のお嬢さん、って設定じゃないですか。タイクーンになったらちゃんと改めますよ」
「……切り落とされたいようですね」
「わお。どうしよう、この人全然話が通じな~い」
(……面倒くさいから放っておこう)
サヴィトリは一人足早にその場を去る。
次期タイクーンになるということを決意してしまったのは、この二人が原因だった。
目蓋を閉じるだけで、まだ鮮明に甦ってくる。じくじくとした棘の痛みと共に、あの時のことが。




